第20話:呪い前線異常アリ③



 「だってさあ、召喚された時に大ケガしたのを運んだげて? 手当した後も気に掛けて、必要なもろもろを揃えるために動き回って、挙句朝夕に送り迎えしてる……って、完全無欠のベタ惚れじゃない。ぶっちゃけ聞いたときはちょっと引いたんだから」

 「ぐっ……!」

 「あ、引いたんだ……えっとあの、拾った仔犬とか仔猫とかが心配なのと同じだと思います、はい」

 遠慮なくここ数日の行動を指摘してくるラウラに、返す言葉もなく撃沈するノルベルトである。まあ全部事実だからなぁ、と同情しつつ、ひとまず差し障りのなさげなフォローを入れておいた理咲だが、正直なところ平常心とは程遠かった。

 だって、自他ともに認める地味っ子である。こんなふうにからかわれたことって、今までほぼなかったのだ。顔がめちゃくちゃ熱い。

 こちらは大変困っているのに、気付いているのかいないのか。美人さんな宮廷魔導師はふふっと笑って、すっかり空になった深めの皿をテーブルに置いた。優雅に足を組んでソファに腰かける姿が、大変絵になっていて格好いい。

 「ま、とりあえずそういうことにしときましょうか。――それじゃ、いくつか質問させてもらうわね?

 まず、さっきはどうして対処方法が分かったの? あたしが猫妖精だってこと、実際に見るまで知らなかったんでしょう?」

 「は、はい。バルトさんに見せてもらった瓶に、パイナッ……じゃない、アナナス以外のものが混ざってるのが見えました。こっちではキヴィ、っていうんだっけ? ポーちゃん」

 「そう。最近になって南の、あったかい所から輸入し始めたの。よく育つしツル性だから、塀に這わせたりして景色を良くするのが流行ってるんだー」

 「そっか、使い方もそっくりだね。――わたしのいたところに、よく似た果物がありました。一般的にキウイって呼ばれてたんですけど、おばあちゃんが言ってたんですよ。あれはマタタビの仲間だから、猫は近づけん方がいい、って」

 漢字で書くとずばり、『鬼木天蓼おにまたたび』。体質などにもよるが、植え付けや剪定作業、あと実そのものを与えた際、マタタビと同じように酔っ払ったみたいな状態になる猫がいるらしい。それを教わって知っていたから、瓶の中に緑色の果肉と細かい種が見えた時、ピンときたのだ。

 「じゃあ、その後に肉球をぷにぷにしてたのは? いい香りがしたし気持ち良かったけど」

 「ええ、あれはアロマテラピーの一種です。使ったのはグレープフルーツで、代謝を良くしてデトックス……ええと、解毒作用がある精油ですね。人間だと足の裏とか、ふくらはぎとかをマッサージしてあげると、二日酔いとか悪い酔いの回復に効果があります」

 「……なるほど。それで皮膚が露出してるところにしてくれたわけか」

 実際よく効いたものね、と頷いてくれるラウラである。ここだけの話、猫や犬は柑橘系の香りを嫌がることがあるのだが、この人の感覚は人間に近いらしい。異世界補正でものすごい即効性が出ていることも含めて、良い方に働いて助かった。

 と、ここでようやく復活したと思しき隊長殿が、そうっと片手を挙げたのが見えた。同じように控えめな声で訊ねてくる。

 「――リサ殿。自分もお聞きしたいことがあるのですが、よろしいだろうか」

 「え? えーっと」

 「あたしは構わないわよ。聞いてあげてちょうだい」

 「あ、はい。どうぞ」

 「かたじけない。……先程相まみえた聖女とやら、リサ殿を見知っているような素振りをしておりました。何かご存じだろうか」

 「あぁ~~~……」

 いたって真面目に問いかけられて、ついつい遠い目になった。絶対いつか言われると思ってはいたが、いざ説明するとなると気が重い。

 「……はい、知ってます。大学の、というか、前の学校にいた頃から。なんでか分からないんですけど、妙に嫌われてて」


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