Episode 13 魔人探索
―聖界のとある森にて―
「セーラ、もう少し休んでから移動するでも良いか?」
「もちろんよ、私はマルタ様のお話を聞けているし文句はないわ」
「ありがとう。あと小一時間も休めば身体の方も大丈夫になるはずだ」
私はそう言って話を続けた。
―――――――――――
「さて、食事も済んだことだ。話を再開しよう」
食事を済ませて、食後の酒を飲みながら精霊王が口を開いた。
「結局はここが肝要なのだが、貴様らには魔人がこの国に存在するのかについて調査をお願いしたい。魔人がいないのであれば本件はなんとでもなるが、仮に存在すると為ればこれは一大事である。我が国は聖界の中心付近にある。つまり、そこまで魔人が侵入するルートが存在するということだ」
私とレイモンドは顔を見合せて難しい顔をした。
なぜなら、「魔人の存在証明」なんて国民を全員調べなければ立証のしようがない。
「あの精霊王様…」
「ファフテール王と呼びたまえ。その呼び名は好かん」
「…ファフテール王、この国には五万人の人が住んでいるんですよね?全員を調べるのは不可能です」
「それを何とかせよと言っている」
「おいおい、ファフテール王。ちょいっと無茶が過ぎるんじゃないですかねぇ?もともとはアンタが解決出来ないからこうなっている訳ですし」
「レイモンド・ルーク、余は奇跡の王だ。出来ぬことなど存在しない。だが、物事には優先度というものがある。今回の件は重大ではあるが、余しか出来ぬ話ではない。故に貴様らに依頼をしている」
精霊王はレイモンドの挑発に近い発言にも無感情に答えた。
おそらくこの人が感情で物事を判断する事はない。常に自分にしか出来ないこと、役割を全うするタイプの人だと私は考えた。
そこで私は尋ねたのだ。
「ファフテール王、なぜ私たちが本件に最適だと考えたんですか?」
「精人、魔人は互いの内に流れるエネルギーを認識し、互いを識別している。故に他人に対する警戒もそこを基準に行われることが多い。しかし、ただの人はそのエネルギーが微弱なため脅威と認識されにくい。ただの人は能力が無いゆえに精人魔人の暗殺に最も向いている種族と言えよう」
「敵はファフテール王の奇跡に対して身を隠せるほどの実力者、たしかに油断を狙える私たちが最適かもね」
「うむ。余も魔力探知の奇跡を常にかけておこう。常にこちらを意識させれば隙も生まれやすい」
「分かったわ、レイモンドおじさんも大丈夫?」
「あまり気乗りはしないが、お嬢ちゃんが良いならしかたねぇな」
「じゃあさっそく街で聞き込みを始めましょう」
「街に出るときは裏口を使うと良い。何もなく城から出ると怪しまれる可能性がある」
こうして私とレイモンドはサンサント王国に潜む魔人の討伐にくりだしたのだ。
―――――――――――
街に出た私たちは宿泊するための宿を探した。
魔人に怪しまれないようにためにも、普通の商人としての振る舞いをするためだ。
見つけた宿には私たちと同じ商人や冒険者、旅人がおり、部屋はほぼ満室のようだった。どうやら出歩くのは危険だと聞いて、皆部屋に閉じこもっているらしかった。
大衆宿を見つけた私たちは宿と併設されている食堂へ行き、聞き込みを始めた。
私はその中の一人、小太りの商人らしき男に声をかけた。
「ねー少し話を聞いても良い?私たち今日この国に入って何も分からないの」
「なんだいお嬢ちゃん?お父さんと一緒に旅をしているのかい?」
「まーそんなとこ」
レイモンドは俺ってそんな老けてる?と言わんばかりに苦笑いをしていた。
「しかし、こんなタイミングで入国とは運がねぇな」
「街にいる人に聞いたわ。魔人が街で人を殺してるって...」
「らしいな、勘弁して貰いたいね」
「誰かこの事件に詳しい人を知らない?」
「うーん、そうだな。おーい、主人!あんた、何か知らねぇか?」
そう言って目線を向けた先には食堂を営む中年の精人男性がおり、ビールグラスを磨いていた。
声が届かなかったのか、目線をこちらに向けることなくグラスを磨き続けていた。
「お嬢ちゃん、あの主人は昔、魔物討伐部隊にいたんだ。だから魔人についても詳しいはずだぜ」
「ふーん、分かったわ。ありがとう」
「良いってことよ」
そう言って商人と別れた私とレイモンドは食堂の主人に話しを聞いてみることにした。
「こんにちは。私はマルタ、こっちはレイモンドおじさん。貴方に聞きたいことがあるのだけど良いかしら?」
「...何を聞きたいんだ?」
「最近、街を荒らしている魔人について聞きたいの」
「俺から話すことは何もない。俺はソイツを見たことはないし、興味もない」
「あら残念。だったら魔人の見分け方を教えてよ」
「...お前達は『人』だな、だったら諦めろ」
「魔力で見分ける必要があるから?」
「あぁ、そうだ。人は魔力を感じ取れない」
「少し、疑問なんだけどあなた達も魔力を使って奇跡を起こすのよね?どうやって精人と魔人を見分けるの?」
「はぁ、前提が間違っている。俺等が使うのは魔力ではない」
「え、違うの?」
「あぁ。これは良く勘違いされることなのだがな。使っているエネルギーが違うから俺らは魔人を見分けられるんだ」
「…私、知らなかったわ」
「この話は異国では間違って伝わっていることが多いから無理もない。精人の多くは、我々が起こす現象を『奇跡』、魔物や魔人が起こす現象を『魔法』と呼んでいる」
「そうだったんだ。ならどうしよう…それってただの人には魔人を見つけるなんて出来ないってことじゃない」
「…一つ方法に心当たりがある」
「何!教えて!」
「石、いや結晶だ」
「結晶?」
「あぁ、この国には魔力に反応して光る結晶が売られている。基本的には魔物の接近に気づくための護身アイテムだ。気休め程度だがな」
「それを使えば見分けられるのね!」
「そうだ。だが、結晶には魔力の好みがある。つまり魔物の種類によっては光らないことも十分あり得るということだ」
「無いよりはマシそうね。扱っている店を教えてもらっても良いかしら?」
「分かった。だが、明日にしておきな。今日はもうすぐ日が暮れる」
そう言って主人は結晶を売っている店名と簡単な地図を書いてくれた。私とレイモンドは主人にお礼を言った後に宿の部屋に戻った。
さて、セーラ。いったん話はここまでにして、今日の野営場所に移動しようか。話の続きはまた後で、だ。
―――――――――――
【用語】
■サンサント王国
精霊と人の混血者が集まる国。
実際の居住種族は精人と人である。
精霊との混血者が多いため、「奇跡」の使用が生活の一部になっているのが特徴。
■奇跡
神、聖なる種族が起こす現象の総称。
そのエネルギーは未知のもので魔力とは異なり、魔法と誤解されることが多い。
主に聖界、神界で使われる。
1)エアリズーラ
物質を転送する奇跡。生き物には使用不可。
詠唱は、
「主よ。万物、その存在を
2)ギュラリエーテ
対象の動きを封じる奇跡。力加減を誤ると対象を潰してしまう。
詠唱は、
「罰するが主の責務ならば、
3)
神界より光の裁定者と闇の裁定者を召喚する奇跡。
使用者の善悪基準を元に対象の善悪を裁定する。 善人なら光の加護を、悪人なら死が与えられる。
詠唱は「主の裁定者よ、我が召喚に応じよ。我、一国の王として善悪を定めるその責務、主の眼前にて全うする。主の裁定者よ、余の定めし善悪に準じて愚者どもを裁かれよ」
【登場人物】
■セーラ
マルタの昔ば%しを聞く10歳の少女。
2ヶ月℉ど前からマル&の家@訪問している。
竜の卵を手に入■る実力がある(?)
料理は$こそこ上手。
■マルタ・アフィラーレ・ラスパーダ
年齢不詳の女性。
この物語の案内人であり、昔ばなしの主人公。
17歳の時、故郷の村を魔物の侵攻によって失ってしまう。
セーラ曰く、魔界との戦争で英雄的活躍をし、勝利に大きく貢献した。
記憶の混濁が起こっているが、いったい...。
■レイモンド・ルーク
23歳の男性。
グレグランドを拠点とする商人で護身術の心得があるそう。
2歳上の兄、ルーカス・ルークがいる。
青髪のロングで後ろで結っている。
お酒好き。
■オズワルド・ファフテール
500歳の男性(外見は20代前半)。
精人の国、サンサント王国の国王。精霊王とも呼ばれる。
サンサントの洞穴の精霊と聖女との間に生まれた精人でその実力は当代一と言われており、現騎士王とはたまに小競り合いを起こしているとか、いないとか。
銀髪の少女と竜の卵 家ともてる @TomoteruUchi
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