8月21日 フォンセバドン〜ポンフェラーダ 快晴

これが鉄の十字架か。なんか思っていたよりもショボい。高さが20メートルくらいの木の柱の頭に十字架が乗っている。名前からしてたぶん鉄製なのだろう。木の柱の根本部分はたくさんの石で塚になっていて、木柱をしっかりと支えている。周囲で記念撮影に勤しむ巡礼たちとの縮尺で言えば確かに20メートルなんてこんなもんだろう。昨日、フォンセバドンに向かう登り坂から見えた柱は鉄の十字架じゃあり得ない。このサイズじゃ見えるはずがない。あまりにも拍子抜けだったけど、ほかの巡礼と同じように僕も写真を撮りまくった。サムエルとレアに写真を撮ってもらった。


鉄の十字架にがっかりするのは僕だけではないようで、レアも「もっと大きいと思ってた」と言っていた。アレを見て感激する巡礼なんて本当にいるのか?


今回が2度目の巡礼だという「恋の予感」のタトゥー男が、十字架の土台に自分の住む町から持ってきた石を置く事の意味を説明してくれた。彼によればこうだ。人生には良い経験も悪い経験もある。全ての過去が現在の自分を作っているのは間違いないにしても、忘れたい過去、無かった事にささたい過去がある。石を十字架のたもとに置いてくることで、それらの過去をここに置いて来ることができる。僕はこれを聞いて感心した。こんなに都合の良い考え方はなかなか無いと思う。


ここからは下り坂。足元は土道も砂利道も岩道もあるけれど、ほとんどは草木に囲まれた自然路だ。鉄の十字架が拍子抜けする代物だったのは別にしても、この道は巡礼に相応しい、美しい路だと思う。どこを見ても山や松林が見える。アスファルトの舗装道路から離れているのもまたよい。四国遍路ではこうした自然路を多く歩いたけれど、カミーノでは珍しい。もちろん歩きやすくはない。でも、中世の巡礼も今僕が歩いているこの路をまさに歩いていたんじゃないかと想像すると、巡礼気分が盛り上がる。


いくつかの小さな町を経由してポンフェラーダに着いたのは15時ちょっと前。昨日よりも長い道のりを昨日よりも短い時間で歩いた。歩きにくい道が多かったけど、基本的には下り坂だったからかも。でも、その分、今日は結構膝にきた。


ポンフェラーダはこの後の巡礼で訪れる予定のどの町よりも大きな街だ。でも、町の規模うんぬんよりも、町の西側にある巨大な城の存在感が大きい。全くの偶然だけど、今日は水曜日で界隈の博物館もお城もすべて入場料が無料らしい。お城に行ってみると入場料無料を狙って、結構たくさんの家族連れが門の前に集まっていた。通常料金は6ユーロ。浮いたお金でバーでビールが2杯飲める! チケットは買う必要がないけれど、チケット売り場で「どこから来ましたか?」と訊かれた。スペイン人は住んでいる県を答えている。中に入ると順路を示す黄色い矢印がある。誘導係の女性に「カミーノと同じですね!」と言うと、笑いながら「そうなんです」と答えてくれた。


ヨーロッパのお城を見るたびに思うけれど、総石造りの建物は本当に頑丈そのもの。ポンフェラーダ城は12世紀、今から800年前に建てられたそうだけど、よくまあまともな建築機械もない大昔にこんな代物を作りあげたものだ。領主の権力は現在のどの国の独裁者よりも遥かに強大だったんじゃないか。順路通りに進むと城壁の上の通路や塔の中の小部屋などを見て回れる。城壁の内側には中庭というには広い空き地がある。以前はここにも何か建物があったんだろう。中庭の奥にある城の内部は当時のポンフェラーダの生活を伝える展示コーナーになっていた。一応ざっと見ながら進んでいたけど、実はこの頃には暑くてそれどころじゃなくなっていた。城の見学は大部分、城壁の上の通路や中庭の移動、つまり屋外なので、日中の日差しが一番きつい時間帯にはなかなかツラいものがある。それでも全部で60分くらいお城にいた。


日本も入場料無料デーを設ければよいのにと思うんだけど、聞いた事がない。美術館とか博物館とかを無料公開して、とにかくまずは多くの人に来てもらうのは良い事だと思うんだけど。

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