第11話 突入

 操舵室では金髪の男が苛立っていた。

「まだかよ? 船を止めたんだぜ。警備艇がうろうろしていたが、どこかに行った。今のうちだ。早くずらからないとサツが踏み込んでくるかもしれねえ」

「まあ、待て。エヴァには連絡しておいた。少し遅れるとな。迎えの場所も変更してもらう必要があると」

「それよりあいつは?」

「多分、うまくやっているだろう。それより落ち着け。もうすぐだから」

 スキンヘッドの男がなだめようとしていた。

「連絡は来てねえのか?」

「いや、まだだ」

 スキンヘッドの男はスマホを確認したが返答は来ていない。

「ボートの準備はできたのか? わざわざ食品の段ボールに入れて台車で持ち込んだんだぞ」

「多分、用意しているだろう」

 2人は仲間からの連絡を待っているようだった。

 一方、船長や船員は停船したのでもう用がないとばかりに粘着テープで縛りあげて床に座らせていた。

「こんなことをしても成功しないぞ!」

 船長はそう声を上げた。彼は犯人の要求をきっぱりはねのけていた。

「うるせえ!」

 金髪の男は船長を殴りつけた。

「今度、余計なことをしゃべりやがったらこの拳銃が火を噴くからな!」

 金髪の男は拳銃を船長に突き付けた。


 ◇


 中野警部補たち突入班は音もたてずに操舵室に近づいた。窓越しに中を見ると男が2人いる。金髪の男はスマホをいじっている。一方、スキンヘッドの男はペットボトルの水を飲みながら窓の外を見ている。2人ともその手には拳銃はなく、それは近くの机に置かれていた。そして船長たち4人は犯人の足元に粘着テープで両手を縛られて床に座わらされていた。

 中野警部補は状況を分析した。この状況なら突入は可能だと・・・。

「こちら中野。操舵室の前に来ました。犯人は2人、拳銃を机の上に置いています。突入許可をお願いします」

「わかった! 突入を許可する!」

 大橋署長からすぐに連絡があった。それを聞いて中野警部補は部下に左手で指示した。するとすぐに訓練どおり配置についた。犯人たちはこちらの動きにまだ気づいていない。中野警部補は左手の指でカウントダウンした。

「3,2,1!」

 そして左手を前に出すと突入班は一斉に動き出した。

「警察だ! 手を挙げろ!」

 泊巡査部長が操舵室に飛び込んで拳銃を構え、中野警部補と藤井巡査長はそれぞれが2人の犯人の男に向かって行った。後から入った渡辺巡査は人質のそばに行き、彼らを守った。 

 いきなりの襲撃に犯人の男たちは驚いてとっさに机の上の拳銃に手を伸ばしたが、その前に叩きのめされて組み敷かれた。

「逮捕監禁罪の現行犯で逮捕します!」

 犯人の2人の男は手錠をかけられた。あっという間の見事な逮捕劇だった。

 中野警部補は机の上に残された拳銃を手に取った。

「あらっ? これは・・・」

 彼女は拳銃を調べてそうつぶやいていた。


 ◇


 佐川刑事と梅原刑事は多目的室に先生や生徒を保護するために向かった。船員たちも船室に集まって避難しているためここには誰もおらず、通路はがらんとしていた。だが中の様子は何か見慣れた場所のような気がする・・・佐川はそう感じていた。湖上署が元は先代の「うみのこ」だったからそう思えたのかもしれない。

 やがて佐川刑事は多目的室の前に来た。犯人から逃れるためにドアは施錠されている。

「警察です。皆さんを保護するために来ました。ここを開けてください」

 するとドアが開いた。顔を出した本庄先生が言った。

「警察の方ですね?」

「ええ。湖上署の佐川です。こっちは梅原です」

 佐川刑事たちは警察手帳を示した。それで本庄先生はほっとして2人を多目的室に入れた。

 多目的室の中はよどんだ空気がたまっているようだった。生徒はずっと多目的室に閉じ込められ、待ちくたびれた顔をしてじっと座っている。一方、先生たちも長い緊張感に疲労の色を強くしていた。

「もう大丈夫です。安心してください」

 佐川刑事はそう声をかけた。

「そうですか。それはよかった。ところで避難はどうなったのですか? 勝田という船員の方が誘導してくれるという。あれからかなり時間が経っているのに進みませんが・・・」

「避難?」

 佐川刑事は聞き返した。船員は船室に集まっている。生徒を非難させるとは聞いていない。

「そうです。1組ずつ避難させるとか言って・・・。神水学園の5年1組が行きましたが・・・」

 本庄先生がそう答えた。それを聞いて佐川刑事ははっとした。

(まずい。犯人はもう一人いた! もしかしたら5年1組の生徒を人質に取るつもりかもしれない。このままで危険だ!)

「佐川さん、どうしたのです?」

 横にいた梅原刑事が佐川刑事の様子を見て聞いた。

「大変だ! もしかしたらその船員は犯人の一味の可能性がある。探してくる。お前はここに残って生徒を守り、このことを中野警部補に連絡してくれ!」

 佐川刑事はそう言い残してあわてて通路に出て行った。

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