第二章 5


摩耶目線


久しぶりの一人の帰り道。


ちょっと前まではそれが当たり前だったのに、最近は静と帰る事が当たり前だった。


そんな静は今日帰りに用が出来たからとさっさと帰ってしまった。


「私も帰るか。」


一人だと特に何も考えずに歩ける。


帰るタイミングも、歩く早さだって気にしなくて良い。


そのまま真っ直ぐ帰っても良いし、思い付きで行きたくなった場所に行って気の済むまで過ごす事も。


何となく今日は真っ直ぐ帰る気分になれず、足をいつもの通学路とは違う道に足を向ける。


駅前辺りに出ると一通りも増えてくる。


家から学校までが徒歩圏内の私がこの辺りに来るのは、こうして寄り道をする為に来る時ぐらいだ。


「新しくオープンしたクレープのお店でーす!


美味しくて種類も豊富なので是非一度来てください!」


チラシ配りのお姉さんのそんな声が耳に入る。


「クレープかー。


ねぇ静、今から……」


横を見て今日は一人だったのを思い出す。


「何やってんだか。」


自分に呆れる。


ついこないだまでずっと一人だった癖に、いざ友達が出来るとこれだ。


あの時はそれが普通で、でも今は。


「なんかちょっと寂しい……かも。」


自分がそんな事を考えるなんて、これまでは考えもしなかった。


そんな物だなんて。


仕方ないからだなんて自分に言い聞かせて。


一人でもそれなりに楽しめればいい。


でも、きっと本当はいつだって寂しかったのかもしれない。


大切だと思っていた人に裏切られ、人を信じる事が怖くなった。


誤魔化すように一人で色んな事をした。


カラオケも、カフェも、買い物だって。


そうやって必死に目を逸らしてきた。


それが余計にまた自分を寂しくさせている事からも目を逸らして。


そんな私に、静と言う友達が出来た。


私と同じ、友達を作るのが下手で。


不器用で臆病だけとたまに一直線な事もあって。


真面目で、たまにドジでほっとけない。


周りからすれば地味かもしれない。


でも私からすれば藤がフッたのが理解出来ないくらい可愛い女の子。


私が初めて、自分から声をかけてみようと思えた相手。


そんな静の事が好きだ。


もちろん恋愛的な意味じゃない。


そんな趣味は無いし、静に言ったように私は恋をする気なんてない。


そんな事を考えたところで、不意にあの時手を差し伸べてくれたアイツの顔を思い出す。


必死に走った私の手からバトンを受け取ったアイツの。


その時感じたドキドキを。


「な、何考えてんだろ……。


あ、アイツは敵、敵なんだから……。」


ただ暑さで顔が火照っただけ 、久しぶりの全力疾走で息切れしただけに決まってる。


「今日は諦めてヒトカラでもしようかしら……。」


気の迷いを振り払うようにそんな事を考え、馴染みのカラオケ屋がある方へ足を向ける。


思いっきり歌おう、パフェとかも食べようかしら。


「お姉ちゃん!」


なんて考えながら歩いていると、私は見知らぬ女の子に抱き着かれていた。


「…は?」


「お姉ちゃんでしょ?」


そう聞いてくる少女は、私より随分年下であろう筈なのに、背格好はそんなに変わらない。


どういう事なの…。


「ちょっと……離しなさいよ。


私はあんたなんか知らないし忙しいんだから。」


無理矢理に離そうとすると、彼女は目に涙を浮かべる。


「わ!ちょっ!?」


流石にこんな一通りが多い場所で泣かれてしまっては注目を浴びてしまう。


「泣きたいのはこっちの方よ…。」


私は頭を抱え、その少女の手を引いて路地裏に逃げ込む。


「お姉ちゃん…?」


「だから…私はお姉ちゃんじゃないっての。


それよりあんたお母さんとか近くに居ない訳?」


「はぐれちゃった…。」


「なんだ…。 」


ただの…迷子…と言う事なのだろうか。


なら交番にでも連れて行く…?


考えてみたらこの子の母親は近くに居たのかもしれない訳だが、急に泣きそうになったからとは言え人目を気にしてこんな場所に連れ出したのは私だ。


一応はこれ自分のせいではぐれたのでは…と言う可能性もある…。


「仕方ないか…。」


予定は変更、確か交番はここから歩いて数分くらいだし連れて行こう。


そう思って路地裏を抜けたところで。


「真理!」


大きな声でその名を呼ぶのは黒髪ロングの30代後半位の女性。


私はその名前を聞いて嫌な予感を感じていた。


そして、多くの場合その嫌な予感と言うのは当たるものなのである。


「もしかしてあなた…。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る