Epiosde 12 精霊王からの依頼

―聖界のとある森にて―


「えぇ、マルタ様って一度死んでいるの?」


セーラが嘘つきを見るような目で私をみる。


「最初は私も死んだと思った。何せ急に視界が闇の中なんだ。だが結果として、私は死んではいなかったのだ」


「さすがにそうよね。死んで生き返るなんて魔界の屍人トーターくらいよ」


「ほう、良く屍人トーターを知っていたな」


「まー5年前まで魔物の侵攻が激しかったしね。さすがに知っているわ」


「それもそうだな。あれから5年か。聖界も無事で良かっ...」


強い頭痛が走り、頭を押さえて膝をつく。前を歩いていたセーラが私に駆け寄ってきた。


「マルタ様!大丈夫?」


「頭が...割れそうだ」


「落ち着いてマルタ様、もう戦争は終わったのよ?私たちは勝ったの!聖界は無事よ!だから落ち着いて...」


「そうだ...聖界は無事だ。私たちは勝った」


「そうよ!私たちは勝ったの!」


そう自分に言い聞かせると頭痛が治まってきた。

落ち着きを取り戻した私はセーラと道のわきに座って少し休むことにした。


「マルタ様、大丈夫?」


「あぁ、だいぶ落ち着いてきた」


「マルタ様はね、きっと頑張り過ぎたの。私たちの聖界を護るために仲間が死んでも後ろを振り返らず、死人を踏み越えて魔物達を斬り続けて、そして勝った。でもマルタ様の心は...」


そう言ってセーラは黙ってしまった。


「そうか、私は心を病んでしまったのか」


「...マルタ様、もうゆっくり休んで良いのよ?戦いは終わったの。だからもう...」


その時のセーラはまるで死へ続く道を突き進もうとする我が子を止める母のような顔をしていた。


「大丈夫だよ、セーラ。私は今、昔ばなしを通して自分と向き合っているのだと思う。この話が終わる頃にはきっと立ち直っているさ」


「まだ、騎士にもなっていないのに。いったいいつ終わるのよ」


フフッっと笑うセーラを見て私も笑った。

そして、話の続きを話し始めるのだった。



―――――――――――


「…ん!…タちゃん!」


闇の中にいる私を誰かが呼ぶ声がした。


「マルタちゃん!」


「…う、うん…レイモンドおじさん?」


「かぁー良かった良かった。全然起きねぇから死んだかと思ったぜ」


目を開けると地面に寝ている私の右横にレイモンドがあぐらをかいて座っていた。私自身も死んだと思っていたから、自分が生きていることにびっくりしていた。


「レイモンドおじさん、私たち生きてる?でもなんで?」


「さぁな。それはそこに座っている王様にでも聞いてみようぜ」


寝た状態で左側に顔を向けると椅子に精霊王が座っていた。辺りを見渡すとどうやら玉座の間ではない、別室らしかった。


「目が覚めたか、娘。此度は手荒な真似をしてすまなかった」


「いったい、どういうことよ?」


身体を起こして、精霊王に問いかけた。


「うむ。今回の騒動を起こしている魔人がなかなかに手強く見つからないのだ。余の奇跡をもって見つからないとなると、魔の者ではなくこちら側の人間、もしくはこちら側の人間が魔人に手を貸している可能性が高い」


「なるほどね。で、私たちに手を貸して欲しいと」


「そうだ。騎士王からの書簡に貴様らに良くするよう書かれていてな。そのついでに手を貸して貰おうという訳だ」


「騎士王様が?」


「あぁ、なかなかに好かれているみたいではないか」


「なら手伝わない訳にはいかないわね。安心して、もともと魔人を斬るつもりだったから」


「ほう。なぜ?」


「家族の、村のかたきだからよ」


「なるほど、利害は一致している…と。では、作戦を立てるとしよう。だが、その前に」


「その前に?」


「食事だ」


精霊王が手を叩くと扉から食事を持った執事たちが入ってきて、あっという間に食事の準備がされた。

私たちは少しの間、食事を楽しむことにした。


――――――――――


【用語】


■サンサント王国

精霊と人の混血者が集まる国。

実際の居住種族は精人と人である。

精霊との混血者が多いため、「奇跡」の使用が生活の一部になっているのが特徴。


■奇跡

神、聖なる種族が起こす現象の総称。

そのエネルギーは未知のもので魔力とは異なり、魔法と誤解されることが多い。

主に聖界、神界で使われる。


1)エアリズーラ

物質を転送する奇跡。生き物には使用不可。

詠唱は、

「主よ。万物、その存在を如何いかなるところにて許したまえ」


2)ギュラリエーテ

対象の動きを封じる奇跡。力加減を誤ると対象を潰してしまう。

詠唱は、

「罰するが主の責務ならば、罪人つみびとばくする我が使命しめい、ここで果たそう」


3) 無慈悲の裁定ガロディスカート

神界より光の裁定者と闇の裁定者を召喚する奇跡。

使用者の善悪基準を元に対象の善悪を裁定する。

善人なら光の加護を、悪人なら死が与えられる。


詠唱は

「主の裁定者よ、我が召喚に応じよ。我、一国の王として善悪を定めるその責務、主の眼前にて全うする。主の裁定者よ、余の定めし善悪に準じて愚者どもを裁かれよ」




【登場人物】

■セーラ

マルタの昔ば%しを聞く10歳の少女。

2ヶ月ほど前からマルタの家@訪問している。

竜の卵を手に入■る実力がある(?)

料理はそこそこ上手。


■マルタ・アフィラーレ・ラスパーダ

年齢不詳の女性。

この物語の案内人であり、昔ばなしの主人公。

17歳の時、故郷の村を魔物の侵攻によって失ってしまう。

セーラ曰く、魔界との戦争で英雄的活躍をし、勝利に大きく貢献した。

記憶の混濁が起こっているが、いったい...。


■レイモンド・ルーク

23歳の男性。

グレグランドを拠点とする商人で護身術の心得があるそう。

2歳上の兄、ルーカス・ルークがいる。

青髪のロングで後ろで結っている。

お酒好き。


■オズワルド・ファフテール

500歳の男性(外見は20代前半)。

精人の国、サンサント王国の国王。精霊王とも呼ばれる。

サンサントの洞穴の精霊と聖女との間に生まれた精人でその実力は当代一と言われており、現騎士王とはたまに小競り合いを起こしているとか、いないとか。

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