第34話:夏は短し戦(バト)れよ乙女⑧


 びりっと、一瞬鼓膜が痺れるほどの大喝だった。既に利き手に携えていた長剣が、主の怒りに呼応して白光を放つ。守護者ガーディアン達が身構えるより早く、全身全霊で叩き落した。


 ゴ ッ !!!!


 刹那、真冬の北極圏もかくやのブリザードが巻き起こった。まともにぶつけられた星蘭の悲鳴が、凄まじい吹雪でかき消される。

 やや後方にいた理咲たちですら、服や肌、髪の表面に容赦なく霜が降り、吐いた息がその場で凍り付いて微かに音を立てた。余波だけでそんな威力を持つ攻撃を、真っ向から喰らってタダですむわけがない。


 ――ばがぁんッ!!!


 一瞬間があって、一番手前にいた守護者が内側から爆散する。芯まで凍り付いたせいで体積が増し、互いに押し合う圧力に耐え切れなくなったのだ。しかしノルベルトはそっちに目もくれず、半身を凍らされた一体にダッシュで間合いを詰めると、振り回してくる腕をかわしざまに一刀両断!

 「……あ、あれ? もしかしてノルベルトさん、援軍要らないくらい強い……??」

 「もしかしなくってもそーなんです。伊達に史上最年少で近衛隊長を拝命してませんからね、あの人は。

 よぉし、私らはサポートに徹しますよ。一班はリサさんと陛下方の護衛、二班は宰相方の誘導。三班は左の一体を無力化、ってことで」

 「「「はい!!!」」」

  どこかの格闘ゲームみたいな無双っぷりに、目を点にした理咲のフォローをしてくれつつ、テキパキと指示を出していく副隊長である。おそらく諸悪の根源に対峙するのが確定した時点で、こうなることをある程度予想していたんだろう。前々から思ってはいたけど、優秀過ぎないか? アベルさん。

 わーっと元気よく配置に付いていく騎士たち。それを見守っていた理咲の視界、そのぎりぎりのところで何かが動いた。とっさにそちらへ顔を向けると、大小さまざまな紅い石、のようなものが蠢いている。

 いや、動くだけならいいのだが、だんだんとヒトに近い形に変わって来ていた。その外見はさっき崩壊した守護者に、何となく似ている。まじか!

 「ろ、ろろろロイくん!! さっきのあれ復活しかけてるっっ」

 「へ? ――うわっホントだ!! えっ、どうしましょう副」


 しゃっ!!!


 一緒になってパニックしかけたロイのセリフを、何やら鋭い音が遮った。見れば一番近くにいたヒト型に、五、六本くらいナイフが突き刺さっている。投げたのはもちろんアベル――では、なく。

 「……良し。さすがに複数回は復活してこれないようだな、安心した」

 「で、殿!? 申し訳ありません、ていうかあの、すごいっすね!?」

 「ははは、お褒めにあずかり光栄だな。……ここだけの話、私もいろいろ申し訳なくてね。このくらいはさせてほしい」

 「え、いや、そんな。むしろ星蘭を呼んだばっかりに迷惑かけられたのに」

 「うん、まあ、それもあるんだけど。それだけじゃないからなぁ」

 「「はい……?」」

 ふしゅう、と煙になって消える紅い石モドキを後目に、内緒話をするように声を潜めたクリスティアンがそんなことを言う。さっぱり思い当たらなくて、同時に首を傾げる若者二人に、王太子殿下は『まあ、今は気にしないでくれたまえ』と爽やかに笑ってみせた。


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