第22話 謎の老人

 僕はエミリスに突然、目の前にブルードレイクが現れたことを説明した。そしてあまりに突然すぎたので思わずアッパーをブルードレイクの顎にかましたことも説明した。


「本当にワークって運がいいわよね…。普通だったら喰い殺されてたわよ。ブルードレイクは弱点部位以外は鱗で覆われていて、物理攻撃を通さないんだから。たまたまブルードレイクが低い位置にいたから、鱗が覆われていない顎に攻撃することができたけど…。」


 と白目を向いて息絶えているブルードレイクを見ながらエミリスは教えてくれた。


 えっ?何、僕運が悪かったら死んでたの?


「とにかく、突然目の前に現れたことがもしかしたら大量発生の原因と何か関係ありそうね…。さっきの男の人もブルードレイクが突然現れたって言ってたわけだし。」


 エミリスが聞いた男の話によると男は戦士ウォーリアーで魔法使い《メイジ》、僧侶プリーストの3人で 国から頼まれていたカツア湖の調査をしていたそうだ。

 しかし、何も手がかりが見つからず諦めて帰ろうとした時に突然ブルードレイクが目の前に現れ、戦闘に入った。そして突然の不意打ちと準備不足だったこともあり、戦士ウォーリアーの男以外やられてしまい、必死に逃げてここまで来たそうだ。


「話を聞いた感じだと転送系の魔法か召喚の魔法を持った人がブルードレイクをここに連れてきてる可能性が高いわね。」


 とエミリスは言った。


 しかし、もしエミリスの言ったことが正しいとしてその人たちの目的はなんなんだ?ますます訳が分かんなくなってきたぞ。


 僕は頭をフル回転させるが答えを導きだすことはできなかった。

 エミリスも思いつかないのか、


「まぁ、後はギルドマスターたちに任せましょう。私たちはこの人を安全なところに連れていってあげないと。」


 と言って男を連れていこうとしていた。


「ちょっと待ってくれ!俺の仲間は…?あいつらはどうするんだよ!?」


 エミリスの言葉に男はエミリスの両肩を掴んで聞いてきた。

 その問いかけにエミリスは気まずそうな顔で首を横に振った。


「残念だけど…その人たちは諦めた方がいいわ。あなたたちがここに来て何時間立っているか分からないけど、この場所にいないってことはもう…。」


 エミリスはそれ以上何も言わなかったが男は次の言葉が分かり、膝から崩れおちた。

 たしかに僕たちはカツア湖の周辺を探索してブルードレイクどころか冒険者にすら会わなかったのだ。それで男だけ逃げてきたってことは喰われている以外に答えはない。


 エミリスは座り込んで落胆している男の両肩に手をおき、


「今はあなたが目撃者なんだから、ここであなたも死んでしまったら元も子もないでしょ?まずはギルドに戻って状況を報告しないと。」


 と言って男を励ました。

 男もその言葉に反応して、


「あぁ、分かった…。」


 と言って頷いた。


 男がカツア湖で起きたことを報告すれば国の人たちやギルドもさすがに動いてくれるだろう。この依頼は僕たち2人ではどうすることもできないやつだ。


 まぁとりあえずはさっき倒したブルードレイクの素材の採取を…。


「……ぬしらをここから出さんよ…。」

「「「…ッ!」」」


 突然しゃがれた声が聞こえ、僕たちは驚いて声のした方を向く。

 そこには老人がいた。白髪に口を覆う長いひげ、ボロボロのローブを身につけた老人がそこにいた。


 ……気がつかなかった…。いつからいたんだ?

 というかここから出さんっていったい?


「…まさか!あなたもブルードレイクの素材を!これは渡しませんよ!僕が倒したんですから!」


 僕はブルードレイクを取られないように近くにいって覆い被さった。

 老人は冷たい目で僕を見て言った。


「そんなわけなかろう…。元々こやつはわしが召喚したやつじゃ。それをぬしはいとも容易く倒しよって...。」


 うわぁ、恥ずかしい…。ちょっとエミリスも見ないで…。ん?この老人、今召喚って…。


 エミリスもその言葉に気づいて老人に問いかけた。


「召喚って…。じゃあ、あなたがこのカツア湖でブルードレイクやサファイアドレイクを大量発生させてたの!?」


 エミリスの問いに老人は頷いた。


「いかにもわしが召喚したのじゃ。」

「何のためにこんなことを?」

「…それを今から死にゆくぬしらに説明してどうするのじゃ?」


 その言葉を発した老人の目は冷酷な眼に変わっていた。


「さきも説明した通り、これを見たぬしらを帰すわけにはいかん…。」


 そう言うと老人は持っていた大きな杖を振りかざし。


「来い!」


 と叫ぶと何もない空間からブルードレイクを8匹。そして…


「嘘でしょ…?」


 ブルードレイクよりも青く輝く身体をもった希少種プレマのサファイアドレイクが3匹。

 合計11匹が大量に召喚されたのだ。


 男が目の前の光景を見て、震える声で言った。


「ありえねぇ…。召喚師は魔物を1体召喚するのに大量の魔力を消費するんだぞ?あんたいったい何者だ!?」

「そんなこと、死にゆくぬしらに説明してわしに何の得があるのじゃ?まぁ、強いて言うならわしは召喚師ではないし、こやつらの召喚に魔力など使っておらん…。」


 そして老人は杖を僕たちに向けて魔物に命令した。


「ほれ、魔物ども飯じゃ!早く殺したものからやつらの肉と骨を喰らうがいいわい!」


 その言葉でブルードレイクたちは一斉に襲いかかってきた。


「も、もうだめだぁぁ!」


 男は頭を抱えてうずくまった。エミリスは魔法を放つために杖を構える。

 しかし、ブルードレイクたちの動きは素早く、詠唱するエミリスの前まで来ていた。


「だめ…。間に合わない!」

「…姉さん!」


 僕はエミリスの前に立った。


「ワーク!危ないわよ!」


 僕はグライトからもらっていた短剣を懐から取り出した。


 そういえば基本殴って攻撃してばかりだったから剣での攻撃は初めてだな。しかも短剣…。頼りないけどないよりはマシだ!


「一か八か…やるしかない!」


 僕は短剣を高く振り上げてブルードレイクにめがけて振り下ろした。


 頼む…。いいダメージ入ってくれよ…!


『クリティカルヒット!』


 その音声とともに突然ブルードレイクの動きが止まった。

 そしてブルードレイクの中心に縦の線が入った。その線は段々と広がっていき、最後には身体が真っ二つに分かれ、大きな音とともにブルードレイクは倒れた。

 他のブルードレイクたちは切られた仲間を見て、怯んで動けなくなっていた。


「なんじゃ…?何が起きた?」


 老人もあまりに突然の出来事に目を丸くしていたが、すぐにブルードレイクに命令する。


「ええい!何をしておる!早くやつらを殺せ!」


 ブルードレイクたちも我に返り、僕たちに向かって再度襲いかかってきた。


 僕はグライトからもらった短剣を改めて確認した。


 これ、切れ味やばくない…?でもこれなら…!


 僕は短剣を構え、ブルードレイクたちと老人に向かって、


「かかって来いやぁ!」


 と叫んでブルードレイクに向かって走っていった。




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◯魔物

サファイアドレイク:ブルードレイクの希少種プレマ。長い年月を経て青い鱗に磨きがかかり、サファイアのような輝きを得たもの。大抵は冒険者に素材目的で倒されるため、このような輝きを手に入れるブルードレイクはほんの一握りだという。サファイアドレイクは長寿な分、強さもブルードレイクとはくらべものにならない。サファイアドレイクの素材の価値はブルードレイクの何十倍もの価値があるため、遭遇して倒した者は一生遊んで暮らせるほど金額を手にすることができるらしい。  討伐レベル150


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