第3話 僕、見習いになりました。

 僕は夕食をなんとか食べ終えることができた。食べている間もエミリスは僕のことをずっと睨んできた。

 ご飯を食べた僕は風呂に入らせてもらい、その後、アルマンに僕が寝る部屋へと案内してくれた。


「ここが今日からお主が寝る部屋じゃ。」


 部屋を見ると何もなく、ただ大きめの布があるだけだった。


 今日、エミリスさんが冷えるって言ってたよね?…これで寝るの?


「すまぬ。探したのじゃが、この布しか見つからなくてな…。今日はこれで我慢してくれ。明日には用意できるじゃろう。」

「…はい。」

「それと先ほどはわしの孫娘が失礼なことをした。根はいい子じゃから許してやってくれ。」


 いや、そうは見えなかったよ?お孫さん、ずっと睨んでましたけど?


「今日はもう疲れただろう。ゆっくり寝なさい。」


 そして、アルマンは部屋を出ていった。


 いや、ゆっくりって言ったけど…これで寝るの?


 僕は部屋に置かれていた布を手に取り、広げる。


「まぁ、我慢するしかないか…。」


 そうして僕は緑色の月明かりに照らされたかたい床の痛みと寒さに耐え、眠りについた。


 そして朝を迎えた。


 結局、一睡もできなかった。僕は眠い目をこすりながら部屋を出る。


「あっ…。」


 その時、ちょうどエミリスと鉢合わせた。


「あの、エミリスさん…昨日は…」

「ふん!」


 僕は声をかけたが通り過ぎてしまった。


 あの態度はひどくない?そりゃいきなり来て一緒に暮らすってなってあっちはいい気はしないだろうけどさ…。


 今日の朝食は昨日よりマシだといいんだけどな…。


 そして朝食は案の定、パン1個だけだった。


 …さすがにこれは怒っていいよね?


「エミリス!これからワークはわしの仕事の手伝いをしてくれるのじゃぞ!もう少し量を増やしてやってくれ!」


 アルマンが代わりに怒ってくれた。エミリスは渋々、僕にパンを渡す。


「あっありが…」

「ふん!」


 またそっぽを向かれた。やっぱり嫌いだ…。


 朝食を終えた僕はアルマン・エミリスと一緒に村にある教会へと向かった。アルマンはそこで仕事をしているそうだ。

 教会へ向かう道中、


「お主には手伝いをしてもらう前に"天性の儀"を受けてもらう。」


 とアルマンは言った。


「"天性の儀"…ですか?」

「うむ、5歳の年に必ず行う儀式でな…。」


 アルマンの説明によると人は生まれながらにして職業ジョブが決まっていて儀式を行うことで自分の職業ジョブが分かるそうだ。その儀式を"天性の儀"というらしい。


「でも、どうやって分かるんですか。」

「それはこのプレートに表示されるのじゃ。」


 そう言ってアルマンは僕に銀色の板を渡してきた。手の平に収まるほどの大きさで重さはスマホを持っている時と変わらないくらいの重さだった。


「儀式の間、このプレートを握り締めておくとそれに文字が表示される。そのプレートは便利でな。自分のレベルやスキルも確認できるし、ギルドに入れば仲間同士で連絡を取り合うこともできて、さらには地図と自分の場所を表示することもできるのじゃ。」


 大きさもそうだけど、性能がスマホと変わらないじゃん…。


 そうこうしている内に教会に到着した。扉を開けると奥には神々しい女神の像があった。


 あれがハーティ本来の姿か…。


 前世であった幼子の姿ではなく、神話にでてくるようなローブを羽織り、整った顔立ちで僕を見下ろしていた。


「さぁ、ワークよ。これより、天性の儀を行う!女神像の前に立つがよい!」


 僕はアルマンに言われた通り、ハーティの像の前に立つ。


「ワーク=ラインハルトよ!プレートを握り、祈るのだ!」


 僕はプレートを両手で握りしめて、前に出して強く祈った。


「フルスティアを造りし神ハーティよ!この者に祝福を与えたまえ!」


 アルマンがそう唱えるとハーティの像から光が出て、僕のまわりを光が包みこむ。やがてその光は手の中にあるプレートに吸い込まれていった。


「これで儀式は終わりじゃ。ワークよ。プレートを確認するがよい。」


 僕はプレートを見る。そこには文字で


 ワーク=ラインハルト


 と表示されていて、その横に


 職業ジョブ:見習い レベル1


 と表示されていた。


 見習い? RPG でもこんな職業ジョブ、聞いたことないぞ…。


「あの、見習いって表示されているんですけど…これ何か分かりますか?」


「見習い」という言葉を聞いて2人は固まった。少しするとエミリスはクスクスと笑いだし、アルマンは額をおさえ、困りはてていた。


「あなた、まさか見習いになるなんて、終わったわね。」


 と笑いながらエミリスは言ってきた。


 えっ、そんなにヤバいの?


 アルマンは軽く咳払いをして説明してくれた。


「ワークよ。お主には説明する必要はないと思って話していないことがあるのじゃが…この世界では"はずれ職"と呼ばれている職業ジョブがあってな、その"はずれ職"の中でも見習いは最弱の職業ジョブと言われているのじゃよ。」


 …ということは…?


 アルマンは続けて言った。


「お主は本当に運が悪い…。冒険者になることは諦めた方がいいかもしれん…。」



 僕の人生、さっそく詰みました…。





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 はずれ職:国によって異なる。ひどい場合は追放されたりする。その中でも「見習い」はすべての国で「最弱のはずれ職」として認知されている。






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