第3話 赤い蝋2つ、髪留め1つ


 それは魔女と出会って1週間が経とうとする頃だった。

 灰色のローブを被ってその人は来た。

「こちらで薬を作っていただけると聞いたのですけど、あなたがそうかしら」

 まわりの葉を掃いてボロボロの格好だった私はなんだか恥ずかしくなった。「私ではないですけど、どうぞこちらへ!先生、お客様です!」

 魔女はよりによって来客用のソファでごろりと寛いでいた。二重に恥ずかしいの私だけなんだろうな。

 その人はくすくす笑っている。誰なんだろう?

「お客ぅ?」私はしっかりしてくださいと魔女の髪を結い直した。

 するとお客様はローブをとり、顔を見せた。

 私も魔女も息を呑んだ。金髪碧眼の美女ってこういう人なんだろう。まるで王女様のような気品。

「私、ローズと申します。いえ、本当はオーロラだったかしら…。私も事態がよく飲み込めていないのです。

ここからずっと東の森の小屋で16年間育ってきたのだけれど、

『あなたは本当は違う国の王女で、城へ帰らなければいけない。森に居たのは呪いから匿うためだ』

なんて突然聞かされて、今の暮らしが気に入ってる私はとにかくショックで何がなんだか…

混乱してそのまま走ってここに辿り着いた次第です。」

 王女様のようっていうか王女様だった!

でも不安そうにする顔は普通の女の子となんら変わらない。

「私の事は誰に聞いた?」魔女は怪訝そうに訊ねる。

「木々はいつでも私達を見守っていますから。小鳥たちは噂好きですし」と春風のようにふんわりと微笑んだ。

 人間の私には分からないけど、魔女は納得していたし、私も彼女の笑顔を見てきっとそうなんだろうという気がしてしまった。

でも、不憫だなぁ。無理矢理環境が変わらなきゃいけないし、実は王女です、なんて…。

まぁ私なら王女だったら嬉しいような。

「なんで王女が嫌なんですか?」「えっ!?」王女様はすぐに頬を染めた。

「なるほど、好きな男と離れたくないのか。まあ16そこそこならそうだろう。それは権力でどうにも出来ない話なのか?」

魔女も色恋沙汰には興味があるようで割って入ってきた。

 王女様は少し慌てながら話し始めた。

「いつも通り森で小鳥や動物たちと歌って踊っていたの。そこに夢の中で会ったような…そんな彼に出会ってすぐ惹かれあったの。初恋よ。彼の事はもちろん、森のお友達も、母のような3人の妖精もみんな好きよ。どうしても離れたくないんです…」

 王女様は瞳を潤ませて俯いてしまった。自分の想いが叶わずまったく違う環境に身を置くことになるのだから、未練も寂しさもひとしおなんだろう。

未練…そうか!

 「じゃあ、私と1日遊びませんか!?」

魔女も王女様も私に注目する。

「王女様ではなくて、1人の女の子としての気持ちってことですよね。だったら1人の女の子として今日1日私とやってみたい事全部やって暗くなる前にはいつものお家に帰って一緒に謝りましょ!森の動物さんたちにもまたいつか会いに来るって約束したらいい。そしたら気持ちに区切りがついて、王女様として頑張れそうじゃないですか?」

王女様は一瞬悩んで、私の目を見て微笑んだ。

「いい考えだわ!家の周りしか知らなかったなら知ればいいものね!そうしましょう」

 ただ、この考えには1つ穴がある。そこで魔女だ。

「先生、彼への想いの方は魔法でどうにか出来たりしませんか?」彼には森に居ても会える確証はない。

想いを伝えられるとも限らないし、両想いになったとしたら尚更離れがたいはず。

 王女様も私も縋るように魔女を見つめた。

魔女はやれやれと呆れている。だめなのかな。

「無い」ああ、だめなんだ…。

「ことも無い」

 王女様の顔がぱっと明るくなる。

 こんなに彼の事で一喜一憂するんだ。素敵な恋なんだ。

「ただ、それには対価を貰う。うちの助手の1日を差し出す分もね。何が出せる?」

 王女様は混乱のまま駆けてきたんだからきっと何も手持ちは無いのだ。この時の焦りを私はよく分かる。

 先生、と口にしようとしたその時魔女が先に王女様に声をかけた。

「帰りは送ってやる。家に何かあるか?例えば自分で育てたハーブなんかでもいい」

「それなら、毎日お世話した白薔薇がちょうど咲いてます。いかがかしら」魔女はぶつぶつ何か言い出した。

それから10分は経っただろうか。2人で魔女を待っていると

「帰れば妖精が3人居るんだっけ?」「はい、居ますわ」「じゃあその3人にも手伝ってもらう。これは魔法使いの魔法だけでは手間がかかりすぎる。妖精達に上手いこと話してくれ」「わ、分かりました」

魔女の企みはなんだか全く分からないけど、何か考えがあるに違いない。

「じゃあ街にでも」「待て、そう急ぐな。まずは蝋燭を作る。お茶でも飲んで2人で話しててくれ」蝋燭?

「出来上がったらそこの王女様にもやってもらう」「は、はい…?」

魔女は要件を言わない。だから困るんだけど私は少し慣れ始めたところだった。

 

 王女様にお茶を淹れる経験なんて後にも先にもなさそうなことを私はやり始めた。緊張で手が震える。

「私はカップを温めるわね、ゆっくりやりましょう」

 王女様の気遣いはさりげなくて、春の陽射しより温かい。私は三人兄弟の1番上だけど、きっと姉がいたらこんな感じなのかも。2人で淹れるお茶は美味しくて、話してる時間はあっという間だった。

「ほら、そこの王女。蝋燭が出来たよ。これから始めるのは儀式のひとつだ。ちゃんとやってくれ」「はい」

「〜〜の魔女のもとに、儀式を開始する。夜を呼び起こせ闇よこの空間を包め。星明かりのもと、オーロラの想い掬いあげよ」

魔女が呪文を唱えると家の中は夜中になった。

 窓から見える昼の陽射しと共存しているのが不思議だった。

「さぁ、ここからは王女、お前しか喋るんじゃないよ。その彼を思い浮かべるんだ。そしてその想いを声にのせて一言つぶやくんだ。love。それだけを」

 王女様は目を閉じて彼を思い浮かべ始める。

赤い蝋燭に火が灯る。星たちがきらめきを増す。

王女様は頬をさっきよりも染め、潤んだ瞳をあけて蝋燭の火を見つめる。彼の笑顔でも見てるのかな。

 そして恋する乙女の顔で聞こえるか聞こえないかの声でそっと呟いた。「love」。

私はその乙女の声を聞き逃さなかった。

 

 家の中から星空は帰り、時間はまたありのまま進む。

 蝋燭の火は消えていた。「上出来。出かける支度しな」

 

 私と王女様は言われるがままお出かけの支度をし始めた。あら、と王女様は私を見て動きを止める。

「陽の光を反射してあなたのバレッタきらきらしてるわ。猫っ毛も愛らしくて雀色の髪に木苺みたいなバレッタが合ってるわ。瞳もまるでエメラルドみたいに深い緑でそばかすだって可愛らしくて素敵。バレッタの宝石はレッドベリルかしら」

「ええ?ただの猫っ毛ですよ。みっともないから纏めなさいって母に言いつけられて付けてるだけで…。その、恥ずかしながら宝石や鉱石の類には疎くて。レッドベリルっていうんですか、これ」

 あら、知ってるものだと思ったと王女様は続ける。

「そうよ、確か宝石言葉は」「「聡明、癒し」」「だろ」

 振り返ると薬を瓶に詰める魔女。隣を見ればにこにこと嬉しそうな王女様。

「あなたにぴったりね、ベリル」

 王女様は名前で呼んでくれるんだ。

魔女はいつまでもお前呼びだから、なんだか嬉しくなった。

「ありがとう、ローズ」そう、お茶してる間私達は友達になった。

ローズで居られる間だけかもしれなくても、私には充分だった。

「先生は準備終わったんですか?」魔女が背を向ける。

「してないんですね!?」

「わ、私の準備は助手のお前の仕事だ」まったくこの人は。

黒革のポシェットに必要な物を詰めて、気付けばぼさぼさなローポニーをまた結い直す。ボロッボロの白衣を脱がせ、麦わらのハットを被せる。

「そこの王女」「先生、違います」「なんだ」

 そっと耳打ちをする。

 

 __今から出掛けるのは女の子3人で、そこに居るのは王女じゃないローズなんですよ。

 

「そうか、そうだな。失礼したねローズ」

「いいえ、私も分からなくなるもの。でも今日帰るまではローズで居ていいのね」ローズも魔女も上機嫌だった。

 

 ネージュの森を西から降りるとちょっとした市井が広がってる。この先は港町に繋がってて貿易も盛んなのかたくさんの出店があって目移りしてしまう。

 お花、アクセサリー、文具に雑貨。全員がお互いの身分や年齢なんかすっかり忘れてあれが可愛いこれも可愛いとまるで放課後の女学生みたいにはしゃいだ。

 ローズはやっぱりお花が好きなようだし、魔女はいつの間にか果物を買い食いしていた。

 目についた喫茶店でも珈琲を頼む魔女、フロートを頼む私、初めて飲むコーラに驚くローズと三者三様だった。

お菓子を分け合ったり、相手に食べさせたり、店を出ても港に公園に街の中心部とあちこち回った。

この時間を誰も後悔しないように全員が思いきり楽しんでいた。

 

 ゴーン、ゴーン…

 夕暮れを告げる鐘が鳴る。

「…森へ向かおう」私とローズは魔女の言葉に黙って頷いた。

 

 帰ったら妖精さん達に怒られちゃうのかな。王女誘拐!なんて言われないよね?なにより私達これからも友達で居られないかな?私がぐるぐる考えて歩みを進めていた頃、ローズは1人立ち止まって何か飲んでいた。

「ローズ?」私の声に気付いてローズはすぐにそれをしまったけど、夕陽が反射した容れ物を私は見てしまった。

「なんでもないわ、喉が渇いただけよ。行きましょ」

 ローズは気丈に振る舞ってるけど、本当は立ち止まりたいのかな。飲んでいたものはきっと魔女の薬だよね。

 魔女はどんな薬をローズに渡したの?まさか忘れてしまわないよね?今日楽しかったこと、みんなが笑っていたこと。不安な気持ちを抱きながら私達はローズが住んでいた森に向かい続けた。

「あ…」ローズが止まった。

「ローズ!」「王女!」「オーロラ!」

 赤、青、緑の衣装と光をそれぞれ纏った妖精フェアリー達が文字通り飛んで来た。

「あぁよかった!無事で良かった!」「本当になんともないのね?ケガのひとつも無いのよね?」「何よあんたたち!まさかオーロラに何かしてないでしょうね!」

 妖精達はそれぞれ自分の思いを話し始めた。

 

「やめて、みんな!私は大丈夫よ。ケガだってひとつもないわ。この人達は私のお友達なの。私のわがままに付き合ってくれただけで何も悪くないのよ」ローズは続ける。

「それに私から頼ったの。それで、私が育てた白薔薇があるでしょう?それを1輪とみんなに魔法の手伝いをしてほしいって。おば様達にしかこんなことお願い出来ないの。ちゃんとお城に帰ります。だから…」

 3人の妖精達は娘を慈しむ母のような表情で王女様を抱き寄せた。ずっとずっとこの森で、小屋の中で、ひとりの女の子を育ててきたんだ。呪いから守りながら抗いながら。種族の壁なんか超えて赤ちゃんの時から今まで。

 

「分かったわ、まかせて」魔女の方に向き直り

「私達は何をしたらいいかしら」それは決意した声だった。

 「4人で合成魔法を。私だけではさすがに手間がかかるのでね」魔女はいつもと変わらない。ただ淡々と話す。

 1人、むくれている妖精が居た。それだけ心配だったんだろう。

「ヴォワおば様、心配かけてごめんなさい。これ受け取ってくれないかしら」そう言って渡したのは緑のブーケ。彼女の衣装と光と同じ色だった。

 フルールおば様、ゲーテおば様、と彼女は市井で買ったそれぞれのブーケを手渡してひとりひとりハグをした。「もう心配かけないわ、きっと立派な王女として努める。今までありがとう」

 それは間違いなく誇り高い王女様の言葉だった。

 

「さぁ、白薔薇を持っておいで。いちばんの気に入りをね」魔女はこの一週間でいちばんの悪どく愉しそうな顔をしていた。左の口角がニイと上がって八重歯がちらりと見える。両眼はワクワクしてたまらないのを物語っている。

 王女様は1輪の白薔薇を摘んで魔女に渡した。

「この子がいちばん綺麗に咲いてますわ、丹念に育てましたからきっと対価になります」

魔女はいつものように鼻をふんと鳴らして

「焦るな。対価になるのはこれから」

 そして魔女と妖精達の足下に大きな魔法陣が現れる。

 魔女は黒革のポシェットからあの赤い蝋燭を取り出した。いつの間に…。

「〜〜の魔女が命ず、妖精達よ応え給え。幾千の星のかけら、舞い散る億の純白の花弁、その者の想いを包め!変化し変化せよモビリスインモビリ!」

 魔女の雪色の強い魔力が閃光になって3人の妖精の力を引き出すのが見ているだけの私にも分かる。

赤、青、緑の光が魔女の魔力に呼応して1つの光の渦になっていく。

 夜空から星のかけらを拾って、赤い蝋燭と白い薔薇と共に吸い込んでいく。突風に包まれる。王女様が危ない。

「オーロラ!私の手を取って!」このままじゃオーロラはあの大きな楓の幹に身体をぶつけるか飛んで行ってしまう。

「オーロラ!早く!」私達はやっとの思いで伸ばした手と手をどうにか取り合い、寄り添った。

 しばらくして突風は止んだ。

 私と王女様が共に胸を撫で下ろしていると空から一筋の光が現れた。魔女は躊躇なくその光の中から何か取り出した。

 

「これが今回の対価だ」魔女の掌にあったのは…

「何これ、色が変わる結晶?」

 きら、きらりと角度を変えて別の色にきらめく。

「金緑石、ですわね」

「あぁ、こいつはアレキサンドライト。色を変えて輝く宝石。確か宝石言葉は」「「高貴、情熱」」

 あの時と同じ、魔女と王女様がハモる。

私達は顔を見合って笑った。

「ぴったりじゃないか、王女様」「そう在るように精進します」

魔女がハッと笑ったのに対し、王女様は片脚を引き、もう片脚の膝を曲げお辞儀をした。

魔女はそっぽを向いてはいはいと答えた。

王女としての気持ちを汲み取った上で、寂しいのだろう。だって今日あんなにも笑いあった相手。もう会えないかもしれない相手。その気持ちはよく、わかる。

 

 涙が、落ちる。

 魔女が私の頭を寄せる。魔女は泣いてこそなかったが鼻の頭を赤くし、ズッと啜る音がした。

 そこに、柔らかな体温と薔薇の香り、細い腕の感触が後ろから私達にまわる。

「ありがとう2人共。あなた達のおかげで私はローズとしての生活を心置きなく卒業出来るのよ。少し、寂しいけれど。でもまたいつか会いに来るわ。だって大切なお友達だもの」

 それはローズの声だった。街で楽しそうに笑ってた少女の声。そうだ、私達は確かに友達なのだ。きっとまた会える日が来る。もう彼女はローズじゃなくても。

「ベリル、さっき突風の中で私の名前を呼んで手を取って助けてくれたこと、嬉しかったわ」

 そうだ、私はあの時咄嗟に彼女をオーロラと呼んだ。オーロラとしての彼女を受け入れることが出来ていた。

上手く言葉に出来ないけど、気持ちを返したい。

「だって友達でしょ」

身分や年齢や種族が違っても、魔法があってもなくても、簡単に会えないとしても認め合うことは出来るから。それが16歳と14歳の少女達が出した答えだった。

気付けば私達は互いに涙を隠すように抱きしめあっていた。私達の頭を魔女の掌が優しく撫ぜる。

「またね、オーロラ」「ええ、ベリル」

 涙目の少女達にそれ以上の言葉は必要無かった。


 __涙の別れから10日程経った。

 私は相変わらず魔女の助手として毎日を過ごしている。

 あの夜から3日後にローズ達の小屋は取り壊されたと先日お兄さんから聞いた。確かめに行くことはしない。そこにはきっと誰もいないし何もないと思うから。

 魔女の材料箱に残っている金緑石と思い出がすべて。

 それだけでいい。本音を言えば会いたいけど、今朝の新聞で隣国の姫が帰還し、長い眠りから目を覚まし、王子と結ばれたという記事を読んだ。魔女がそれを知ってるか私には分からないけど、知りたい事がある。

 

「先生は、ロー……、オーロラにどんな薬を渡してたんですか?あの蝋燭も分からないままだったし」

 魔女は調合の手を止め話し出した。

「あの蝋燭は恋のまじない。思い描く人を呼び寄せて結ばれるようにするものだが所詮はまじない、気休め程度さ。

 渡した薬は眠り薬。呪いを解く効果も乗せたがね。その代わり愛する人のキスで起きる条件付きの物。」

「それじゃあ、想い人が王子じゃなかったらなんにもならないのは解決しないじゃないですか」

 魔女はため息を1つ吐く。

「いいか、これは人間も魔法使いも共通の法律なんだが筋書きストーリーを書き換える事は魔法を使おうが使うまいが禁止されている。運命をねじ曲げるのと変わらないからね。本人の意思なら別なんだがそれもなかなか難しいんだ。彼女の筋書きは赤子の頃悪い魔女に呪われて、匿う為に森で育てられ、16歳の誕生日、王女として城に帰るが長い眠りにつき、竜に襲われ、その竜を倒し自分にキスして目覚めさせた者と結ばれる物語だった。分かるか?」

 魔女はきっと蝋燭で好きな人と自身を救い出す王子が同じ人物であるように呼び寄せた。そして、条件付きの眠り薬で呪いを眠りに変え、王子であるその彼と結ばれるよう手助けした…?

「どうしてそこまで」「さてね」魔女は答えなかった。

 

 不完全燃焼な気持ちを抱えたまま私は郵便物を取りに行った。朝6時と正午に郵便は来る。魔女と話していたら13時をまわるのはあっという間だった。

 入ってた郵便は4通。魔女様、魔女様、魔女様…もちろんすべて魔女宛と思い目を通した。

「あっ!先生!先生!」「騒々しい」「すみません、でもこれ!」私は興奮を抑えられなかった。

 赤い蝋封をされた1通の手紙。

 表には"ベリル&魔女様"の文字。オーロラからだ。

魔女が開けていいと言うのでペーパーナイフで丁寧に取り出す。

 "親愛なるベリル、そして魔女様へ

 もう知っているかもしれないけど、私は無事に王女として即位しました。ずっと会えていなかったお父様もお母様も愛を持って接してくれて、お城の人たちも優しいの。

 あなた達が気になるのは王子様よね。私を助けて竜を倒し、婚約した王子様は森で出逢った彼でした。

 お互い身分を明かさずに出逢ったけど、きっとあなた達のおかげで無事結ばれたの。だから私は大丈夫。この話はAnd they all lived happily ever after.で幕を閉じます。

 ねぇどうか、ベリル。あなたも負けないで。

それが許されない恋や、未知の冒険でも。私も彼もお互い想い続け諦めなかった。あなた達に涙を笑顔にしてもらいながらだったけれど、私は私のやれる事をやったの。

いちばん大切なものは譲らない信念を持つことでね。あなたの信念は何かしら。聡明なあなたならきっと大丈夫。自信を失わないで。

 

 そして、魔女様。

 この度はありがとうございました。一国の王女として感謝致します。

 魔法を使うあなたに言うのもおかしいかもしれないけれど、奇跡を信じることをやめないで。

愛は貫けばまた新しい笑顔に出会える。それを教えてくれたのはあなたよ。

 ベリルか私の知らない誰かなのか分からないけれど、あなたを慕う人に、あなたが想う人に愛を持って接することをやめないでね。友達として応援します。Aurora"

 

 魔女がどんな顔で手紙を読んだか見えなかったけど私達は少しだけ話した。

「先生」「なんだ」「高貴でありながら様々なかおを見せて、一途で強い人でしたね」「…そうだな」

 彼女が残して行った金緑石をきっと魔女は使わない。

愛を持っていつかあなたを抱きしめるその時が来るまで。

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