8月7日 サンソル〜ナバレテ 快晴

昨夜、大いに盛り上がった巡礼宿で朝食を済ませ(彼らがいなくて良かった。ちょっとトラウマになっているのだ)今日も歩き始める。時刻は7時。この時間帯だと空はまだ少し暗い。そして涼しくて歩きやすい。明日からも6時半か、遅くとも7時に歩き始めようと決めた。


昨夜も熟睡したので体力気力はバッチリだが、左足首が痛くて歩くのが辛い。筋肉痛なのだろうが、足首に指をそっと滑らせてみると、卓状地(メセタ)みたいに盛り上がっていて、少しばかり深刻な筋肉痛なのかもしれない。下り坂に差し掛かると痛みが増す。おのずと左足首を庇うように歩くのだが、そうすると変に膝に負担がかかる。膝を故障したらそれ以上歩くなど絶対に無理だ。ここは無理せずにゆっくりと歩いていくしかない。


休憩の時、両足首を内回りと外回りに10回ずつ回すようにしてみた。すると、かなり痛みが和らいだ。これに気をよくして、その後は毎回これを繰り返す。ほかにも腰や肩甲骨周りや太腿の付け根などもグルグル回してみた。なかなか良い感じ。


今日はログローニョを通過した。ここはリオハ州の州都で都市と言ってよい規模だ。途中で言葉を交わしたスペイン人の巡礼は「とても美しい街だよ」と言っていたが(スペイン人は街を形容する際によく「美しい」を使う)、遠くから眺めている限り、土色の建物が密集しているだけで美しいようには見えない。でも確かに、ログローニョを歩いていると、都市の中にも緑の公園があり、街全体が自然と調和していて美しい。彼は正しかった。


都市の特徴はなんでしょう? 答えは、誰もすれ違い様に「ブエン・カミーノ」どころか「オラ(やあ)」すら言ってくれないこと。帆立貝をぶら下げて街中を歩いていること自体、場違いな感じがする。


街外れに差し掛かった時、風に乗って花の香りがふわっと漂ってきた。道の両側に咲いている赤、白、ベージュのキョウチクトウだった。ちなみに、僕は植物の名前などほとんど知らないが、グーグル先生に花の写真を見せたら即座に教えてくれた。本当に便利。周りの風景が「辺り一面、山や畑ばかり」という見慣れた景色に変わってきた。ついさっきまで都市の街中を歩いていたのが信じられないくらい。ここまで来ると、すれ違う人は「ブエン・カミーノ」と声を掛けてくれる。


ナバレテに到着。朝7時に歩き始め夕方(実際にはまだ真昼間だけど)17時に宿にチェックインしたわけだから、休憩を含めて10時間歩いた事になる。疲れないほうがおかしい。


ここで困るのが夕飯だ。これだけ歩けば当然腹ペコなわけだけど、スペインの夕飯は遅い。そもそもディナーは20時から、というレストランやバーが多い。ソーテボームは《スペイン時間はスペイン人にとってはよいのだが、旅行者にとっては呪いである》と書いたけれど、僕にも物凄く共感できる。


けれども、毎日新発見がある。宿の人の話によれば巡礼向けの「日替わり定食」は終日提供しているレストランがあるというのだ。ここナラバテでは教会前の3軒のレストランでは定食が食べられる。そう聞けば20時まで待つこともない。


さて、定食の注文方法を書いておこう。その1、定食を食べたいと伝える。その2、サラダかスープを選ぶ(サラダを選択)。その3、チキンかポークかフィッシュを選ぶ(フィッシュを選択)。その4、ワインか水を選ぶ(水を選択)。「水とワイン、どちらにする?」と聞かれたのは初めてだ。ある時、イエス・キリストは水をワインに変えたというが、それも奇跡というほどの事ではないのかもしれない。


僕はそれとは別に生ビールを頼んだ。すぐに飲み干し、この1杯があるから歩けるんだよなあ、としみじみと実感する。2杯目をゆっくりと飲んでいるうちにサラダが来た。未だかつて見たことのないほどのボリューミーなサラダ。山盛りのキャベツ、オニオン、ニンジン、赤キャベツ、コーン、シーチキン。それとてっぺんにゆで卵が乗っている。このサラダだけでお腹が満たされそう。でも案外すぐに完食する。


メインは注文したフィッシュではなくポークが来たが、別に問題はない。腹が完全に満たされた。


今日は宿が素晴らしい。なぜと言って、シャンプーとボディソープが両方とも用意されているから。こんなのは初めてだ。シャワーを浴びて生まれ変わったような気分。両足首のあたりを入念にマッサージすると、少し痛みが和らいだ。今夜はよく眠れそう。

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