第4話:赤い鋏のパレード④
「本当に、重ね重ね申し訳ない!! こちらの都合で召喚に巻き込んだ挙句、不可抗力とはいえ女性に傷を負わせるとは……!!」
「いえっとんでもない!! きれいに治していただいたので平気です、ホントにだいじょーぶですから!!」
「しかし……!!」
全力で平身低頭、という言葉を体現している相手に仰天して、大急ぎでカーテンを飛び出た理咲である。フォローしたいのは山々なのだが、何せ完全に床と対面している姿勢なので目線が合わない。そして今さら気付いたけれど、このお兄さんの声は聞き覚えがあった。
(さっき、いや、もう昨日か。止血して運んでくれた人、だよなぁ)
だとしたら、あの惨状をまともに目撃している訳で、性格によってはそりゃあ土下座もしたくなるだろう。少なくとも、理咲が見た側ならやると思う。状況的に自分のせいでなくても、しなければ気が済まない。
さてどうしたものか、と困っていたところに、ぱんぱんと乾いた音が響いた。ぱっと視線を転じた先、両手を打って注意を引いてくれたポーペンティナが口を開く。相変わらず可愛らしい笑顔で、
「まあまあ、二人ともとりあえず落ち着こ? ノルさん、その子のこと心配してたのは分かるけど、まだ名乗ってもないでしょ。とりあえず土下座モード解除して、そっちのテーブルで自己紹介と事情の説明。ねっ」
「う、……済まない、勢い余ってつい……」
「いーからいーから。あ、キミも起きてて平気そうなら座って~」
「は、はい! ありがとうございますっ」
自分の倍はありそうな相手を、さくさく近場の丸いテーブルに連行していく医官さんに、あわててお礼を言ってならった理咲だった。
「――先程は失礼した。自分はノルベルト・フォン・ファルケンベルク、近衛騎士団にて第二部隊長を任されております」
「あ、ご丁寧にどうも。
やっとのことで名乗りあって、落ち着いてくれたお兄さん改めノルベルトの話を聞いたところ。
彼は昨日の異世界転移――話の中では『召喚の儀』と呼んでいたが、とにかくそれに護衛として立ち会っていたらしい。……いくらケガ人が出たとはいえ、勝手に持ち場を離れて良かったんだろうか。あんまり怒られてないことを祈りたい。
しかし異世界召喚か。こういう話は小説や漫画、アニメなんかで履修済みなので知識はある。まさか我が身にダイレクトに降りかかって来るとは思いもしなかったが、事情を聞いたら大体納得できた。というのも、
「じゃあその召喚魔法、座標が細かく設定できないんですね? 大体この辺、みたいな大雑把なことしか」
「仰る通りです。可能な限り的を絞っている、ということですが……」
「なるほど。それで星、じゃない、もう一人をメインで呼び出そうとしたら、たまたま近場でぼんやりしてたわたしまで連れてきてしまったと。ついでに一方通行の召喚なので、元居た世界に帰るのは絶望的、と」
「そうなります……返す返すも申し訳ない、ご家族に合わせる顔が……!!」
「いや、まあ、大丈夫だと思います。多分」
幸い、と言っていいのか分からないが。両親は物心つく前に他界していて、理咲はずっと祖母と二人暮らしだった。その保護者が去年、大学進学が決まるのとほぼ同時に亡くなってしまい、寂しいやら悲しいやら、葬儀等の手配でドタバタするやらで大わらわだったのを思い出す。数少ないながら密な付き合いがあった友人たちは驚くだろうが、連絡の取りようがないなら仕方がない。第一それ、このお兄さんのせいじゃないし。
だというのに、ひと通り話し終えても相手の表情は曇ったままだった。
(……うん、さてはめちゃくちゃ真面目だな?? この人)
このままだと、延々謝られ続けるハメに陥りかねない。よし、ここはひとまず話題を逸らそう!
さくっとそう決めて、理咲は出来るだけ明るい表情を作った。ポーペンティナみたいに可愛いかどうかは置いておいて、相手に伝わるように大きくにっこりしてみせる。
「色々ありがとうございます。えーと、とりあえずなんですけど、お世話になったお礼をさせて下さい!」
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