第四章 1

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あの後、雨は止んでいたものの、結局小池を家まで見送って帰った。


家に着き、俺は仏壇の前で本当に久しぶりに泣いた。


久しぶりに聞く自分の泣き声は、まるで別人のように感じた。


そんな俺を、母さんは写真の中からいつもの優しい顔で見ている気がした。


俺は母さんに心配をかけない為に泣かない様に生きてきたのに。


でもそれは結局俺が勝手に自分の中で決めていた事だ。


母さんが望んでた訳じゃない。


「心配くらいさせてよ。


母親なんだから。」


そんな事を考えていると、写真の中の母さんにそう言われている様な気がした。


「ヤス……驚いたな。」


帰って来た親父は、それを見て随分驚いたようだったが同時に安心したように微笑んでいた。


父さんも俺の事をあれからそれまで以上に気にかけてくれていた事を知っている。


あの時だって。


「確かにあいつは泣いてない。


でもあいつは誰よりも優しくて、誰よりも母さんが大好きな俺の自慢の息子です。」


陰口を叩く親戚達の元に行き、ハッキリとそう言い切った親父の背中が頼もしかった。


実際、親父が俺が見てないところで泣いてた事だって知ってる。


でもそれを責めようなんて思わない。


それぐらい、あの時気まずさを振り払ってまで親戚に意見してくれた事が嬉しかった。


「父さんも悪かったな。


心配かけたよな。」


「ヤス。」


また驚いた顔をして、その後また優しい表情をする親父。


「そうか。」


そして少し涙する親父。


「ちょ、泣くなよ。」


「あぁ…悪い悪い、この年になると涙脆くなっていけないな。」


あの時以来、親父が泣いてる姿を見た事は無かった。


やっぱり無理をしていたのだろう。


「今度母さんの墓参りに行こう。


きっと喜んでくれる。」


「そうだな。」


その時にはちゃんと謝れるだろうか。


今こうして気付けた事も、これからの事も自信を持って話せるだろうか。


母さんはそれを聞いてどんな反応をするだろうか。


どんな言葉をかけてくるだろうか。


今すぐ会いたい。


あの時は照れくさかったけど、今なら少しくらい頭を撫でられたって良いから。


でも、もう全てが遅い。


遅すぎたのだ。


母さんを失ったあの日、俺はその時感じた気持ちの名前になら気付いているはずだった。


それは守れなかった悔しさと後悔で。


きっと寂しさや悲しさなんて持っちゃいけない、弱い自分を必死に隠す為に最初から無い物のように目を背けていたんだ。


でも気付いてしまった。


それはあいつが言ったようにただ母さんに対してカッコつけてただけ。


本当はずっと寂しくて辛くて悲しかったんだ。


だってこんなにも痛い。


もう手の届かない所に行ってしまった事が途方もなく辛い。


嗚咽を漏らしながら、それを思い俺はまたこれまで抑えていた分を溢れさせるかのように涙を流した。


そんな俺を、親父も泣きながら抱きしめてくれたのだった。


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