Episode 3 騎士より賜りし最初の課題

―聖界のとある庭園にて―


騎士になる条件を言われたと聞いてセーラがはしゃいでいる。


「おー!いよいよね!マルタ様が騎士になるために竜の卵をとりに行くのは!」


「まだ気が早いぞ、セーラ」


「えー焦らすわねー。ちょっと訓練して旅に出るんじゃないの?」



この娘は本当に一人で竜の卵を手に入れたのだろうか?そんな疑問を抱きながら私は話を続けた。


庭園はぽかぽかとした良い日和であった。


―――――――――――





「マルタ様、今後のことで騎士王様より伝言がございます」


城の庭園にある離れに案内された私は使用人から今後の説明を受けていた。


「まず、この半年間は鍛錬に専念し身体を作れとのことです」


「すぐに出発ってわけじゃないのね」


「今のまま行かれてもよろしいですが、まぁ犬死にでしょうね」


この使用人がなかなかキツい言葉選びでな。長い付き合いになるのだが、初めは苦手だったのだ。


その使用人から説明を受けていると、一人の騎士が入ってきた。

青髪のオールバックで、長髪を結っており、上半身はタイトな布、下半身には防具を纏っていた。


「おいおい、ミーシャ。俺も暇じゃないんだぜ?何だってガキの世話をしないといけないんだ」


「あら、早いお着きでしたね。マルタ様、こちらはあなたの指南役に任命されましたルーカス・ルーク卿です」


「ルークおじさん!?」


「おじさんって、いきなり失礼なお嬢ちゃんだな。俺はれっきとした騎士様で25歳だぜ?」


「私を助けてくれた人にそっくり...」


「あーもしかして弟のことか?なるほどなぁ、アイツ今は商人やってんのか」


私は騎士の顔を見て本当にびっくりしたものだ。

言われて気づいたのだが、言葉遣いも似ていた。


「ではルーク卿、後はよろしくお願いしますね」


「ちょいと待ちな、ミーシャ。うーん...おっし!

お嬢ちゃん、お前さんに課題を与えよう」


私は色々想像して身震いをした。


「お前さんの課題は...」


ゴクリと唾を飲む。


「料理でミーシャに美味いと言わせる、だ」


ニカッとした笑顔で私の目線の高さまで顔を下げてきて、彼はこう言った。


「り、料理?」


「あぁそうさ!ミーシャに一度でも美味いと言わせたら本格的な訓練に入る。美味いと言わせるまでは訓練も始まらないし、竜の卵も手に入れられない。お嬢ちゃんの目的も達成できないってことだ」


そう言って背中を向け、スタスタと去り始めたルーク卿を私は呼び止めた。

今思うと若さゆえの焦りだったのだと思う。


「ちょっと待って!なんで料理なの?私は早く騎士になりたいの!もっとちゃんと指導してよ!」


ルークがピタッと止まり鋭い目線で振り返った。


「おいおい、言われた課題がクリア出来ねぇで偉そうなことを言うもんじゃねぇぜ、お嬢ちゃん」


その刺すような視線に一種の殺意みたいなのを感じ、私は後退った。


「ふっ...まー頑張りな。楽しみにして待ってるぜ」


そう言い残してルーク卿は去ってしまった。

庭園には使用人のミーシャと私だけ。


「はー...あの方はいつも。それではマルタ様、明日からよろしくお願いしますね」


騎士を目指して最初の修業がまさかの料理だったのだ。



___________



【人物】

■セーラ

マルタの昔ばなしを聞いている10歳の少女。

竜の卵を手に入れるくらいの実力がある(?)



■ミーシャル・マーリン

セミロングの40歳の女性。

先代の騎士王から使える使用人。

騎士王の身の回りから公務まで、あらゆることをサポートする。料理が得意。


■ルーカス・ルーク

25歳の男性。

青髪のロングで結っている。

槍術を得意とする騎士。

口調から誤解されやすいが、根は真面目で義理人情を大切にするタイプ。


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