第14話
驚きすぎて声が出せなかった。
仮面を付けていて本当に良かったと思うわ。私はただここに召使として後ろに控えているだけの人間、そう、ただの召使なのよ!!
そう心に言い聞かせながら、ただただ話を聞いていた。
「ダンジョンを作る魔人? 噂は聞いた事がありますが、本当に存在するのでしょうか?」
「それについては私から答えましょう」
妖術師がファーストの代わりに答えた。
「ダンジョン制作者であるレディ様は多忙の身。高濃度の瘴気が出る箇所にダンジョンを作り力の弱い魔獣達の住処も確保されております。
そういう私もファースト様から生み出されておりますが、レディ様のダンジョンで育ったのです。レディ様は素晴らしい方ですよ。魔王様のパートナーに最も相応しい方ですのでご安心下さい」
まさかのべた褒めに恥ずかしくなった。
穴があったら入りたいわ。
それに私は適当に瘴気の多い場所を選んでダンジョンを気ままに作っていただけなのに周りの環境を変えていたのは気づかなかったわ。
まあ、瘴気が減る事に反対する生き物はいないと思う。
妖術師の言葉にざわついていたが、ファーストが急に立ち上がった。
「問題はこれで解決した。これで魔族会議を終了する。宰相、後は頼んだぞ」
「仰せのままに」
妖術師は宰相だったのね。ファーストが立った事で他の魔人達は一斉に口を閉じて跪いている。
「いくぞ?」
ファーストの声で私は慌てて彼の後を追うように歩き出す。
きっと他の魔人達からあの雌は誰だ?となっているに違いない。
そしてようやく先ほどの執務室へと戻ってきた。
宰相の妖術師は他の魔人達の対応をしているので執務室にいるのは奇術師だ。彼もファーストの補佐をしている一人のようだ。
「ちょっと! どういうことなの? 私がファーのパートナーって。はじめて聞いたわ!?」
私は部屋に入るなり、ファーストに食って掛かった。けれど、彼は気にする素振りをするわけでもなくドカリと椅子に座り、奇術師の出すお茶を口にしている。
「ウォール様、どうぞこちらにお座り下さい。魔の森産の魔植物から採れたお茶なのです」
人間の雌程度の腕力しかない私が全力パンチしてもファーストには全くダメージがないのが悔しい。
むしろ笑っている。
「仕方がないだろう? 毎回跡継ぎで五月蠅い。実際跡継ぎを作ることが出来る魔族はウォールしかいないからな。誰も俺の持つ瘴気に耐えることが出来ないのはウォールも分かっているだろう?」
私はプンスコ起こりながらも用意されたソファに座りお茶を飲む。
「あら、これ美味しいわ! 食べ物なんて最近口にしていなかったから新鮮だわ!」
「お気に召して何よりです。最近魔族の街で食に興味を持ち始める者が出てきて嗜好品の一つとして作るようになってきているんですよ」
「じゃぁ私も王都の初心者用ダンジョンで作らせてみようかしら。あそこなら別の階で魔木も出せるし、魔植物も出し放題だもの」
「それは良い考えです。魔王城にも是非融通していただきたい」
「分かったわ」
私は先ほどまでの怒りは何処へやら上機嫌でお茶を飲んでいると、ファーストはククッと笑っているが、私は無視するに限る。
まあ、ファーストの言っていることは間違いではないからね。
彼が私以外で跡継ぎが作れないことも私が彼以外で子を儲けることが出来ない事も分かっている。
私が誰かから瘴気を貰い子供を作ろうとしても相手から受け取る瘴気が足りないから作ることが出来ない。
魔族は子孫繁栄を重視していないからお互いそこまで興味は持っていないはずだ。最後の選択肢として、あるという事だけ。
気持ちがドライなのもその辺は人間と違うのだろう。
ただ、魔人の中でも人間を魅了し、力を奪う種族は人間の性格寄りになるようなので恋愛感情や嫉妬、人間特有の感情に似たものを持ち合わせているようだが。
「ウォール様、一旦王都のダンジョンに戻りますか?」
今まで空気のように静かに立っていたドランが声を発した。カーくんも私の方に飛び乗り、頭を擦りつけている。
「……そうね。良い考えを思いついたわ! オークの変異種を作って料理人に仕立て上げるわ。オークは食に貪欲だし、美味しい食べ物を開発してくれそうだもの! ね? ファーストもそう思うでしょう? 手伝ってくれるわよね?」
「仕方がないな」
面倒そうにしながらも手伝ってくれるファーストに喜ぶ私。
変異種を作るのは中々難しい事なのだ。
本来はスキルでポコンと生み出す種。
それは主人の瘴気と魔力で作る物。
変異種は途中で主人の力以外が加わらないと作ることが出来ない。
例えば部下のドランにその役目を与えても主人である私の力で生まれたドランは私の魔力が色濃く出ているので変異種は出来にくい。千個に一個出来れば良い方かもしれない。
あとは主人の力不足によるスキルの誤作動。
変異種が例え出来たとしても力不足では欠陥品が殆どなのだ。
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