第四章 2
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翌日。
コーヒーでも買おうかと、校舎内にある自販機に向かうと後ろをから小池に声をかけられた。
「よっ。」
「……いきなり随分態度変わったな。」
「何よ、悪い?
敵よりは良いじゃない。」
「よっ、は呼び名ですらねぇんだよな……。」
「じゃあ……中川……その……おはよ。」
照れくさそうに言い直してくる。
「お、おう……。」
それにどうにも気まずさを感じていると、小池が急に何かを突き出してきた。
「んっ。」
「あ?なんだよ。」
「昨日のお礼。」
「いや……俺は別に何も……むしろ傘貸してもらったし。」
「あんたがいなかったらあのクソ親父に言い返せなかったから。」
「そ、そうか。」
それを言うなら……俺も小池のおかげで気付く事が出来た事がある。
むしろお礼を言わなきゃいけないのは俺の方だ。
「それを言ったら俺もお前のおかげで気付けた事がある。
それに今気付けた。
だからその、ありがとな。」
それを聞いて小池は一瞬呆けた顔をしたが、その表情はすぐに微笑みに変わる。
「やっぱあんたにありがとうって言われるのなんか変。」
「おいコラ、だから俺をなんだと思ってんだ。」
「さぁね。
あ、チャイム鳴るじゃんお先!」
そう言って小池はさっさと行ってしまう。
俺はその背中を見ながら肩を竦めると、受け取った缶コーヒーに目を向ける。
「マッ〇スコーヒー……ね。」
黄色い缶に英語表記でそう書かれたそのコーヒーは、最近コンビニで見かけた物だ。
プルタブを開け、一口飲む。
「あっま……。」
普段の俺なら見かけはしても絶対買わない。
故にあいつらしい……そう思った。
そしてそれが案外悪い気もしない事も。
そして昼休憩。
「よ、ヤス!飯食おうぜ!」
春樹が弁当をぶら下げて声をかけてくる。
「は?なんでだよ。」
「良いだろー。
今日はお前と食いたいの!」
「気持ちわりーよ…。」
俺が適当にあしらうと、春樹は目に見えてショックを受けたような顔をした。
「た、たまには良いだろー!」
「大体、沢辺はどうしたんだよ。
またフラれたんじゃねーだろうな? 」
「え、縁起でもない事言うなよなー!!」
もしそうならまためんどくさい事になりそうだが、この反応を見るにそう言う訳でもないらしい。
「いや…実はさ。
美波と話し合って週に一回二回はお互いに友達と食べる日を作ろう!
って話になった訳!」
「ふーん。」
「不思議だよなー。
最初からこうやってちゃんと話せてたら喧嘩せずに済んだのに。」
結局この二人が一度別れた原因はそれだけじゃないし、実際は色んな事が積み重なってという部分が大きい。
だからと言ってあの時こうしてたら、こうしてればなんて考えた所で、過去が変えられる訳でもない。
それに、だ。
「…でもお前は後悔はしてないんだろ?」
ずっと近くで見てきたからこそ分かる。
「まぁな。
こうして改めて好きだって気付けた事も、今こうして話が出来るのも、喧嘩して仲直りしたからだと思ってる。」
「そうか。」
この二人はもう大丈夫だろう。
「…あのさ、ヤス。」
何処か言いにくそうに俺の顔色を伺う春樹。
「あ?」
「俺がこうしてしつこく構うの、迷惑だと思ってる?」
おずおずと言った感じで聞いてくる。
それに俺は深いため息で返す。
「女々しい。
めんどくさい。」
「う、うぐっ……や、ヤス…。」
半泣きの顔で睨みつけてくる春樹を見て、俺は肩を竦める。
「別に迷惑なら相手してねーよ。」
「そ、そうだよな。
良かった!」
本当に安心したように息をつく春樹。
「なんだよ、急に。」
「いや…ちょっとな。」
「ふーん。」
そう言えばコイツに言いたい事があったんだわ。
「お前、あのうどんの事を小池に教えたろ?」
図星を付かれたように肩を震わせる春樹。
本当に分かりやすい。
「いや、だってさ。
小池さん、なんかお前の母さんに雰囲気似てる気がしたから。」
「!」
「小池さんなら、ヤスの止まってる時間を動かしてくれるんじゃないかって…。
小池さん自身もお前の事ほっとけなかったみたいだし。」
親に叱られて言い訳する子供のように、ボソボソと言い訳を並べる春樹を見て、またため息。
「ったく…。
余計な事しやがって。
大体お前、あの時は人の心配なんかしてる場合じゃなかっただろうが。」
実際見舞いの日の翌日に話を聞いた後、あからさまに辛そうな春樹を見て引き続き春樹の背中を蹴り飛ばすのが正しいか迷った。
「だってさ…。
俺だってお前の事心配してるんだぜ。」
「余計なお世話だったけどな。」
「うっ……そう言うなって。
それに俺お前の母さんにも頼まれてたんだよ。」
「母さんに?」
「お前の母さん、いつも言ってたんだぜ。
あの子の事が心配だって。
私にもしもの事があったらあの子の事、宜しくねって。
しっかり者のあの子ならきっと大丈夫だけど、私の前では絶対に泣かない子だったからって。
たまには私の前でも泣いて欲しいってお前のずっと言ってたんだぜ?」
春樹のその話を聞いて、また涙が溢れる。
「や、ヤスが泣いてる!」
「うるせーよ。
全く…主人公の癖に脇役みたいな事しやがって。」
泣き顔をいつまでも見られたくなくて、顔を背けながら軽口を叩く。
実際コイツは見た目は普通だか友達もそれなりにいて、グズで鈍感な癖になんだかんだ最後には上手くやる姿は主人公のようで、対して俺は基本一人でいる事が多く、たまにその主人公の背中を蹴り飛ばすだけのモブでしかない。
「いや……確かに去年までの時間は主人公っぽかったけどさ……。
でも今の主役はお前だよ。
ずっと主人公ってのは辛いんだぜ。
たまには脇役もやらせろよ。」
「こう言うのの主人公ってのは多少Mって相場は決まってんだ。」
「確かにMのヤスとかちょっと想像出来ない……。
って!それ偏見だからな!
全作品の主人公に謝れ!」
「断る。」
「…なぁ、ヤス。
お前はどうしたいんだよ?」
「何がだよ?」
「答えはさ、探す物じゃなくて気付く物なんだぜ。」
まるで自分いい事を言った!みたいなドヤ顔で腕を組む春樹。
「お前に名言は似合わねぇよ。」
「ぬがっ!?」
さっきのドヤ顔があっさり崩れてズッコケる。
やっぱコイツ脇役向いてねぇわ……。
「でもまぁ、確かにそれをお前が言うと説得力があるな。」
「お前、褒めてないだろ…?」
でもまぁ今必要な言葉だってのは事実か。
「なんだよ、脇役も出来んじゃねぇか。」
「ふふ、だろ?」
まさか、コイツに背中を押される日が来るとはな。
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