第二章 3

3


静目線。


廊下で一人ため息。


「駄目だなぁ……私。」


ついさっきの事を思い出し、軽い自己嫌悪を感じていた。


摩耶ちゃんが何かに悩んでいるのは分かる。


それは、先日摩耶ちゃんが言っていた私は恋なんてしないしを聞いてから感じた事だ。


そんな風に思うようになったのには何か理由があるんだと思うけど、摩耶ちゃんの口からその理由は聞けなかった。


そして今日は寝不足気味だと言っていた。


友達が悩んでるのなら話を聞いてあげたい。


少しでも力になれるなら喜んで協力する。


だけど……。


実際自分は恵美ちゃんにも摩耶ちゃんにも助けられてばかりで全然力になれそうにない。


実際先日、摩耶ちゃんには本当に沢山助けられた。


初めて誰かに恋をした事。


それを自覚させてくれたのは摩耶ちゃんで。


そして恵美ちゃんと一緒に応援して背中を押してくれた事。


そして初めての恋で初めて失恋した私の傍で一緒に泣いて、励ましてくれたのも摩耶ちゃんなのだ。


「私だって……友達の力になりたい」


何も摩耶ちゃんも自分が感じたような体験をした上で同じ事を自分がしたい、だなんて事は言わない。


大切な友達が泣いてる姿なんて見たくないし、それを見たら私まで泣いてしまうかもしれない。


でも。


「私ってそんなに頼りないのかなぁ……。」


ポツリと呟く。


確かにこれまで恵美ちゃん以外と深く関わって来なかった私は、人付き合いに関しての経験値が致命的に低い。


それでも摩耶ちゃんが何かに悩んでるのぐらい分かる。


思わずため息。


「あれ?高橋さん。」


「え、あ、佐藤君。


……と。」


「あ、あなたが高橋さん。


ウチは沢辺美波。」


「た、高橋静です。」


さも初対面のように自己紹介を返したけど、実際には彼女の事は知っている。


彼女が彼の手当をしていたのを見た時のショックは、今もトラウマのように強く印象に残っている。


「どうしたの?高橋さん。


ため息なんて吐いて。 」


「あ、えっと。」


「もしかして男子とかじゃと言いづらい感じ?


ならウチが話聞こうか?」


「あ、いや……そう言う訳でもないけど……。」


良い人そうだな。


と、そう感じた。


何より最近いつも一緒に居るのだって知っている。


やっぱり……敵わないなぁ。


まだ少し辛い。


摩耶ちゃんと恵美ちゃんのおかげで少しずつ傷は癒えていると思っていた。


でも実際に一緒に居る姿を見ていると、やっぱり辛くなる気持ちがある。


駄目だ。


いつも通りで居ようって決めたんだ。


これからも友達でいようって。


佐藤君とも約束したし、自分にもそう言い聞かせたんだ。


「えっと……実は……。」


意を決して、私は、二人に話す事にした。


「ふーんなるほど。


小池さんが真面目な顔でそんな事をね。」


「小池さんって……多分あの人よね。」


「ん?なんだ美波小池さんの事知ってたのか?」


「え?あぁいや知ってるって言うか……あ、そうそうあの小さくて可愛らしいお人形さんみたいな子だよね。」


それは間違いなく摩耶ちゃんの事だと思う。


まぁ本人が聞いたら怒るだろうけど……。


「多分そうだと思うけどよく分かったな。


ずっとクラス違ってただろ?」


「いや、まぁそうなんじゃけど……。」


なんだか目を泳がせる彼女さん。


どうしたんだろ。


「そ、そんな事よりさ、その人が恋愛をしないって言うんはそう思いたくなるような何かがあったからなんじゃないかな。」


「そうなのかなぁ。


でも摩耶ちゃん恋愛どころか友達付き合いもなかったって言うし……。」


「それ事実だとしても本人がいる前では言わない方が良いよ……。」


「え、あ……うん……。」


言っておいてあれだが、自分が摩耶ちゃんの立場なら立ち直れないかもしれない。


「う、うーん……。


でもそれだと自分以外の誰かの恋愛関係とかになるんかな……。」


彼女さんが口を挟む。


「自分以外の……?」


「じゃあさ、今日話し合いも兼ねてみんなで何か食べに行かない?


こう言うのは皆で話した方が良い方法思い付きそうだし。」


「そうじゃね。


ウチは別にえぇけど。」


「わ、私も。」


「じゃあ決まり。


そうと決まれば……。」


何かを企むように笑う佐藤君。


何を考えているのかは分からないけど、一人で考えていてもきっと答えは出ないだろう。


ここは頼らせてもらおうと思う。


そして、そんな佐藤君は相変わらず不敵に笑っていて彼女さんにつねられていた。


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