Episode 4 ルーンの森

―聖界のとある庭園にて―


「ふーん。そのルーク卿って良く分からないわね。剣の素振りをした方が良さそうなのに」


「当時の私もそう思ったが、ルーク卿と私では経験値が違う。つまり考えの深さが違いすぎて本意に気付けなかったのだろうな。私も昔はセーラと同じだったわけだ」


「昔は同じかぁ、なかなか良い響きね」


同じだったと聞いて嬉しそうに微笑むセーラを横に私は話を続けた。

庭園には心地よい風が吹いている。


―――――――――――


ルーク卿から課題を貰った明朝、私は使用人のミーシャと調理室にいた。


「ではマルタ様、本日は何の料理をお作りになりますか?」


「うーん、そうね。シチューとかはどう?」


「何でも構いませんよ」


「私はミーシャの好きな料理を聞いてるんだけど」


「私は何でも好きです」



なかなかわかりにくい人だなぁと思った記憶がある。今考えるとミーシャは使用人だから仕方がないのだが。


「分かったわ。ならシチューにする」


そう言って私は貯蔵庫を開けた。

材料が揃っているかを確認するためだ。


「あれ?何もない」


「マルタ様、ルーク卿より伝言を預かっております」


「伝言?」


「はい。『お嬢ちゃん、条件を言い忘れていた、すまんすまん!基本的に食材や調味料は自然から調達しな!何かを買うにしてもお金は自分で稼いで買うこと!分かったな!じゃ、あとは頑張りな!』..とのことです」


「ミーシャの声真似にびっくりして内容が入って来なかったわ」


「食材と調味料は自分で調達。買う場合はそのお金をご自身で稼ぐこと、この二点でございます」


「なるほど、なかなか大変ね。...ではミーシャ、さっそく森に出かけましょう」


「承知いたしました。馬を連れてきます」



その後、城門の前で待ち合わせをした私とミーシャは森に出かけたのだ。



―――――――――――――


ミーシャの乗馬の腕はかなりのもので、全力で走る馬の上に乗っているのに身体の安定感が私とは段違いであった。


だからこそ、私は馬の上で採ってくる食材のことを考えられた。私が作ったシチューの食材はたしか、こんな感じだったように思う。


・聖樹の樹液(クリーム)

・夜鳴き鶏のもも肉

・万層玉ねぎ

・深層じゃが芋

・レイピア人参

・乱沸油

・精霊の泉の水

・深林牛のミルク


せっかく採るならとどれも高級食材ばかりを選んでしまった。私の中で材料が決まった頃、ミーシャから声をかけられた。


「マルタ様、もうすぐルーンの森に到着しますよ」


「わぁ...ルーンの森の樹ってとっても大きいのね」


「えぇ、聖界で5本の指に入る大きさで、高さ100mを超える樹木です。その丈夫さから色々な物に使われていますよ」


そんな会話をしながら私達はルーンの森の入口に到着して、馬を降りた。


「マルタ様、念の為申し上げますが、私は基本的に手助けを致しません。あなたの命が危険な場合は別ですが」


「そんなこと、分かってるわ。私もう17歳よ?課題の意味くらい知っているの」


「そうですね。では初めは何を採りに向かいましょう?」


「うーん、今は昼だから夜鳴き鶏は捕まえられないし。うん!野菜を集めましょう!まずは万層玉ねぎよ」


「承知しました。ではどうぞお先に」


「うむ、苦しゅうない」



こうして私とミーシャはルーンの森に入って行くのだが、この時の私は食材調達の難しさを想像出来ていなかったのだ。


――――――――――


【用語】


■ルーンの森

グレグランド王国から北に10kmほどの場所にある森。聖界きっての巨樹の森でさまざまな動植物が生息する。

森の中心部には泉があり、森を守る精霊が棲むと言われている。


【登場人物】

セーラ

マルタの昔ばなしを聞く10歳の少女。

竜の卵を手に入れる実力がある(?)


■マルタ

年齢不詳の女性。

この物語の案内人であり、昔ばなしの主人公。

17歳の時、故郷の村を魔物の侵攻によって失ってしまう。その後、聖界最大の国、グレグランド王国に保護され、王様の許可を貰い騎士を目指す。


未来の身分は不明。しかし、少女が「様」を付けているところから、ある程度高貴な身分ではありそうだが...。



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