第16話 いざ、王国へ!


 ー助けてー


 ん?誰だ?今、声が…


 僕は目を開けると石造りの古びた通路にいた。


 え、どこなのここ?僕は確か家で眠っていたはずじゃ…。

 もしかしてまた死んだ!?うそ…もう一回人生やり直すの?

 いやだよ!今から冒険が始まるって時にこんな終わりかた…。

 うわぁ~ん!あんまりだぁ~!


 ー助けてよ…。ー


 なんだよ…。僕は今人生を悲観しているのに…助けてほしいのはこっちだよ!


 そういえばさっきからこの声どこから…


 僕は声のする方へ視線を合わせる。そこには通路の端でうずくまっている子どもがいた。

 年齢は僕と変わらないくらいか、その子どもが体育座りで肩を震わせて泣いていたのだ。


 なんだ…子ども…か?


 その子どもがスッとうずめていた顔を上げ、


「助けて!誰か!」


 と大きな声で叫んだ。


 大変だ!


「待ってて!今助けー」


 気がつくと僕はベッドから上体を起こして腕を伸ばしていた。


 今のは…夢か?


「ワーク、どうしたの?」


 その横で、エミリスが目をこすりながら聞いてきた。


「いや、なんでも…」


 僕は今のが夢でよかったと内心ホッとしていた。だって今、僕の目の前にはエミリスが…


 ん、エミリス?

 えっと、ここって僕の部屋だよね…?

 それで僕の隣でエミリスが寝ていて…

 頼む…これは夢であってくれ…。


「どうしたの、ワーク?」


 エミリスは心配そうに僕の顔を見つめてきた。


「わぁ!」


 僕はびっくりしてベッドから転げ落ちた。


 夢じゃなかった…。


「姉さん!なんで僕のベッドに入っているんですか!?」


 僕の問いにエミリスが眠い目を再びこする。


「別に眠れなかったからワークの布団借りただけよ。何も…してないわ。」


 頬を赤らめて言った。


 いや…その反応、絶対なんかしてるじゃん…。


「そっそんなことより今日ギルド登録に行くんでしょ。早く準備しないと!」


 そう言ってエミリスは部屋を出ていった。


 あっはぐらかされた…。なんかエミリスがどういうキャラなのかまだ掴めないな…。


 …それにしても。


 僕は先ほど見た夢を思い出す。


『助けて!誰か!』


「あれはなんだったんだろ…。」


 僕は部屋を後にした。



 そして、僕たちはアルナ村入り口でグライトと合流した。

 グライトが僕たちに気づくと手を振ってくれた。


「おぉ来たか。」

「はい。ところでその紙は?」


 僕はグライトが持っている丸めた紙を指差した。


「あぁ、これはギルドマスターに渡すやつだ。ワーク、登録前に受付に渡しておいてくれないか?グライトからの頼みもんって言ったら多分通ると思うからよ。」


 僕はグライトから紙を受け取った。


「分かりました。ところであの人は?」

「あとちょっとで来るって言ってたが…。」


 グライトが何かに気づき、入り口の方を見る。


「お、噂をすれば…。」


 入り口に小さな歪みが生まれるとそれは段々と大きくなり、最終的に人が通れるほどの大きさになった。

 その歪みから人が出て来た。

 その人は背は僕より少し高く黒髪のショートの女性だった。


「すみませ~ん。遅くなりました~。」


 その人はゆったりとした口調でペコペコと謝る。口調と動作があっていないこの女性はモントールさん。職業ジョブ門番ゲートキーパーの冒険者ギルドに所属している転送係だ。


 そう、この世界ではギルドに登録することでいろいろな国を転送係に頼めば、瞬時に移動することができるのだ。


 最初に聞いた時は驚いたけど。結構、この世界って便利じゃない?

 けどそのためにはその国の冒険者ギルドに登録しないといけないから、結局そこは自力で移動しないといけないんだけど…。


 前回、エミリスが冒険者ギルドに登録しているから一緒に王国まで転送することが可能なのだ。


「よかったわね。私がいるから転送門ワープゲートを使えるんだから。」


 エミリスがふんっと胸をはる。


 なんか道中大変だって聞いたな。ちょっと落ち着いたら聞いてみよう。


「じゃ~あ、さっそく行きましょ~う。」


 モントールさんが歪みの中に入っていく。僕たちも続けて入って行った。


「じゃあな!登録試験頑張れよ!ギルドマスターにもよろしく伝えてくれ!」

「はい!わかりま…」


 ん、試験…?


「あの試験ってなー」

「着きましたよ~。」


 振り返ったが時すでに遅く、転送門ワープゲートは消えていて、ガラナ王国に着いた後だった。


「じゃ~あ、私はこれで~。用事がすんだら転送係にいますので~、お声かけくださ~い。」


 そう言ってモントールさんは足早に去って行った。


「ワーク、どうしたの?」


 心配しているエミリスに僕は恐る恐る聞いてみる。


「姉さん、試験って…なんですか?」


 僕の言葉にエミリスは呆れていた。


「もしかして、知らないの?ギルド登録するには試験を受けて合格してからじゃないとできないのよ。おじいちゃんやグライトさんから聞いてないの?」


 そんな…そんなこと、


「聞いてないよ~!!」


 僕は空に向かって叫んだ。

 その叫びは虚しく空へと響き渡った。





 この後の登録試験、不安なんですけど…。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 モントール=デターハル  21歳

 職業ジョブ:門番ゲートキーパー レベル100


 ガラナ王国の冒険者ギルドに所属している転送係。自身の転送魔法で冒険者たちをガラナ王国に転送している。

 ゆったり口調の割にテキパキと動く。

 言い方や動き方を指摘すると怒って武器で攻撃してくる。

 かつてそのことをからかった冒険者が重傷を負ったという噂もある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る