Episode 6 泉の精霊と騎士王の誕生

―聖界のとある場所にて―


「ふーすっかりのぼせちゃったわ」


ほらみたことか。私の忠告通りではないか。


「セーラ、もう日が沈み始めている。そろそろ帰らねば親が心配するぞ」


「私の親は大丈夫よ。それより続きを話してくれない?お礼に夕食は私が作るわ」


「セーラが...料理?」


「何よ?これでも人に振る舞うくらいの料理をつくる腕はあるわよ。普段から作っているのだから」


「そうか、なら頼む。...良いか?刃物の扱いは気をつけて、火の消し忘れも注意してくれ」


「私に任せなさい。あ、お話の続きは聞かせてね」


そう言って台所に立つセーラの背を見ながら私は話を続けた。



―――――――――――


残りの食材は精霊の泉の水と深林牛のミルクだが、どちらもルーンの森の深奥にある。

だから、私とミーシャは朝早くにキャンプ地を出発して、調達に向かったのだ。


「ねーミーシャ。精霊の泉ってホントに精霊がいるの?」


「私も直接お会いしたことはございません。しかし、騎士王様の母君が住んでいる泉との噂です」


「どういうこと?騎士王様のお母さんは精霊なの?」


「元来、我々人は魔力を生み出すことが出来ません。しかし、騎士王様はそれが出来る。つまり、人と人の子では無いという噂があるのです」


「でもでも騎士王様の出産にミーシャはいたんじゃないの?」


「実は誰も騎士王様の誕生を見てはいないのです。当時、先代の騎士王様はよくこの森に出かけていらっしゃいました。そしてある晩、子どもを授かったと現騎士王様を抱いて戻られたのです」


「ふーん、魔力もそうだけど、あの美しい見た目よ?精霊の子と言われても納得できるわ」


その発言を聞いてミーシャが歩みを止めた。


「マルタ様は騎士王様の顔をご覧になったのですか?」


「えぇ、今でもはっきり思い出せるわ。王にしては少し若そうだけど、とても美しい女性だったわ」


「マルタ様。それは他言されないようお気をつけ下さい」


「え?なんでよ?」


「騎士王様は性別を隠されていらっしゃいます。騎士の王が若い女性としれたら、他の騎士からの反感を買いかねないからです。十二騎士様ですら知らないのです。しかし、なぜマルタ様に...」


そこからというものミーシャは無言のまま歩き始め、日の高さが頭を過ぎた頃、私達は精霊の棲む泉に到着した。



――――――――――


【用語】


■ルーンの森

グレグランド王国から北に10kmほどの場所にある森。聖界きっての巨樹の森でさまざまな動植物が生息する。

森の中心部には泉があり、森を守る精霊が棲むと言われている。どうやらその精霊は現騎士王の母らしい。



【登場人物】

■セーラ

マルタの昔ばなしを聞く10歳の少女。

竜の卵を手に入れる実力がある(?)


■マルタ・アフィラーレ・ラスパーダ

年齢不詳の女性。

この物語の案内人であり、昔ばなしの主人公。

17歳の時、故郷の村を魔物の侵攻によって失ってしまう。

その後、聖界最大の国、グレグランド王国に保護され、王様の許可を貰い騎士を目指す。


未来の身分は不明。しかし、少女が「様」を付けているところから、ある程度高貴な身分ではありそうだが...。


■ミーシャル・マーリン

セミロングの40歳の女性。

先代の騎士王から使える使用人。

騎士王の身の回りから公務まで、あらゆることをサポートする。料理が得意。奇跡を使える。


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