第12話 生徒の危機
5年1組の生徒たちは1階に下りていた。そこにはゴムボートが一艘、置かれていた。
「どうやって避難するのです?」
大崎先生が勝田に尋ねた。
「え、ええ、まあ・・・」
勝田は何かごまかすような言い方をした。それを聞いて大崎先生は「おかしい」と感じ始めていた。船員なら制服を着ているはずが、この男は作業着を着ている。それにゴムボート一艘で生徒たちが避難できるはずはない。もしかして・・・。
「あなたは本当にこの船の船員なのですか?」
大崎先生の問いに勝田はふっと笑った。
「どうしてそんなことを聞くのですか? 当り前じゃないですか。ははは・・・」
大崎先生にはその態度がますます怪しく感じた。
「係員に確認します」
大崎先生はスマホを取り出そうとした。しかしその前に勝田が大崎先生に拳銃を向けた。
「ばれたら仕方ない。両手を上げろ! おとなしくしていたら無事で済んだものを!」
大崎先生は慌てて両手を上げた。こうなってはどうすることはできない・・・。生徒たちはざわざわと騒ぎ出した。
「静かにしねえか! ぶっぱなすぞ!」
勝田は生徒の方に拳銃を向けた。生徒たちは「きゃあ!」と悲鳴を上げた。中には恐ろしさで泣き出すものもいる。
「やめろ!」
大崎先生は声を上げた。
「それなら教えろ! 水上翔太はどこだ?」
「えっ?」
「さあ、どいつなんだ? 水上翔太は?」
「待て! ここにはいない」
「いない? それはどういうわけだ?」
「出航前に下船した。だからここにはいない」
「嘘をつけ!」
「嘘じゃない。ここにはいないんだ」
それを聞いて勝田は歯ぎしりした。ここまでして肝心のターゲットがいなかったとは・・・。
「それじゃ仕方ない。俺はずらかるぜ。だが警察に追われるかもしれない。そこの生徒を人質として連れていく」
勝田は拳銃を構えたまま生徒の方に近づいた。だがその前に大崎先生が立ちはだかった。
「やめろ! 生徒に手を出すな!」
「うるせえ!」
勝田は大崎先生を左手で殴りつけた。
「きゃあ!」
大崎先生が倒れて、生徒たちの悲鳴がまたも響き渡った。
そんな時、佐川刑事がようやくその場にたどり着いた。生徒たちの前に拳銃を持った作業服の男が見えた。
(あの男が犯人か!)
佐川刑事はとっさにそう判断して、拳銃を抜いて通路の陰に隠れた。生徒が近くにいるから無理な行動はとれない。犯人は生徒を人質に取ってゴムボートで逃走するように見えた。そうなればその生徒にかなりの危険が伴う。
「警察だ! 拳銃を捨てろ!」
佐川刑事はそう声を上げた。勝田は一瞬、ビクッとなったが、すぐに開き直って叫んだ。
「そんなもん、怖くねえぜ!」
「おまえはもう包囲されている。ここから逃げることはできない。あきらめて出てこい!」
「うるせえ! 生徒を殺されたいのか!」
勝田は拳銃を生徒に向けた。そうなると手出しはできない。
「手を挙げて出て来い! 出てこないと生徒を殺すぞ!」
勝田はさらに大声を上げた。佐川刑事はどうしようかと思っていると中野警部補から連絡が入った。
「中野です。犯人の気を引いてください・・・」
中野警部補が作戦を伝えてきた。
「わかりました」
佐川はそう答えて拳銃をしまった。そして両手を上げてその場に出て行った。
「出て来てやったぞ! 生徒から離れるんだ!」
「そうはいくか! 拳銃をよこせ! 早くするんだ!」
勝田は左手を出した。佐川刑事はゆっくり左手を懐に入れた。その時、勝田の背後に急に人影が現れた。中野警部補が2階のデッキから縄で降りてきたのだ。彼女はすぐに背後から勝田に体当たりしてその体を組み敷いた。そこにすぐに佐川刑事が駆け寄って手錠をかけた。
「公務執行妨害で逮捕する!」
勝田はそれですぐにおとなしくなった。これで3人目の犯人も逮捕することができた。
中野警部補が倒れている大崎先生のそばに寄った。
「大丈夫ですか?」
大崎先生は立ち上がった。
「ええ、大丈夫です。生徒は?」
「みんな無事です。犯人はすべて逮捕しました。もう心配いりません」
「ああ、よかった。助かった」
大崎先生はほっと息をついた。生徒たちもその会話を聞いてやっと安心できたようだった。
佐川刑事は勝田が落とした拳銃を拾った。
「これはモデルガン」
「そうよ。操舵室の犯人が持っていたものと同じ。だからこの男も本物の拳銃でなくモデルガンを持っていると思ったわ。でも念のためこんな急襲作戦を取ったのよ」
中野警部補はそう言うと湖国に連絡をとった。
「こちら中野、3名の犯人を逮捕。人質は無事です」
すると大橋署長からの返事があった。
「ご苦労だった。 そちらには荒木が向かっている。そのまま待機してくれ」
「わかりました」
中野警部補は大橋署長が無線に出たことに違和感を覚えた。荒木警部が指揮を執っていたはずなのに、このタイミングで荒木警部がそこを離れてこちらに移動してくるとは・・・。
佐川刑事も同様に思っていた。だがまずは犯人を湖国に移送しなければならない。操舵室から犯人の金髪の男とスキンヘッドの男が手錠につながれて1階に降りてきた。もう抵抗はせず、観念しておとなしくしていた。
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