第31話 第3の男
赤木竜二が持っていた2つのスマホのデータの復元が科捜研で行われていた。そのスマホから取り出したデータがこの日の早朝、梅原刑事宛てにメールに添付して送られてきた。彼はそれをプリントアウトして捜査本部に持ち込んだ。
そこには湖上署の荒木警部、そして藤木刑事に岡本刑事、捜査1課の片山警部補や堀野刑事たち捜査員、大津署の捜査員も集まっていた。梅原刑事は持ってきた資料を机の上に置いた。
「これがスマホのデータを取り出したものです」
荒木警部たちがその資料をめくって目を通していく。梅原刑事が説明をした。
「科捜研の担当者によると、竜二のスマホにはいくつかのメールが消されている痕跡があります」
「それはシージャックの犯人たちに送られた闇バイトのメールと同じなのか?」
「多分、そうだということでした。しかし特殊なアプリが使われていますのでその解析にはまだ日がかかるようです」
そのメールが解析できないうちは彼らを指示した主犯のエヴァにたどり着けない。
「ともかくシージャックの3人と赤木は実行役だったというわけだな。それがどこか狂ってこんな形になってしまったのか・・・」
荒木警部は腕組みをして考えていた。
「赤木の通話記録です。最近、この番号にかけています」
梅原刑事は資料の電話番号を指し示した。
「誰だ?」
「調べたとこと大崎でした。やつらはつながっていました」
「だが通話記録から見るとシージャックの後からだ。その前はない。赤木は何らかの形で大崎とつながりを持った」
「緑川由美からかもしれません。赤木と由美は京阪浜大津駅近くで合流して車に乗っていますから」
堀野刑事がそう言った。彼は京阪浜大津駅近くの監視カメラで竜二の車に乗る由美と翔太の姿を確認していた。
「うむ。ここでも緑川由美がキーとなっている」
荒木警部はうなずいた。片山警部補が梅原刑事に尋ねた。
「他には?」
「解析された範囲では他には見つかりませんでした」
「そうか。では緑川由美のものと思われるスマホからはどうだ?」
梅原刑事は別の資料を出した。
「これが緑川由美のスマホから取り出したメールとLINEです」
このスマホから身代金の受け渡しのメールが出された。その部分はしっかり残っている。
「脅迫メールは確かにこのスマホからだ。これを打ったのは赤木かもしれない。それ以前のものは・・・特に怪しいものはないな」
荒木警部が資料を見ながらつぶやいた。メールは神水学園からの業務連絡がほとんどを占めていて、私用のメールは少なかった。その私用のものも彼女の友人からのあいさつ程度のもので誘拐事件とは関係ないようだった。LINEの方は5年1組連絡用、学園職員の連絡用などと仕事用だった。
「通話記録は?」
これも学校関係からが多いものの、「うみのこ」乗船時にかかってきた電話番号が目についた。それ以前にもその番号からなんどもかかかってきたり、かけたりしている。
「この電話番号は? 相手は赤木か?」
「違います、電話番号から特定を急いでいます」
梅原刑事がそう答えた。
「この相手も共犯ということになる。緑川由美に次々に情報を送っていたのだろう」
荒木警部はパラパラと復元された内容の資料をめくってみた。
「緑川由美は『うみのこ』の事件が起こることを知っていたのかもしれない。その通話で。翔太君をあわてて連れ出した・・・」
それが何のためなのか・・・。自分たちが誘拐するためか、他に目的があったのか・・・荒木警部は考えながらため息をついた。堀野刑事が資料を見て言った。
「事件当日から緑川由美からの通話記録がありません」
「多分、その時点で緑川由美の手元になかったからだ。すると・・・」
最後にこのスマホを見たという証言は「うみのこ」にいた本庄先生だった。
「緑川由美は『うみのこ』を降りるときにはスマホをもっていかなかった。それを持ち出したのは大崎洋・・・というところか」
荒木警部はそう考えていた。
「事件に関わっているのは大崎と赤木、それにもう一人、その人物が2人を殺害したのかも・・・。それがわかれば緑川由美を追えるかもしれません」
堀野刑事の言葉に荒木警部は大きくうなずいた。
その時、梅原刑事のスマホが鳴った。何かのメールが来たようだ。彼はそれをすぐに開けた。
「わかりました。相手が!」
「誰なんだ?」
「奥山平治です。水上家で事務仕事の手伝いをしている」
「なんだと!」
奥山平治なら水上家の様子をよく知っている。こんな人物が共犯だったとは・・・荒木警部はすぐに声を上げた。
「水上家には今、藤木と岡本がいるはずだ。奥山の身柄を押さえさせるんだ!」
「はい!」
堀野刑事はすぐに電話に飛びついた。
◇
奥山平治を確保するようにと水上邸で待機している藤木刑事と岡本刑事に伝えられた。奥山平治は隣接したアパートに住んでいる。いつもなら水上家に出勤するため、アパートを出てくる時間である。2人はすぐにそこに向かった。
奥山の部屋は1階だった。ドアを叩いて呼んでみた。
「奥山さん! 奥山さん!」
だが返事がない。すぐに1階に住む大家さんから合鍵を借りて開けてみた。するとそこはもぬけの殻だった。奥山はどこかに出かけていた。
「逃げられたか! 本部に連絡だ!」
岡本刑事がすぐに捜査本部に電話を入れた。藤木刑事が室内を調べたが行く先を示す手掛かりは見つからなかった。
岡本刑事からの電話を受けたのは荒木警部だった。
「捜査本部、荒木だ」
「岡本です。奥山は部屋にいません」
「なに! 奥山が消えただと! 行き先の当ては?」
「わかりません」
「おまえたち2人は奥山の行き先について周辺を聞き込め! こちらでも奥山を追う!」
荒木警部はそう言って電話を切った。その様子に周囲にいた捜査員が集まって来た。
「奥山が逃げた。共犯の可能性がある。緊急に手配だ!」
荒木警部が声を上げた。捜査員たちは奥山の捜索のためにあわてて出て行った。
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