第18話 ギルドマスターと勝負!

 …最悪だよ…。


 僕は試験内容を言われて肩を落とした。


 よりによって誰も合格したことないっていうギルドマスターとの勝負になるなんて…。


「お、おい待てよ!」


 先ほどの男がギルドマスターの前に立ち、反論した。


「ふざけんな!なんで見習いのこいつが登録試験を受けんだよ!しかもあんたとの勝負で合格したやつなんていないだろ!こいつも大怪我して不合格になるのがオチだって!もう少し考え直せよギルドマスター!」


 男が文句を言うとそれに応えるかのように男と一緒にいた連中たちも「そうだそうだ!」と野次を飛ばす。


 うわぁ、この人まだ懲りてないのか…。

 っていうかこの試験って負傷者出てるの?それはいやなんだけど…。

 さっきのこともあるし、この人と勝負ってことにならないかな…。


 男の言葉に対してギルドマスターは答えた。


「さっき、ここのルールを破って人に暴力を振るっていたのはどこのどいつじゃん?それにレオナちゃんが止めなかったら大事になってたのにそれでも反抗したそうじゃん…。その上でナーナちゃんに文句言える立場かじゃん?」


 ギルドマスターが男に笑顔で問い詰める。その笑顔で向けられた視線は氷のように冷たく、男とその野次馬たちは蛇に睨まれた蛙のように固まってしまい、それ以降は動かなくなった。


「さて、邪魔するやつらはいなくなったし、始めるとするじゃん。」


 えっと…。結局、この場所でやるの?周りに人いるのに…?

 いや、ギルドマスターさん…周りのこと考えようよ…。

 いくらここがギルドだからって僕が動いたら絶対に他の人も巻き添えくらうって…


「モントールちゃん!頼んだじゃん!」

「は~い。」


 ギルドマスターが名前を呼ぶとどこから来たのかモントールさんがいきなり現れた。


「えっモントールさん!?」

「いきますよ~。転送ワープ~!」


 モントールさんが唱えると僕とギルドマスターの足元に魔法陣が現れて、


「えっえっ!?」


 気がつくと周りの建物が消え、一面に草原が広がっていた。


「ここ、どこ?」


 僕が驚いていると、


「ナーナちゃんが試験をするときは周りに被害が出ないようにモントールちゃんに頼んでこの場所に転送してもらうように頼んでるじゃん。」


 ちゃんと考えてたんだ…。さっきギルドマスターに愚痴ってたの訂正したい…。


「さて、じゃあ始めるじゃん。」


 ギルドマスターが拳を構えた。


「勝負の内容は簡単じゃん。ナーナちゃんは拳しか使わないじゃん。だから君がナーナちゃんに拳以外の攻撃をさせるか、ナーナちゃんに少しでも触れることができたら合格じゃん!もちろん、ナーナちゃんを倒してもいいじゃん。」


 よし…!こうなったらヤケだ!とことんやってやる!


「さぁ、こー」


 言い終える前にギルドマスターの顔が間近にあり、僕の耳元で囁かれた。


「言っとくけど手加減はしないじゃん…。」


 ヤバい!死ぬ…!


 拳を出される前に僕は地面を蹴って後ろに下がった。


『クリティカルヒット!』


 加減する暇がなかったため、100倍の威力になり地面が抉れた。


 あっ、加減ミスった…。


「わっは!」


 僕の目の前にいたギルドマスターも巻き添えをくらった。足元の地面も抉れ、態勢を崩す。

 そして僕に当てようとした拳が先ほど抉れた地面に当たる。


 ボゴン!


 盛大な音とともに地面がさらに深く抉れた。


 えっ?やば…。今の攻撃くらったら僕、確実に死ぬって…。


「楽しくなってきたじゃん!!」


 ヤバい!今距離が離れているうちにー


「"見真似ペースト発動!"【スピド】!」


『クリティカルヒット!』


 僕はアルマンから教えてもらった強化魔法【スピド】を唱える。

 僕はこの5年の間でアルマンから強化魔法を一通り教えてもらい見様コピーした。

【スピド】はその内の一つである。

 これにより回避率と素早さが自分のスキルの効果によって格段に上がるのだ。


 ん?じゃあゴブリンに襲われた時もそれしたらよかったのにって…?

 ………。

 あっほんとだ…。忘れてた😜

 まぁでも突然、ゴブリンの大群に襲われたらそんなこと咄嗟に思いつかないって…。


「いくじゃん!」


 そうこうしているとギルドマスターが拳を構えて距離をつめてきた。

 そして拳を何発も繰り出す。身体強化をした僕は次々に拳を躱した。

 だが最初は余裕で躱していた攻撃も段々と早くなり避けるのがギリギリになっていった。


「っ!あぶなっ!」


【スピド】で回避率を上げてもギリギリ躱すのがやっとなんて…この人、化け物なの?


 そして当のギルドマスターはというと、


「わっは!いいじゃん!いいじゃん!」


 まるで新品のおもちゃでいろんなことして遊ぶ子どものように眼をキラキラと輝かせながら僕に向かって拳を放っていた。

 そしてその拳の一つが僕の横腹めがけて放たれた。


 まずいっ!避けきれない!早く保護魔法をかけないと…。


「"見真似ペースト発動!"【シルド】!」


『クリティカルヒット!』


 拳が横腹に当たる直前に間一髪で全体にシルドをかけることができた。


 ふう…。なんとか間に合った…。


 そう安堵した瞬間、


 メキメキッ!


 異様な音がした。


 ん?メキメキ?


 その音が自分の肋骨が折れている音だということに激痛を感じてから初めて気づいた。


「ガハッ!」


 その勢いのまま何十メートルも後ろに転がった。


 嘘だろ…。【シルド】をかけたのに貫通してダメージが来るなんて…やっぱり化け物だこの人…。


「ペ、“見真似ペースト発動!"【ヒール】!」


『クリティカルヒット!』


 先ほどくらった横腹のダメージを【ヒール】を使って回復し、僕は立ち上がった。


「すごいじゃん!あの攻撃、普通なら保護魔法をかけたやつでも失神するレベルじゃん。」


 いや、あんなもんくらったら重傷ものだよ…!

 どうしよう…。次のあの人の攻撃を受けきれる自信がない…。


 だからといって逃げてるだけじゃ試験合格なんてできないし…。

 なにか他にいい方法は…。


「さぁ、休んでる暇ないじゃん!」


 ギルドマスターが再び拳を構えて、距離をつめてきた。


 ヤバいヤバいヤバい!!考えろ…考えろ!


 僕はふとギルドマスターが言っていた言葉を思い出した。


 ーナーナちゃんは拳しか使わないじゃん。


 僕はその言葉である一つの策を思いついた。


 そうか、これなら…!


 待ってろギルドマスター!今からギャフンと言わせてやる!



ーーーーーーーーーーーーー

 ナーナ=ギルディーナ 156歳

 職業ジョブ:闘士ファイター レベル300


 長命族ドワーフの女性でガラナ王国のギルドマスター。

 一人称は「ナーナちゃん」で気に入った相手には「~ちゃん」とつける。

 彼女が出すギルド登録試験は気まぐれでたまに自身との勝負を試験内容にしたりする。

 その試験内容になると毎回不合格者が出るため、上層部からも厳しく注意されるがまったく変える気配はない。

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