第12話:ああ、素晴らしき妖生③
本当にたまたま田舎暮らしで、産卵期に長距離移動するカニについて知っていて。ついでに、たまたま使ってみたアロマテラピーが異常によく効いた、というだけの話だ。しかしながら、それがめちゃくちゃ評価されてしまい、ここ数日はいろいろな困りごとを抱えた騎士たちからの相談を請け負っているわけで……
(芸は身を助く、って本当だったんだなぁ。……いや、それは良いんだ、うん)
自分の持っているノウハウが、人の役に立つのは嬉しい。精油が肌に合うかどうか、念のためにテストしてからテラピーを行っているが、今のところ健康被害があった人はいない。唯一問題、いや、戸惑っていることはあるとすれば、
「――只今戻った。リサ殿、ご息災だろうか」
「あ、お、お疲れさまです!」
「おかえりなさーい。ちょうどひと段落したとこだよ、みんな元気!」
「然様か、それは何より」
元気よく早歩きする音に続いて、ノックと共に顔を出した戸惑いの元――異世界初日からお世話になりまくっている、銀鷹卿ことノルベルトに挨拶を返しつつ、理咲は心の中で余計に首を傾げた。
――この少々威圧感のあるイケメンさんが、若くして近衛騎士団を率いる身であることは初日に聞いた。が、その後ロイやポーペンティナを始めとした部下一同から、さらに恐ろしい情報を得てしまったのである。曰く、
『剣も魔法もめちゃくちゃ強いし、頭も切れるし、厳しいけど努力はちゃんと認めてくれるし』
『だから周りからも慕われてて、前の第二隊長が引退した時に真っ先に名前が挙がったんですよ!』
『別に何歳以上じゃなきゃダメ、ってことはないんだけど、隊長は歴代最年少の昇進だったんでちょっと騒ぎになりまして』
そもそも『銀鷹卿』という称号自体が、今の国王陛下直々に『その実力と人柄を称して』といって授かったもの、なんだとか。同じ経緯で特別な呼び名を頂いたひとはもう二名いて、現王三傑、つまり傑物というか英雄というか、とにかくすごい人として知られているのだとか。
(そんなすごい人が、何でまた毎日気に掛けてくれるんだろう……住んでる部屋まで送り迎えするって、貴族のお嬢様への扱いだよなぁ)
理咲の身柄は現在、国が預かっている。衣食住を保証するという規定はちゃんと守られていて、王城の静かな一角にひと部屋をもらい、必要なものもひと通り揃えていただいた。あとは指令を受けた騎士たちが数名、交代で監視、もとい護衛に当たる、ということだったのだが、
「今しがた、処置を受けた隊の者と行き会ったところです。悩みから解放されたと、大層喜んでおりました」
「あ、ホントに? 良かった。わたしにもたくさんお礼を言ってくれました」
「ええ、当人としてはまだまだ言い足りぬようですが。……いや、実際言葉には尽くせますまい。現状、こうして護衛に立つ程度しかお返しできぬのが歯がゆい所ですな」
「い゛っ!? いやあの、十分です、はい!!」
言葉どおりの悩ましい表情でため息つかないで! 自覚ないだろうけどめっちゃ色っぽいから、目の毒だから!! ――なんて、口に出すと色々まずいであろうことを脳内で叫ぶ当事者である。
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