Episode 8 先導の騎士

―聖界のとある場所にて―


窓から射し込む朝日が顔を照らし、私は目が覚めた。あぁ話をしている途中で眠ってしまったのか。


横を見るとセーラがいない。

私は慌ててベッドから降りた。


「セーラ!どこだセーラ!」


するとドタドタと走る音が寝室に近づいてきた。


「マルタ様、どうしたの?朝から騒いで。もうすぐ朝食ができるわよ。早くきて」


セーラを見つけた安堵からか、私は床に座り込んで両の手で顔を覆う。あぁ、この時間はいつまで続くのだろう。明日には終わってしまうかも知れない。


フラフラと寝室を出ると玉子焼きの良い香りが漂っていた。昨日話していた竜の卵をつかっているのだろう。


「さ、食べましょ。マルタ様」


「うん...良い香りだ」


「でしょう?今日の卵焼きには龍鰹りゅうがつおの出汁を使ったの。釣るの大変だったんだからね」


セーラはフフンと得意げに鼻を鳴らした。


「そうそう、昨日はどこまでお話を聞いたかしら?たしかミーシャの課題はクリアしたのよね?」


「そうだな。ここからは基礎訓練の毎日になるのだが、どう話したものか」


「ふーん、あまり面白くなさそうね。だったら旅立ちの日から話を聞きたいわ」


爽やかな朝に美味しい食事が並ぶ、幸せな食卓で

私はセーラの要望通り、簡単に基礎訓練の時の話をしてから竜の卵を手に入れる旅の話を始めるのであった。


―――――――――――


さて、最初の課題をクリアして次の日、私はルーク卿に呼ばれて城内の修練場に来ていた。


「お!お嬢ちゃん、おめでとう。俺が言った通りミーシャに美味いと言わせたらしいじゃねぇか!よくやったな!」


「2ヶ月もかかっちゃったけどね」


「いやいや、てぇしたもんよ!それに顔付きが少しは騎士っぽくなったじゃねぇか」


「フフン!私けっこう頑張ったからね!野宿や野獣対応なんて楽勝よ」


野宿スキルと騎士らしさに関係があるのか?と疑問に思ったが、今はツッコまない。とにかく、私はルーカス卿に褒められたのが嬉しかったのだ。


褒められて得意げになっている私にルーク卿が真面目な顔で話を始めた。


「お嬢ちゃん、そしたら改めて自己紹介をさせて貰うぜ。俺は騎士王様から『先導』の称号を賜りし、グレグランドの十二騎士が一人。ルーカス・ルークだ。よろしくな」


「へ?」


私はルーク卿が何を言っているのかが一瞬理解出来なかった。


「ん?どうしたお嬢ちゃん?」


「私の聞き間違えかしら、あなたが十二騎士?」


「おいおい、失礼な奴だな。俺はれっきとした十二騎士だぜ。騎士王様の一振りってやつさ」


言動や振る舞いから、てっきり暇な騎士を充てがわれたと思っていた私は一瞬ぽかーんとしてしまった。

しかし、次の瞬間には失礼な態度をとってしまったと後悔が押し寄せた。


「す、すみません!私、てっきり偉そうなだけの暇で弱い騎士だとばかり...あ!」


「謝罪した意味がねぇな、おい」


「すすす、すみません!」


「まぁ気にすんな。俺の悪癖ってやつでな、周りからも良く言われるんだ。言葉遣いもいつも通りにしてくれ。どうも堅苦しいのは苦手だ」


頭を掻きながら困ったようにそう言った。

本当に堅苦しい会話は苦手なようだった。


「分かったわ。ルーク卿」


「ルーカスで良い。弟と知り合いなんだろ?ルークだとややこしいからな。ちなみに弟はレイモンドだ」


「ありがとう、ルーカスさん。これからよろしくね」


「おうよ!口は軽いが腕は確かだぜ」


ここからの4ヶ月間。

私は先導の騎士、ルーカスと共に体力を作り、武術、剣術、サバイバル技術を学んでいった。


そしてついに、旅立ちの日が訪れた。


――――――――――


【用語】


■グレグランドの十二騎士

騎士王に認められし、十二人の騎士達。

現在、騎士王から与えられし称号は先導、不侵、久遠、全知、沈黙、金製、全治、開明、閃撃、追究、謀略、紅蓮の十二種類。




【登場人物】

■セーラ

マルタの昔ばなしを聞く10歳の少女。

竜の卵を手に入れる実力がある(?)

料理はそこそこ上手。


■マルタ・アフィラーレ・ラスパーダ

年齢不詳の女性。

この物語の案内人であり、昔ばなしの主人公。

17歳の時、故郷の村を魔物の侵攻によって失ってしまう。

未来の身分は不明。しかし、セーラが「様」を付けているところから、ある程度高貴な身分ではありそうだが...。


■ルーカス・ルーク

25歳の男性。

先導の称号を持つグレグランドの十二騎士の一人。

2歳下の弟、レイモンド・ルークがいる。

青髪のロングで後ろで結っている。

槍術を得意とする騎士。

口調から誤解されやすいが、根は真面目で義理人情を大切にするタイプ。


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