第20話 ギルドマスターからの依頼

『クリティカルヒット!』


 ギルドマスターの体が地面に叩きつけられて地面が人の形に抉れた。僕は動かなくなったギルドマスターを見てガッツポーズをした。


「やった…。勝った!」


 あっ違う違う…。勝ったじゃなくて合格しただった…。


 とにかく僕はギルドマスターの足を掴んだことで試験の条件を満たして合格できて、さらにはギルドマスターの体を地面に叩きつけて勝利した。

 正直、この策が上手くいくとは思ってなかった。

 今回はギルドマスターが気持ちが高ぶって周りが見えなくなり、着地する場所を僕がえぐった地面にしてくれたから勝てたのだ。もし、少しでもズレていたら僕は負けていたし、不合格になっていただろう。


「わっは!すごいじゃんワークちゃん!」


 ギルドマスターの声がして一瞬だけビクッとなった。


「さすがグライトちゃんが認めただけのことはあるじゃん。」


 そう言ってギルドマスターは上体を起こして立ち上がる。

 その体は地面の砂と土埃つちぼこりをかぶっただけで傷は1つもついていなかった。


 嘘でしょ…。僕はヒールをかけて傷を治したのに…この一撃を受けて傷なしって…やっぱり化物だ…。


「とりあえず、ナーナちゃんの言った条件を満たしたから試験は合格じゃん。さっそく、ギルドに戻って登録の手続きをするじゃん。」


 ギルドマスターは体についた砂や土埃を払うと懐からプレートを取り出し誰かに連絡を始めた。


「あっモントールちゃんじゃん。試験終わったから転送門ゲートよろしくじゃん。」


 ギルドマスターが言った後、目の前に転送門ゲートが出現した。


 便利だな。その機能…。連絡も取れるんだ。でも僕もようやくもらえるんだ!登録できたらまずエミリスとあと、レオナさんも連絡を取れるようにしておこうかな。


 転送門ゲートから出るとモントールさんとエミリス、受付の女性が出迎えてくれていた。出迎えられた僕はまずエミリスから突進まじりのハグをもらった。


「ぐは!」

「ワーク!おめでとう!」

「姉さん…痛いから…。」


 僕はエミリスに離れるようにお願いしたが、聞いてくれなかったので無理やり引きはがした。


「ワークさん、おめでとうございま~す。」

「おめでとうございます。ワーク様。」


 次にモントールさん、受付の女性から祝いの言葉をもらった。


「ありがとうございます。」


 僕は恥ずかしくなり頭をかいた。その後、レオナさんの姿が見当たらないことに気づいた僕はエミリスに聞いてみることにした。


「あれ?レオナさんは?」


 エミリスは引きはがしたことを不服そうに思っていたがすぐに答えてくれた。


「あぁ、レオナさんならなんか用事があるって言って出ていったわらよ。」

「そうなんだ…。」


 僕はもう一度、レオナにエミリスを助けてくれたお礼がしたかった。


「ねぇ、レオナさんのことがそんなに気になるの?」

「いや、もう一回お礼を言っておこうかなって…。顔が近いよ姉さん…。あとなんでまた拗ねてるの?」


 僕がエミリスの機嫌を取ろうとしている時に受付の女性が近づいてきた。


「では今から登録の手続きを始めますのでワーク様のプレートをギルドマスターに渡してください。」


 僕は言われた通りにプレートをギルドマスターに渡した。


「じゃあいくじゃん。ほい!」


 渡したプレートは空高く投げられ、


「……せいっ!」


 戻ってきたタイミングでギルドマスターの拳で受け止められた。


 パリン!


 小さな音とともにプレートは粉々に割れてしまった。


 ……

 …………

 ……………………。


 僕はあまりの出来事に頭が追いつかず硬直していたが、


「はっ…はぁ~!」


 やっと理解して思わず叫んでしまった。


「何してくれてんの!?大事なやつじゃないの!?」


 僕はギルドマスターとか関係なしに胸ぐらを掴んだ。


「いやんじゃん!か弱い女の子に乱暴するなんて最低じゃん!」


 いや、あなた150超えてるよ!それのどこがか弱い女の子だよ!?


「ワーク、落ち着いて。」


 僕はエミリスから引き剥がされた。


「でもどうすんのさ?プレートがないと何も始まらないよ…。」


 などと僕が泣きじゃくっていると、


「まぁまぁ説明しなかったナーナちゃんも悪いじゃん。とにかく見とくじゃん。」


 ギルドマスターはそう言って粉々になってしまったプレートの残骸を指さした。

 粉々に砕かれたプレートは徐々に集まっていく。そして次第に形を成していき、最後は元の形に戻っていった。


「これで登録は完了じゃん。これ、ナーナちゃんだからできるやつじゃん。」


 説明を聞くとこの登録の仕方は必ずギルドマスターたちがなんらかの方法でプレートを割らないと登録できないそうだ。


 紛らわしいんだよ!どうなってんのこの世界は!?


 改めて元に戻ったプレートを手に取って確認する。プレートの中の項目に新しく『ギルド』が追加されていた。


「それを使うことで仲間との連絡も取れるし、別のギルドの場所も把握できるじゃん。さらに依頼もそこで承諾することもできるじゃん。」


 本当に便利だなこれ…。なんかオンラインゲームでやったような気が…。


「ん?」


 なんか依頼のところに『承諾しました』の文字があるんだけど…。


「あぁ、気づいたじゃん。それはナーナちゃんがワークちゃんに頼みたいやつじゃん。グライトちゃんがワークちゃんなら解決してくれるって言ったじゃん。」


 ということはこれが僕の初依頼ってこと!?いったいどんな内容なんだろう…。


 僕はワクワクしながら依頼の内容を確認した。


『依頼内容:カツアに生息するブルードレイクの希少種プレマサファイアドレイクの討伐。推奨レベル:不明』


「……。」


 僕は内容を見て言葉を失った。


 えっと…。なんかレベル不明って書いてあるんだけど…。しかも希少種プレマって…。


「あの…ギルドマスター…。」

「ナーナちゃんでいいじゃん。」

「えっとじゃあナーナさん…。」


 僕は恐る恐る質問してみることにした。


「あの…この依頼、間違ってないですか?レベル不明って書いてありますし…。初依頼にしては重すぎません?」

「間違ってないじゃん。それがナーナちゃんがワークちゃんにしてほしい依頼じゃん。」


 僕の間違いであってほしいという希望はギルドマスターの笑顔の返答で打ち砕かれた。


「最近、ガラナ王国の南にあるカツア湖で希少種プレマのサファイアドレイクがなぜか大量発生する事態が起きてるじゃん。本当ならナーナちゃん行くべきなんじゃん。でももしこの王国にサファイアドレイクが来たら甚大な被害が出るじゃん。」


 そいつ、そんなに強いの…?


「どうしようかとグライトちゃんに相談したらワークちゃんなら解決してくれるってこの手紙に書いてあったじゃん。」


 あの野郎…!次から次へと僕の知らないことをッ!


「だからワークちゃん…。」


 ギルドマスターはそう言って僕の肩に手を置く。


「あとエミリスちゃん…。」


 あとエミリスの肩にも、


「えっ?私…!?」


 呼ばれると思っていなかったのかエミリスは名前を言われて驚いていた。

 そしてギルドマスターはニコッと笑顔を見せて、


「がんばるじゃん!」

「「そんなぁ~!!」」


 僕とエミリスの悲痛な叫びは虚しく響くだけであった。

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