第21話:呪い前線異常アリ④
聖女、もとい
……出来るだけ公平な目で見て冷静に話をしたはずだが、そこまで聞き終えた段階で聞き手の八割がげんなりした顔になっていた。ですよね、はい。
「う、うわー……なんかこう、これ以上聞きたくないような、聞いといた方がいいような……」
「少なくとも性格はリサちゃんと全っ然違うねぇ」
「そうなんです、全然違うんです。第一、同じクラスだったのって一年生だけですよ? そのときだってろくに話したことなかったのに、気が付いたら陰でめちゃくちゃ悪口言われてて」
曰く。ガリ勉の根暗、本ばっかり読んでてキモイ、両親いないって可哀想アピールがうざい、あんなのと付き合うヤツの気が知れない……などなど。気が強くていったん敵、と見做したら容赦なく叩く傾向があった彼女のこと、理咲とその友人たちの耳目がないところではもっとすさまじい罵詈雑言を口にしていただろう。
その辺りを出来るだけ遠回しな言い方で伝えたところ、ノルベルトの顔からすうっ、と表情が消えた。ほぼ同時に、その場の気温が確実に何度か下がった感覚があった。まずい、本気で怒ってる。
「――度し難い。己を何様と思っての発言だ、それは……!!」
「おおおお落ち着いて!! だいじょーぶですっ、そんなの気にしない友達がいてくれましたし!! その子達もうちのおばあちゃんもいっぱい励ましてくれたから、あっちと取り巻きがどう思ってようがあんまり気にならなかったです、ホントに!!」
『情けは人の為ならず、って言うんよ。良いことも悪いことも、巡り巡っていつかは返ってくるから、他の人も自分にするみたいに大事にせんとね。……そういう意地悪な子は、いつか大変なことになるから、目いっぱい距離取っちょきなさい』
果たして祖母がそう言った通り、散々お姫様か女王様のごとく君臨した星蘭の天下は、ある日突然終わることとなった。しかも、理咲が一切関与しない形で。
「さっき言った、恋人さんを横取りされた子達が結託しまして……卒業間際に、今までの所業に関する証拠と証言をかき集めて、学校だけじゃなくて自治体の教育委員会とかにまで送りつけたんですよ。全部実名で」
「わ、わあ~~~~……」
「ほう、良い手並みだな。……しかしセイラとやら、相当進退窮まったのでは?」
「当たりですバルトさん。星蘭、ホントは都会にあるお嬢様学校に行く予定だったんですけど、その騒ぎで内定が取り消しになって」
言っちゃ悪いが、大きな組織は事なかれ主義に走りがちだ。問題が校内だけのことであればダンマリを通せただろうが、よりにもよって外部の機関――そのうち幾つかは信頼できる新聞社とかだった――に、動かぬ証拠付きでバラされてしまったのである。当然それ相応に対処せざるを得なくなり、元地主の名家というだけで持っていた金生家の評判は、溺愛していた一人娘ともども地に落ちることとなった。
「それで地元にいられなくなって、本人は遠縁の警察官――ええと、こっちで言うなら騎士のひとですね。とにかく文武両道でめちゃくちゃ厳しい、っていうおばさんのとこに預けられたんだけど……まさかわたしの進学先と被ってるとは……」
「えっ!? あの、まさか、そんだけの目に遭っといてまだ懲りてない、なんてことは」
「あるんですよ、これが」
青ざめて意味なく両手をわたわた、と動かすロイはちょっと面白かったが、現在進行形であっちに悩まされている理咲は笑えなかった。本当に、なんでこんなことになったんだか。
くどいようだが先の一件、理咲は全く関わっていない。わざわざ地元での事件を言いふらすようなこともしていない。にもかかわらず、星蘭の方はますます敵愾心がむき出しになった。まるで自分の凋落は全部コイツのせいだ、とでも言わんばかりに、大学で出来たこちらの友人にまでチクチクやって来るから頭が痛い。
(幸い肌が弱い子はいるけど、気の弱い子はいないから、全部その場で撃退してくれてたんだけど……)
この異世界に呼ばれた時点で、星蘭は特別な肩書に加えて、よく分からない力を手に入れているはずだ。それこそ、理咲のアロマテラピーがトンデモ性能を得たように。
このまま放っておくと、かなりの確率でロクなことにならない。そうなったら、親切にしてくれたノルベルトたちにまで被害が及ぶかもしれない。何とかしなくては!
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