第一章 1
静目線
「ねぇねぇ、摩耶ちゃん。」
2年として最後となる春休みを数週間前に控えたある日の昼休憩。
私、高橋静は、空き教室で友達の小池摩耶ちゃんと昼ご飯を食べている所だった。
「ん〜?」
可愛いらしい弁当箱からタコさんウインナーを掴み、口に運びながら摩耶ちゃんが答える。
「摩耶ちゃんは恋とかしないの?」
「ブフッ!?」
盛大にタコさんがすっ飛ぶ。
そんなに動揺する話題だったかなぁ。
つい最近まで私は自分の初恋に気付いてなかった。
実際最初は友達だと思ってたし、徐々に変わっていく感じ方もより深い友情からだとさえ思っていた。
そんな私に、それが初恋だと教えてくれたのが他ならぬ摩耶ちゃんなのである。
時にはからかわれたりもしたけど、なんだかんだ相談に乗ってくれたり、気付いた時も、私がフラれて泣いていた時も一緒に泣いてくれた、この学校に来て初めて出来た同性の友達だ。
「きゅ、急に何よ……?」
「いや……あの……摩耶ちゃんには沢山お世話になったからもし摩耶ちゃんが恋をするなら私も応援したいなって。」
実際摩耶ちゃんがいなかったら私は好きな人に想いを伝えるなんて出来なかったし、きっとその人の事をずっと大切な友達だと思い続けてモヤモヤしていたと思う。
だから出来るなら私も同じように応援したり、時には協力もしてあげたいなと思う。
「別に良いわよ、そんなの。」
言いながら仕切り直しとばかりに今度は卵焼きを口に運ぶ摩耶ちゃん。
「そうなの?中川君とか良いと思ったんだけどなぁ。」
「ん!?んん!?」
今度は変な所に入ったのか苦しそうに呻く摩耶ちゃん。
「わわ!大丈夫!?」
慌てて私が背中を擦りながらお茶を差し出すと、摩耶ちゃんは鋭い視線で睨んでくる。
「はぁはぁ……なんでそこでアイツの名前が出てくんのよ!
アイツは敵よ!敵!」
「えぇ……結構相性良さそうに見えたんだけどなぁ。」
確かに去年の体育祭みたいに喧嘩したりする事もあったけど……。
なんだかんだお見舞いに行ったりするくらいには心配してるみたいだしなぁ。
そう考えるとなんだか敵って言う呼び方も本心からの物じゃないように思える。
「どこがよ!
あんなやつ全然なんでもないから!」
「そっかー。」
我ながら結構的を射てた気がするんだけどなぁ。
「それに私は恋なんてするつもりないし。」
「え?」
「だから私の事は良いの。」
「いや……でも……。 」
「もう!この話はお終い!」
そう言って無理矢理打ち切られる。
どうしたんだろう。
良かれと思って言った事だけど余計なお世話だったのかなぁ……。
ただ興味が無いと言うより、なんだか恋愛その物を嫌がってるような。
何か理由があるのかな。
気になりはするものの、こうして話を打ち切られてしまった以上深入りは出来そうもないし、無理にして摩耶ちゃんに嫌われたら本末転倒もいいところだ。
でもせっかくだから何か力になれるなら力になりたいなぁ。
「でも摩耶ちゃん、私に何か出来るなら言ってね?」
「だからそんなに気にしなくても良いってにのに……。
あ、じゃあ唐揚げもらい!」
目にも止まらぬ速さで私の弁当から唐揚げを奪い取った。
「あっ、ズルい!」
まぁお礼に弁当のオカズをあげるぐらいなら全然良いし摩耶ちゃんがそれで喜ぶならそれはそれで良いんだけど……。
やっぱりちょっと気になるなぁ。
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