第19話 期待の冒険者候補 現る!

 ワークが試験を受ける1時間前…。


(退屈じゃん…。)


 ガラナ王国のギルドマスターであるナーナ=ギルディーナは机に突っ伏して暇そうに足をパタパタさせていた。

 タンクトップのような薄着に長ズボン、筋肉質な男が着ると似合いそうな服裝だが少女のような見た目の彼女が着ることで不自然さが際立っていた。

 少女のような見た目だが長命族のドワーフであるため、年齢は150を有に超えている。


(なんか面白いこと起きないじゃん。)


 などと考えているとドアをノックする音が聞こえた。


「入るじゃん。」

「失礼します。」


 部屋に入ってきたのはギルドの受付を担当しているララナ=エンスだ。


「ララナちゃんじゃん。今日はどうしたじゃん?」


 ララナはナーナの机の上に手紙を置いた。


「今日はワーク=ラインハルトという方が登録試験を受けたいそうです。それとこれはその方がギルドマスターに渡してほしいと…。なんでもグライト様が…」


 ララナの"グライト"という言葉を聞いてナーナは置かれた紙を開いて読み始めた。

 その手紙には、


 ーよう、ひさしぶりだなナーナ!相変わらず、机で退屈そうにしてるんだろうな。単刀直入に言うがワークの試験、ナーナが相手をしてくれ。その試験によってはナーナが抱えている依頼を解決してくれるかもしれない。

 じゃ、よろしく頼んだぜ!ー


 と汚い字で書かれていた。


「ふん、試験内容を勝手に決めるなんてグライトちゃんもえらくなったじゃん。」

「どうしますか?一応、待機をさせてはいるのですが…。」

「まぁ、様子を見て無理そうだったら別のやつにするじゃん。ラインハルトってついてるってことはアルマンちゃんの親戚だろうし…。一応、試験開始のためにモントールちゃんも呼んでおいてほしいじゃん。」

「承知しました。」


 ナーナとララナは部屋を出て、ワークが待つ広間へと移動する。

 ナーナが広間に入ろうとすると、


「んだと!」

「きゃっ!」


 怒った男の声と女性の悲鳴が聞こえた。


「ナーナ様、少しお待ちを…。何やらもめ事が起きたようです。」


 ララナに言われ、ナーナは広場の様子を確認する。


「生意気なことを言うガキにはお仕置きをしないとな…。」


 そこでは男が女の子の髪を掴んで殴ろうとしているところだった。


(あれは…よく酒場で問題を起こしてる男じゃん。掴まれてる女の子は、アルマンの孫のエミリスちゃんじゃん。)


「やめとくっすよ。おっさん。」


 拳が当たる直前で猫耳の女性レオナ=ライオネルが男の腕を掴んで止めた。



(レオナちゃん…。いつもごめんじゃん。)


 ナーナは男の方を睨む。

 男とその取り巻きたちはよくこの酒場や依頼人と揉め事を起こす常習犯だった。


(てか、あの男たちもそろそろお灸を据えてやらなきゃじゃん。でないと、ここのギルドの評判も落ちるじゃん…。)


 ナーナが考えていると


「この!」


 男がその辺にあった椅子を持ち上げて、レオナに向かって投げつけた。


(危ないじゃん!)


 レオナは気づいていない。代わりに隣にいた少年が気づいてレオナの前に立った。


(あの子がグライトちゃんの言ってたワークちゃんじゃん?目の前に立って何するじゃん?)


 少年は飛んで来た椅子を拳で殴った。

 殴った椅子は大きな音とともに粉々にくだけ散った。


「…。」


 ナーナは驚愕した。


(あれがグライトちゃんが言ってたワークちゃんじゃん…。)


 ナーナは眼をキラキラとさせた。


「わっは!すごいじゃん!」


 目の前の出来事に興奮してしまい、おもわず出てきてしまった。


(ちょっとグライトちゃんを信じて勝負してみようかじゃん。)


「ナーナちゃん、決めたじゃん!君の試験はこのナーナちゃんと勝負することじゃん!」


 その言葉を聞いてワークは不服そうな顔をした。

そしてその言葉に納得していない者がもう一人いた。


「お、おい待てよ!」


 先ほどのレオナに向かって椅子を投げつけた男だ。男はナーナに異議を唱えた。


「ふざけんな!なんで見習いのこいつが登録試験を受けんだよ!しかもあんたとの勝負で合格したやつなんていないだろ!こいつも大怪我して不合格になるのがオチだって!もう少し考え直せよギルドマスター!」


 ナーナは男に冷たい視線を向けて答えた。


「さっき、ここのルールを破って人に暴力を振るっていたのはどこのどいつじゃん?それにレオナちゃんが止めなかったら大事になってたのにそれでも反抗したそうじゃん…。その上でナーナちゃんに文句言える立場かじゃん?」


 男はそれ以上何も言わなかった。


 気がつくとモントールがそばで待機していたので、ナーナは合図をする。


「モントールちゃん!頼んだじゃん!」

「は~い。」


 ナーナの指示でモントールは転送の魔法陣を出す。

 あっという間にナーナたちは試験場所の草原に来ていた。


「じゃ、始めるじゃん。」


 ナーナは拳を構える。


「勝負の内容は簡単じゃん。ナーナちゃんは拳しか使わないじゃん。だから君がナーナちゃんに拳以外の攻撃をさせるか、ナーナちゃんに少しでも触れることができたら合格じゃん!もちろん、ナーナちゃんを倒してもいいじゃん。」


 ナーナはワークと間合いを詰めた。


「言っとくけど…。手加減しないじゃん。」


 ナーナはそのままワークに殴りかかる。ワークは間一髪のところで後ろに下がったが、下がる時に蹴った地面が抉れ、ナーナは体勢を崩した。


(えっ?抉れたじゃん…。)


 その勢いのまま、ナーナの拳が抉れた地面に当たり、さらに深く抉れた。

 ナーナはさらに興奮した。


「わっは!」


 ナーナはワークに近づき、連続で拳を繰り出した。


「"見真似ペースト発動!"【スピド】!」


 ワークは【スピド】をかけて最初は避け続けていたが次第にナーナの連撃が追いつき、ついには拳がワークの横腹を捉えた。


「"見真似ペースト発動!"【シルド】!」


 ワークは保護魔法をギリギリのところでかけた。だが、闘士ファイターの専用スキル【貫通】を持っているナーナにとってその魔法は意味を成さなず、そのまま後ろに吹っ飛んだ。


(あっやば…。やりすぎたじゃん…。)


 ワークは【ヒール】をかけて起き上がった。

 ナーナはワークの実力を確認することができ、これであの問題も解決できると満足していた。


(んー、実力も分かったし、そろそろわざと負けて合格させようかじゃん。)


 ナーナは改めてワークを見る。ワークは何か思いついたのかニヤリと笑っていた。


(なんか考えてる顔じゃん。いいじゃん…。付き合ってやろうじゃん!)


「負けても文句言うなじゃん!」


 ナーナは1歩を踏み出し、間合いを詰める。その瞬間、ワークは地面を蹴って上へと飛んだ。ワークが蹴った地面が抉れる。


(なんだ空中じゃん。なんか策があるわりには案外呆気ないじゃん…。)


 ナーナもジャンプをしてワークへと近づく。ワークとの間合いをつめ、拳を握り、攻撃をしようと構える。


(いくじゃん!)


 ナーナが攻撃する瞬間、ワークは手を前に出した。


「"見真似ペースト発動!"【ファイア】!」


 ナーナの目の前で大きな火の玉が放たれた。


「ッ!しまったじゃん…。」


 ナーナは両腕でガードした。


「こんな攻撃効かないじゃん!」


 炎を振り払い、前を向くとワークの姿が見当たらない。


「どこ行ったじゃん?」


 辺りを見回そうとナーナは地面に着地しようとした。


 ガシッ!


 地面につく直前、ナーナの足が掴まれる。


「…ッ!なんじゃん!?」


 驚いて見ると先ほどいなくなったはずのワークがそこにいた。


(そうか…あれは目眩ましだったじゃん…。)



 ワークはナーナに笑みを向け、


「僕の…勝ちです。」


 ワークの笑みにナーナも笑って返す。


「わっは…。これは…1本取られたじゃん…。」


 そうしてワークはナーナの足を掴んだまま、地面に叩きつけた。

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