第24話 ????

 ーアルステータ山脈 洞窟の奥にてー


 リューマは洞窟の中にある祠の中身を手に取り、まじまじと観察していた。そしてお目当てのものではないと分かるとリューマは大きなため息をついた。


「はぁ…またハズレがじゃ…。まったく…ついとらんぜよ…。」


 リューマは頭を掻きながらぼやいていた。


「せっかく情報聞いて山まで登ったっちゅうのに、また降りんといかんぜよ…。まぁ、もう1個のやつは情報通りじゃけぇよしとするぜよ…。」

「良くない…。」


 声のする方を向くと転送門ゲートが現れ、その中から不機嫌な顔のヨーキが出てきた。ダヴァンもヨーキに続いて出てくる。


「リューマは私の転送門ゲートで連れてきた。だからリューマは何もしてない。」


 ヨーキは転送門ゲートをしまいながらリューマに文句を言っていた。


「ガハハハハ!そんなかたいこと言うながじゃヨーキ。あっダヴァンも待ってたぜよ。」


 リューマはダヴァンを歓迎していたが当の本人は納得いっていない様子でリューマに問いかけた。


「リューマよ。なぜ止めたのじゃ?あそこでやつらを仕留めなければいずれわしらの存在がばれるのじゃぞ?」


 ダヴァンの問いかけにリューマは少し考えた。


「あっもうそこまでいってたかじゃ?すまん。おまんにどうしても頼みたいことがあったけぇ、呼んだだけぜよ。」

「なっ…なんじゃと…。」


 思わぬ回答にダヴァンは呆れてしまった。自分たちの存在がバレるかもしれない状況なのにリューマは自身の私欲のためにダヴァンを呼んだのだ。


「ヨーキ、そんな状況だったんならおまんも手を貸せばよかったかじゃ。」


 リューマはそう言ってヨーキを見るがヨーキはフンとそっぽを向いていた。


「だって私はリューマからダヴァンを連れて来てとしか言われてない。」


 リューマはヨーキの反応を見てやれやれという感じで話を続けた。


「まぁ、過ぎたことはしゃあないぜよ。仕留め損ねたのがわしのせいならわしがあいつにきつく言われるだけじゃけぇ…。そんに…どうせ、あの場面でたくさん魔物を召喚したところであのわっぱは全部倒してたぜよ。」

「そんなはずはない!わしのスキルがあればあやつらなぞ…」

「ほんにそう思ったがじゃ?」


 リューマの言葉にダヴァンは口を閉じた。


「あのわっぱ…あんなヘロヘロな成りしちょるが、身体のうちにとんでもないもんを秘めとるぜよ。たとえ、おまんが大量のブルードレイクやサファイアドレイクを召喚したところでわっぱが本気をだせば足元にも及ばんぜよ。」

「……。」


 リューマの説明にダヴァンは返す言葉もなかった。


(確かにあのガキには驚いた。あの冒険者3人が手も足も出んかったブルードレイクを一振で切り裂くんじゃからな…。サファイアドレイクを倒すときも余裕があったしの…。命拾いしたのはわしの方だったかもしれん。)


「それにわしらの存在がばれたとしても本来の計画さえ進んでれば大丈夫じゃけぇ。」

「そうじゃな…。それについては順調に進んどるわい。」

「ねぇリューマ…。」


 リューマとダヴァンとの会話を遮るようにヨーキがリューマの袖を引っ張ってきた。それに気づいたリューマがヨーキの方を見る。


「どうしたぜよヨーキ。」

「ねぇ、リューマ。これどうするの?」


 ヨーキは祠を指さしてリューマに尋ねた。


「ん?何がじゃ?」

「あれ、開けちゃいけなかったんじゃないの?」


 祠の中では何かが鈍くうごめいていた。


「あぁ、気にすることないぜよ。あれはわざと開けとるもんじゃけぇ…。」


 リューマはそう言いながら祠にあったもう1つの存在を眺める。

 ヨーキは不思議そうに祠を見ながらリューマに聞いた。


「そうなの?」

「あぁ、もうすぐあのわっぱがフガイの森にあるダンジョンに入って例のブツを手に入れるがじゃ…。」

「……前に言っていた男の勘ってやつ?」

「そう、あれを手にしたわっぱは必ずここを訪れるけぇのう。これはその時のための舞台作りぜよ。」

「ふぅん…やっぱりリューマは変な人…。」

「はん、言うちょれ言うちょれ…。」


 リューマはあの少年が強くなるならどんな事でも手を染める。これもリューマの私欲を満たすための1つなのだ。


「そうじゃ、ダヴァンには1つ頼みたいことがあるぜよ。」


 リューマは用事を思い出し、改めてダヴァンの方を見て言った。


「なんじゃ?もしかしてそれがわしを呼んだ理由かの…。」


 リューマは祠に納められていたものをダヴァンに渡す。

 それは大きな両手斧だった。


「ほう…。これはなかなか…。」


 ダヴァンはリューマからもらった両手斧を隅々まで見回した。


「これも下準備の1つぜよ。これがこの祠のもんっちゅうのが分からんようにおまんの好きなように作り変えてほしいがじゃ。よろしく頼むぜよ。」

「…任せろ。すぐ終わる…。」


 リューマに仕事を頼まれたダヴァンの目付きと口調が変わった。


「じゃあ、用もすんだけぇ、帰るとするかのう。ヨーキ、転送門ゲートを頼むぜよ。」

「分かった...。」


 ヨーキが不服そうな顔をして転送門ゲートを開く。リューマは自身の発言に対して怒っていることに気づき、


「まだ怒っちょるんか?悪かったぜよ。帰ったらおまんの好きなダークチョコを食べさせるかじゃ。」

「……10個ほしい。あれは美容に良いからどんだけ食べても問題ない。」

「そんに食ったら太…。はぁ…分かったぜよ。」


 リューマはヨーキからの「それ以上言ったら消す」といった殺意の目を向けられ、耐えれなくなって続きを言うのをやめてしぶしぶ承諾した。

 ヨーキは要望を受け入れてもらえたため、上機嫌になりスキップしながら転送門ゲートへと入っていった。

 ため息をつきながらもリューマはダヴァンと一緒に転送門ゲートの中へと入る。

 転送門ゲートが消え、リューマたちがいなくなった洞窟に残ったのは祠に封印されていたもののみ。

 そして、祠に封印されていたものはゆっくりと動きながら祠から這い出ようとしていた。


 この封印されていたものがワークたちと今後どう関わっていくのか…。


 ……それはまだ先のことである。





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