エピローグ:8年目の春 - 新たな挑戦と深まる絆

 美月、陽菜、そして私が初めて出会ってから8年が経過した春のこと。私たちの人生は、予想もしなかった方向へと進化を遂げていた。


 私は今、国連の環境プログラムで働いている。世界中を飛び回り、各国の環境政策に関わる日々。母親からの虐待で傷ついた少女が、こんな風に世界を相手に仕事ができるようになるとは、かつての私には想像もできなかった。


 ある日、ニューヨークの国連本部でのプレゼンテーションを終えたばかりの私のもとに、美月からビデオ通話の着信があった。


「琴音、すごいニュースがあるの!」


 美月の声は興奮に満ちていた。彼女は、VRアートの先駆者として世界的な名声を得ていたが、最近は新たな挑戦を始めていた。


「私ね、テクノロジーを捨てて、自然と融合するエコアートを始めたの。山奥に巨大なキャンバスを設置して、風や雨、生き物たちの力を借りて作品を制作するの」


 その話を聞いて、私は深く感動した。美月の芸術は、私たちの環境保護の理念と見事に調和していた。


 そして次に、陽菜からも連絡が入った。彼女は、障がい者スポーツの分野で革命を起こしていた。


「琴音、聞いて!私が開発した新しいトレーニング方法とリハビリテーション技術が、パラリンピック委員会に採用されたんだ!」


 陽菜の声には、誇りと喜びが溢れていた。


 私は2人の成功を心から喜んだ。そして同時に、私たち3人の絆がより強固になっていることを実感した。


 数週間後、私たちは久しぶりに3人で再会する機会を得た。東京の閑静な住宅街にある、私たちが共同で購入した家で、3人は顔を合わせた。


 玄関で再会した瞬間、私たちは言葉もなく抱き合った。8年の歳月を経て、それぞれが大きく成長していた。しかし、互いへの愛情は変わらず、むしろより深くなっていた。


 その夜、満天の星空の下で3人は語り合った。それぞれの仕事での苦労や喜び、そして未来への希望。


「ねえ、私たち、すごい道のりを歩んできたよね」陽菜が感慨深げに言った。

「そうね。でも、この絆があったからこそ、ここまで来れたのだと思う」私は静かに答えた。

「2人がいたから、私は自分の芸術を極められた」美月も加えた。


 そして、私たちは新たなプロジェクトについて話し合い始めた。美月のエコアート、陽菜の障がい者スポーツ、そして私の環境政策。これら3つを融合させた、新しい形の社会貢献活動を始めようという案だ。


 芸術祭の最終日、3人は密かに用意していたサプライズを披露した。美月のVR技術と自然を融合したインスタレーション、陽菜の身体表現、そして私の環境データを音楽に変換するプログラム。3人の作品が織りなす空間は、訪れる人々に強烈な印象を与えた。


 パフォーマンスが終わると、会場は静寂に包まれた後、大きな拍手が沸き起こった。


 その夜、私たちは芸術祭の打ち上げパーティーを抜け出し、静かな丘の上に腰を下ろした。満天の星空の下、私たちは8年前の高校時代を思い出していた。


「あの頃は、こんな未来が待っているなんて想像もしなかったね」陽菜が懐かしそうに言った。

「そうね。でも、私たちの絆はずっと変わらなかった」私は優しく微笑んだ。

 美月は黙ってうなずき、2人の手を握りしめた。


「これからどんな冒険が待っているんだろう」陽菜が空を見上げながら呟いた。

「それは、私たち次第よ」私が答えた。

「そうね。でも、3人一緒なら、どんな未来でも乗り越えられる気がする」美月が珍しく雄弁に語った。


 3人は互いを見つめ、静かに抱き合った。

 夏の終わりを告げる風が私たちの髪をなびかせる中、新たな誓いを立てた。


「もっと自由に」

「もっと大胆に」

「そして、もっと愛し合うことを恐れずに」


 漆黒の夜空に、無数の星々が瞬きを放つ。その下で、私たち3人の影が重なり合う。8年の時を経て、再び1つになろうとする3つの魂。


 私は深く息を吸い込んだ。かつて自己否定に苛まれていた少女が、今では世界を変える力を持つ女性になっていた。美月と陽菜との出会いが、私の人生を大きく変えてくれたのだ。


 これから先も、きっと様々な困難が待っているだろう。でも、もう恐くない。美月と陽菜という大切なパートナーがいる。そして、自分自身を信じる力がある。


 私たちは、再び強く抱き合った。その抱擁には、8年分の想いが込められていた。別れの寂しさ、再会の喜び、そしてこれからも共に歩んでいくという強い決意。


 新しい朝の光が地平線から昇り始める。私たち3人の新たな物語が、今まさに始まろうとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る