第5話:赤い鋏のパレード⑤
「、は? いや、礼などとんでもない! 自分は当然のことをしただけで」
「うんまあ、そうだろうなぁとは思うんですけど。なんていうかわたしの気持ちの問題です、というわけでポーちゃん、確保ー!」
「はあい、お任せ~♪」
「うぉっ!?」
すかさず乗ってくれたポーペンティナがどーん、とひざに乗っけたのは、干したてらしきふっかふかの布団一揃いだ。床に叩き落とすのはさすがにためらわれるのか、大人しく動きを止めてくれたノルベルトを後目に、ベッド脇に置いてあったものを確認する。
「よし、割れてない! とっさに抱え込んでよかった~」
転移の際に一緒に飛ばされてきた、自分の通学用リュックである。その中から取り出したのは、手のひらにすっぽり収まる小さなビンだ。中身を劣化から守るために濃い茶色をしている。これの活用法こそ、理咲の今いちばんアツい趣味にして最大の特技だった。
「ポーちゃん、お湯ってありますか? あと洗面器とタオル、えーっと、顔や身体を拭く柔らかい布が欲しいんだけど」
「あるある! ちょっと待ってて、すぐ持ってくるね~」
「ポーペンティナ殿、そこは止めてほしいのだが……」
「いいじゃん、なんかおもしろそうだし!」
いったん抗議の声を上げかけたものの、完全に悪ノリした相手にあっさり拒否されてしまい、肩を落とす隊長さんである。すいません、何か。
そんなやり取りを背中に聞きつつ、理咲はどんどん作業を進めていく。洗面器に張った湯の上に、いくつかある中から選んだ小ビンの中身を数滴垂らすと、ふわっと爽やかな香りが立った。いかにもハーブ、といった感じのそれに、周りの空気がすっきりする。
こちらも貸してもらった、現代のタオルとほぼ同じものを細長く折ってU字に弛ませ、落した雫を掬うようにする。その面を内側にしてさらに折り畳み、直接触らないようにぎゅっと絞る。念のため、もう一枚乾いたタオルで包んでから、襟を折ってもらったノルベルトの首にくるりと巻いた。ややあってからほう、と、大きく息をついて力を抜いたのが伝わってくる。
「……心地良い。それに良い香りだ、ローズマリーでしょうか」
「はい、当たりです。ハーブとかの成分を凝縮した『精油』ってものでして、主に良い香りでひとを癒すために使われます。アロマテラピーって言うんですよ」
ちなみにローズマリーは集中力アップの他、抗酸化作用、血行の促進などの効果がある。老若男女問わず、肩凝り首凝りに悩んでないというひとは少ないはずだ。義理堅く生真面目で、いかにもストレスをため込みそうな彼にはよく効くだろうと選んでみたが、正解だったようだ。素直にうれしい。
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