第16話
更に私は階下を広げていく。
これだけ階層を広げても問題ないということはやはり王都は瘴気濃度は濃く発生する場所なのだろう。
もしかしたらダンジョンがなければ魔王城に湧いていた瘴気と同じ濃さになっていたかもしれない。
そうそう、初心者用ダンジョンに訪れる人間は途切れることがないようだ。
人間とは良い関係を保っているはず。
ダンジョン運営に順調な様子に胸を撫でおろしながら更に階層を広げる。
地下七階は魔獣や魔人達の住居だ。今はまだ上階にある区画で事足りているけれど、人間達の街が発展していけば瘴気も増えていく。
もし別ダンジョンに何かあった時、魔獣や魔人を避難させる場所を確保しておいた方がいい。
人間と共に生きている以上、様々なトラブルに対処できるようにしておいて損はない。
私は鼻歌を歌いながらコツコツとフロアを広げていく。
どれくらい広げただろうか……。
気づけば街が一つ分入るほどの広さ。
「ウォール様、立派なフロアになりましたね」
「そうでしょう? この広さなら当分人が居なくても建物だけで瘴気を減らせるわ!」
「近年、勇者の活躍が目覚しいと人間達が騒いでおります。この街以外の瘴気は増えているかもしれませんね」
「そうね! 張り切って作っていたから時間なんて気にしていなかったけど、そろそろ元に戻らないとね!」
アラクネに種を託した後、私とカーくん、ドランは初心者用ダンジョンを後にした。
「ねぇ、ドラン。魔族会議で言っていた高濃度の瘴気が渦巻いている区画、あれはどうなったの?」
「ウォール様、宰相の話ではウォール様がフロアを嬉々として広げている間に濃い瘴気が溢れだし、どんどん区画を広げております。私も宰相と確認しに行ったのですが、中に入る事が出来ませんでした」
「……ドランが入れないほどの瘴気、ね。ファーが動けないのなら私が行くしかないわね。他の区画はどうなの?」
「他の区画は魔王様の種が新たに撒かれ、食い止めている状況です。あまり思わしくはない。魔王様からウォール様に早く動けとせっつかれております」
「そうだったのね! 言ってくれれば良かったのに」
私はショボンとしながらドランに言うと、ドランは真面目に答えた。
「我々はウォール様がやりたい事を優先すべきものだと思っております」
「ふふっ、そうね。人間達なんて私達には関係ないもの。ファーは真面目よね」
そこから私は最難関と呼ぶにふさわしいダンジョンを作り上げたの!!
もちろんたまには他のダンジョンに顔を出しては手直しもしている。
人間の時間で言う五年くらい?
他のダンジョンに比べたらかなり早く出来たんじゃないかしら?
何故そんなに急いだのかと言えばやはり原因は瘴気。
もともと最難関のダンジョンを作りたいと思っていたけれど、瘴気が強すぎて私以外が近づくことが出来なかったの。
もちろんダンジョン内に住む魔族も瘴気が濃すぎて難しい。とりあえず外側だけを急いで作り上げ、魔木を植え浄化作用をしっかりと組み入れたわ。
もちろん私も取り込んだわよ?
そのおかげもあって徐々に瘴気が減り始め、強い魔人が辛うじて住めるほどになった。
一フロアを作るのも時間が掛かっていたけれど、濃い瘴気のおかげでサクサク進んだわ。細部にまでこだわったダンジョンなの!
ある日、ファーストから連絡が入った。
『ウォール、話がある』
突然どうしたのかしら?
私はファーストの呼び出しに驚きつつもファーストの元へ転移する。
「ファースト、急に呼び出すなんてどうしたの?」
「あぁ、ウォール。すまない」
宰相達は変わらずに仕事をしている。
「宰相、今日から数日は休む。部屋には誰も近寄らせるな」
「畏まりました」
ファーストの言葉に宰相は礼を取る。ファーストは立ち上がり、手を取って移動する。
「どうしたの? 突然」
「……あぁ。ここでは話せない」
そう言うと、城の最深部の一室に連れてこられた私。
どうやらここがファーストの部屋のようだ。
私の部屋とは大違い。整理整頓がされているわ。
私の部屋だって綺麗よ? ドランが片づけてくれているもの。
私はベッドに腰かけてまた呼び出した理由を聞く。
「実はな、この城に勇者達がくる」
「勇者? 瘴気を増やしまくっているあの人間? 私のダンジョンを浄化しようとして〆たけど……」
「あぁそうだ。そいつらだ」
「あら、ファーなら大丈夫でしょう?」
「あぁ。俺もそう思ってはいるんだが、問題は聖女のようだ。瘴気を浄化させるからな。俺の中の瘴気に気づいて浄化魔法が掠り、瘴気が吹き出したら大変だろう?」
「まぁ、そうね。この辺一帯が吹き飛ぶじゃ済まないわ。世界の三分の一は瘴気に包まれるでしょうね」
「で、だ。ウォールに渡しておきたい」
「……本気なの?」
「本気だ」
「私に力を渡してしまえば貴方は弱くなるじゃない」
「お前がいれば俺は大丈夫だろう?」
「……でも」
「ウォール、お前だけにしか頼めないのは知っているだろう?」
「分かったわ。後で一杯こき使ってあげるんだから」
ファーストは私の言葉にクスリと笑った。
私達二人は特殊。
昔は私達以外もいたけれど、もう私達しか残っていない。
私は覚悟を決めてファーのベッドに横になる。ファーは優しく私に口づけをした後、そのまま力の譲渡に入る。
長い時を生きてきたファーストが溜め込んだ瘴気を受け入れるだけの器があるのは私だけ。
数時間での譲渡は難しい。
肌を合わせて魔力を受け取っていく。
ただの瘴気を受け取るだけではない。
私達にとっては人間の繁殖に近い行動なのかもしれない。
何日も何日もかかり、ようやく力を全て受けとった私。
「ファー。無事でいてね?」
「……必ずここに戻ってこい」
「もちろんよ」
初めてファーと別れた時のことを思い出した。
きっと大丈夫よね?
私は珍しくファーのことを気に掛けている。ファーストの力を受け取った私は身体に変化があった。
背格好は変わらないけれど、身体の右半分が黒く染まっている。
ファーストは私に大部分を譲渡したからファーストの力を使うことが出来るわ。
ファーストもほんの少しだけど私の力がファーストへ流れたようでファーストの髪が一房ほど白く変化していた。
私はファーの部屋から最難関ダンジョンへと転移した。
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