第2話 第2の人生も下り坂……。

 どういうこと?目が覚めたら荒れ地にポツンと1人であたりは何もない……。

 突然の状況に戸惑いながら辺りを見渡していると…。


「なんということだ……。」


 目の前には白髪まじりで口周りにひげのある老人が驚いた様子で立っていた。この老人、立ち振舞いといい服装といい、よくみるとRPG に出てくる神官のような格好をしている…。


「君、どうしてここに...。名前はなんというのだね?」

「名前……。」


 たしか、記憶の中で両親がワークと言う名前をつけていたことを思い出した。


「ワーク…です。」

「ワークか…。年はいくつか分かるかね?」

「…5歳です。」


 ん?生まれてから5歳までの記憶飛びすぎじゃない?もっとあってもいいような気がするけど…。


「ふむ、すまんかった。突然わしの目の前に現れたからな、驚いてしまった。ん…その手に持っている紙は?」


 そう言われて僕は右手を確認した。気づいてなかったが手には丸められた紙が握られていた。


「その紙を見せてもらってもいいかの?」


 僕は言われた通りに老人に紙を渡す。その紙には文字が書かれていて、老人はその紙を読んでいく。すると老人の顔は段々と青ざめていった。


「これはなんと…。」


 老人は読み終えた後、軽く咳払いをし、


「非常に心苦しいがワークよ。どうやらお主は捨てられたようじゃ。」


 えっ…僕、捨てられたの? 


 僕は呆然と立ち尽くした。

 あの涙って僕を捨てるのがいやで泣いていたのかな…。

 でも僕はこの先どうすればいいんだろう。


「そこでどうだろうか……わしはアルナ村の神官をやっていてな、神官としてお主を見過ごすわけにもいかん。わしの仕事の手伝いをしてくれるかわりに一緒にアルナ村で暮らさないか?」


 やっぱりそうなるよね…。ここで断ったら野垂れ死ぬだけだし、ここは提案を受け入れよう…。

 あとやっぱり見た目通り神官だったんだ。


「お願いします!」

「うむ、ここからアルナ村まで少し距離があるが歩けるか?」


 ん?そういえば飛ばされるまでの記憶では何も食べていないような…


 そう考えた瞬間、まるで体を吊り下げていた糸が切れたかのように僕の体は崩れ落ちた。


「何も食べてないのだな…。よし、わしがおぶってやろう。」

「すみません…。」


 そうして、僕は老人におんぶされてアルナ村に向かうことになった。


「名乗るのが遅くなってしまった。わしはアルマン=ラインハルトという者だ…。」


 どうやら、アルマンは隣村での用事を済ませた帰りの道中で魔法陣が現れ、魔法陣から僕が出てきたことを説明してくれた。


「あのような高度な移動魔法は久しぶりじゃ。お主の両親は相当レベルの高い魔法使いなんじゃな。」


 その両親が僕を捨てるなんて何かよっぽどの理由があったんだろうな…。

 そういえば、あの神様から「私が作った世界に転生させる」って言ってたけど、すぐに飛ばされたからどういう世界かまでは聞いていなかった。 

 アルマンの話を聞く限りだと魔法が使える世界なのはたしかなんだよな…。


「アルマンさん。僕、記憶がないせいか、今いる国の名前とかが分からないんです…。もしかしたら何か思い出せるかもしれないので教えてもらっても……」


 僕は記憶がないことを理由にこの世界のことを聞いてみることにした。


「そうか…。では教えるとしよう。まずこの世界の名は『フルスティア』と言ってな、2人の創造神ハーティとダンネルが力を合わせて造った世界だ。」

「……。」

「…何か思い出したか?」

「いえ…。」


 ハーティという名前が出て驚いた。

 本当に世界を管理してたんだ…。適当なところや無責任なところがあったからにわかに信じてなかったけど...。ちゃんと神様ではあったんだな。

 アルマンは続けて説明した。


「ハーティは多種多様な種族を造り、その者たちに知恵を授け、ダンネルは6つの大陸と魔物を造った。そして人々は魔物を倒す手段として魔法を作り、戦士ウォーリアや魔法使い《メイジ》などといった職業ジョブなどが誕生した。さらにギルドなどを立ち上げたりしてフルスティアは栄えていったのじゃ。ちなみにお主が質問していた今いる国の名前はハントラス大陸のカラナ王国で、わしらが向かっているアルナ村は王国の東側に位置しておる。」

「そうなんですか。ありがとうございます。」


 アルマンの説明を聞いてもう1つの疑問が生まれた。この世界「フルスティア」はハーティともう1人ダンネルが創造したと言っていた。でも僕が転生前に会ったのはハーティ1人だけだった。


 説明の時も2人とは言わず、「私が管理してる」としか言ってなかったし、何かあったのかな?


「ついたぞ。ここがアルナ村じゃ。」


 考えている間にアルナ村に到着した。この疑問もいずれ解決するだろう。考えすぎてお腹が空いた。そういえば何も食べてないんだった…。


「まずはわしの家でご飯を食べよう。孫が料理を作って待っているだろうからな。」


 へぇ、孫がいるのか…。まぁこの年なら孫もいて当然か。


「ただいま。エミリス、帰ったぞ。」


 アルマンがそう言ってドアを開けた。


「……。」


 ドアの前にはポニーテールで茶髪の黒い瞳の女の子が不機嫌な顔をして立っていた。


「遅い!」


 女の子は両腕を組んでさらに不機嫌になってアルマンに詰め寄る。


「すまん…。少し問題が起こってな…」

「寄り道しないで帰ってくるって言ってたよね!!今日は冷えてたから暖かいスープを作ったのに冷めちゃったじゃん!」

「すまなかった。それでエミリスよ、お前に話があるのだが……」


 そう言ってアルマンは後ろにいた僕を紹介した。


「彼はワーク。捨てられていたところをわしが拾ってな。今日からわしの家に住んで、教会の手伝いをすることになった。」


 エミリスと呼ばれた子は目を丸くする。


「はぁ!?聞いてないんだけど!寝る場所はどうするの?」

「寝床はわしの使っていない部屋を貸す。それでいいだろう。ワークよ。自己紹介を…。」


 そう言われ、僕は一歩前に出て自己紹介をした。


「はじめましてワークと言います。5歳です。今日からよろしくお願いします。」

「……エミリス=ラインハルト。年は7歳…。よろしく…。」


 エミリスは不機嫌ながらも自己紹介をしてくれた。

 黒い瞳に心奪われそうになった。ポニーテールも腰まであって僕の理想のタイプだ。

 不機嫌な顔じゃなければもっといいんだけど…。あっ原因は僕か…。


「それでだな…下の名前がないのも不便だからラインハルトの名前を渡そうと思うのだが…」


 アルマンの言葉にエミリスはため息をつく。


「別にいいわよ。どうせ私に拒否権なんてないんだから...。」

「ワークもいいかね。今日からワーク=ラインハルトと名乗りなさい。」


 そう言ってアルマンは僕を見た。


「ありがとうございます!」

「よし、ではエミリスよ、ワークのためにごはんを作ってくれないか?」

「わかった...。」


 エミリスは返事をしながら僕を睨んで来た。


 やっぱり僕って歓迎されてないよね……。


 少ししてからテーブルにごはんが並べられていた。

 アルマンとエミリスの前にはパンと暖かいスープが置かれていて、そして僕の前には、


「……。」


 黒焦げのパンと蒸かしたいもが置かれていた。


「エミリスさん…これは……?」


 僕は恐る恐るエミリスに聞いた。


「2人分しか作ってないんだからあるわけないでしょ?今日はこれしかないんだから我慢してよね!」


 こうして僕の第2の人生は下り坂から始まった。そして僕は確信した。


 ……うん、僕はエミリスが大っ嫌いだ!



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