第3話:赤い鋏のパレード③
「おっ来たね! これ羽織ってて~」
「あ、どうも……えっと、誰が?」
「すぐわかるよー。ちょっとここから見ててね~」
ほんの少しだけ開けたカーテンのすき間を示すと、可愛らしい医官さんはさっさと離れていってしまった。ちょっとどころじゃなく不安だが、ひとまず言われた通りに受け取ったショールを羽織って待機しておくことにする。ちなみに寝ていた間に着替えはばっちり済んでおり、今は肌触りが良くてゆったりしたワンピース、のようなものをまとっていた。多分こちらで言うところの寝巻なのだろう。――と、
「――ポーペンティナ殿!! かの御仁の容体はッ」
部屋の反対側にあったドアが、音もなく吹っ飛ぶほどの勢いで開け放たれた。負けず劣らずのスピードで入って来ながら、これまた器用に声を抑えて訊ねたのは、やはり初めて見る人物だ。
真冬に降りる霜や雪を思わせる、澄んだ白銀の髪を短くまとめて、切れ長で涼しい瞳は蒼。線のはっきりした、整った凛々しい顔立ち……なのだが、研ぎ澄ましたような鋭さがあってちょっと近寄りがたい。ついでに見上げるほどの長身でがたいもかなり良く、意識して鍛えているだろうことが分かる。襟の詰まった軍服風の衣装も併せると、なかなか迫力があった。
(うへえ、機嫌の悪い時とか絶対会いたくないなーこのお兄さん……)
なかなかに失礼なことを考える理咲である。そんな内心が聞こえたはずもないのだが、応対する医官もといポーペンティナは、相変わらずにこにこ笑顔のまま、
「ノルさんいらっしゃーい。うん、ついさっき起きたよ! ほらあっち~」
(うわああああポーちゃ~~~ん!?!)
ノールックでベッドの方をしれっ、と指し示したからたまらない。隠れる暇もあらばこそ、脳内で絶叫する理咲と、勢いよく顔を向けた男性の視線が真正面からかち合う。次の瞬間、
「――っ、この度は誠に申し訳ない!!!」
(えええええええ!?!)
ぐっと息を止めるような間があった、と思ったら、その場にばん!! と両手を突いて頭を下げられてしまった。お手本のような見事な土下座で。
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