第5話 VS キラーベア

 最悪だ…最悪だ最悪だ!


 僕はキラーベアを目の前にして恐怖のあまり動けないでいた。


 どうしてこうなった?

 スライムとかゴブリンならまだしも、よりによって冒険者数人で倒せるキラーベアが目の前に現れるなんて…。

 やっぱりあの時にペンダント諦めて家に戻ってたらよかったのかな…。

 いや、今はそんなこと考えている場合じゃない…。

 今は逃げることを考えてないと…。


 キラーベアは僕をじっと見下ろして微動だにしない。僕がどう動くのかを観察しているように見える。


 多分これ、少しでも動いたら確実にやられるな…。

 …ということはこのままずっと動かなければ攻撃されることはないのか...?


 幸い、僕は恐怖で身体が全く動かすことができない。このままキラーベアが諦めてどこかへ行くのを待つことにしようと考えた。


 しかし、沈黙に耐えきれなくなったのか、キラーベアが攻撃を仕掛けてきた。キラーベアは右腕を僕に目掛けて振り下ろしてきたのだ。


 嘘だろ!?くそ!どこか…どこか動いてくれ!


 僕は身体を必死に動かそうとしたが思うように身体が動かない。

 キラーベアの攻撃が当たる直前、なんとか足が動いて後ろに下がることができた。

 だが、完全に避けることはできず、キラーベアの爪が胸をかすめる。服は切り裂かれ、血が飛び散った。

 後ろに下がった時によろけたのと攻撃を少し受けた反動で僕は転んでしまった。

 僕の胸の傷からは血がドバドバと流れていた。そして口からも赤い液体がこぼれ出る。


 そうだ、僕は守がGだ…。こんなかすり傷でも…致命傷になるなんて…。


 僕は痛みに耐えながらも必死の抵抗で後ろへ下がる。だがその抵抗も虚しくキラーベアの1歩ですぐに距離が縮まってしまう。

 あとちょっと手を伸ばすだけで僕を捕まえて食べることができるのにあえてそれをしないのは僕を極限までいたぶって楽しむためだろう。


 僕は魔物にも馬鹿にされるのか…。本当、転生してからろくなことがないよ…。


 そして僕は木にぶつかり、これ以上下がることはできなくなった。

 どのみち体力にも限界が来ていたからこれ以上動くこともできなかった。

 キラーベアもその瞬間を待っていたかのように舌なめずりをして、僕の息の根を止めようと腕を振り上げる。


 はぁ、僕の人生もここまでか…。呆気ないな…。


 今までの走馬灯が蘇る…。


 会社でのブラックな作業や残業、さらには会社のミスを押し付けられ停職処分。

 長年付き合っていた彼女から二股していたことを明かされ、浮気している彼の方が本命だと言われ、フラれる。

 挙げ句、息抜きでの釣りでバナナを喉につまらせ、海に落っこちて…。


 待って…前世でのことしか浮かばないんだけど…。しかも嫌な記憶ばかり…。

 今考えてみたら、転生してからまだ2日しか立ってないんだよな…。

 えっ僕の異世界人生ってこれで終わり?

 エミリスに嫌われたり、見習いになったり、アルマンの手伝いして1日終わっただけじゃん…。

 せめて冒険はさせてよ…。というか重傷なのによく考えがポロポロと出てくるな。自分でもびっくりだよ…。


 ふと右手に小石が触れる。僕はその小石を手に取った。


 どうせ最後に喰われて終わるなら…少しくらい抵抗してもいいよね…。ぼくの力じゃ敵わないんだし…。


「くら…え!」


 僕は手に持っていた小石をキラーベアに目掛けて投げつけた。

 重傷の5歳児が死ぬ気で投げた小石はキラーベアの右足にコツンと当たる。


 まぁこれでいいや…。さぁ引き裂くなり食うなり好きにしろ!


 そう思った瞬間、


『クリティカルヒット!』


 大きな声が聞こえたかと思うと、


 グルァアア!


 キラーベアが雄叫びを上げ倒れ込んだ。


 えっ…何が起こったの?


 よく見ると先ほど小石が当たった右足がなぜか抉れており、そこから血が大量に流れ出ていたのだ。


 今の…僕がしたの?


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