第6話 2人の不審者
『うみのこ』の船内を作業着を着た男が2人歩いていた。一人は金髪、もう一人はスキンヘッド・・・彼らは胸に食品業者の身分証をつけていたが、何か怪しげだった。その男たちはスマホをちらちら見ながら何かを探しているようだった。
その様子を見とがめた船員が声をかけた。
「何かお探しですか?」
「いえ、ちょっと・・・」
男たちは慌てていた。その船員は不審人物の疑いを持った。
「業者の方ですか?」
「ええ、まあ、そうです」
「どうしてまだ船にいるのですか? もう出航しますよ。お名前は? ちょっと確認します」
船員は逃すまいとして通路をふさいだ。そして船内PHSで連絡をとろうとした。すると男たちはアイコンタクトをすると急に船員に襲い掛かった。船員を壁に押し付け、手に持っていたPHSを取り上げた。そして拳銃を出して船員の首に当てた。
「騒ぐな! 言うことを聞かないと痛い目に遭うぞ!」
船員は震えながらゆっくりうなずいた。
「生徒はどこにいる? 案内しろ!」
船員は言われるままに生徒がいる多目的室の方に歩きだした。男たちはその後ろから拳銃を船員の背中に突き付けていた。
その時、「うみのこ」の出港前の汽笛が鳴った。もうすぐ大津港から離れる。それを聞いて男たちは慌てだした。
「まずいぜ! 船が出ちまう!」
「ああ、そうなったら簡単に逃げられねえ。どうする?」
2人の男は深刻な様子で相談し始めた。だが結論が出ないままに時間だけが過ぎる。男たちは船員のことなど忘れてしまったかのようだった。そこで船員は男の隙を見て逃げた。
「あっ! 待て!」
「逃げるな!」
男たちが船員を追った。船員はこの事態を操舵室に報告しようとしたが、階段の前で男たちにつかまった。
「この野郎! 手間を取らせやがって!」
「こん畜生!」
男たちはその船員に蹴るわ殴るわの暴行を加えた。すると船員は気絶してしまった。
「まずいぜ!」
「まあ、いい。それより仕事を片付けようぜ。かなり時間を食ってしまった」
2人は粘着テープで船員の手足を巻き、その口をふさいだ。そして近くの小部屋に突っ込んだ。これでしばらく見つかることはない。
だが多目的室に向かおうとすると、窓から遠くに大津港が見えた。かなり船が沖に進んでいるのがわかった。
「やばい! もうかなり岸から離れてしまった」
「こうなったら作戦変更だ」
「どうするんだ?」
「操舵室を占拠してこの船を乗っ取る。そしてターゲットを手に入れてボートでずらかるのさ。奴に用意させよう」
金髪の男はスマホでメールを送った。スキンヘッドの男は不安げに尋ねた。
「うまくいくのか?」
「ああ、陸と違って湖の上は警察も来ねえ。邪魔者はいない。さっさとすませれば大丈夫だ」
2人の男は操舵室に向かった。
◇
「うみのこ」は予定通りに出港して湖を快適に航行していた。操舵室には船長はじめ船員が詰めている。
「特に問題はないようだな」
船長は座席にゆったりと腰を下ろした。
すると操舵室の扉がいきなり開いて、あの2人の男が乱入してきた。その手には拳銃が握られている。
「俺たちがこの船を乗っ取る! 言うことを聞け!」
船長たちはいきなりのことでとっさに動けない。まさか不審者が乗り組んでいるとは思ってもいなかったからだ。
「どいつが船長だ?」
「私だ」
船長はゆっくり右手を挙げた。
「すぐに船を停めろ!」
「この場所にとどまるのか?」
「そうだ! さっさとしねえか! 痛い目に遭うぞ!」
スキンヘッドの男の脅すような言い方に、船長は動揺しながらも機関を停止した。
「これでいいか」
「よし。じゃあ、俺たちの要求はこれだ!」
スキンヘッドの男はメモを渡した。船長はそれを一目見てすぐに首を横に振った。
「そんなことはできない。そんな要求はのめない!」
ようやく落ち着いてきた船長はきっぱりと拒絶した。
「それなら俺たちにも考えがある!」
金髪の男は拳銃をぐいっと突きつけた。
「乗客の安全は絶対だ!」
船長はにらみ返した。その迫力に金髪の男は少したじろいでいた。
「おい! やめろ!」
スキンヘッドの男が金髪の男を隅の方に引っ張っていった。
「こいつらはいうことを聞きそうにねえ!」
「じゃあ、どうするんだ?」
「奴に連絡する。俺らがここを占拠している間にやってもらうんだ。うまくいったら俺らも一緒にここからずらかる。これでどうだ?」
「仕方がない。少し待つか。早く連絡しろ!」
2人がそう話している間に船長は座席の横に手を伸ばしていた。そこには船内に異常を知らせる警報ボタンがあった。船長は2人に気づかれないようにそれを押した。
(これでこちらの異変を誰かが気づいてくれる。それまで乗客の身に危険が及ばないようにしないと・・・)
船長は窓の外をじっと見ていた。
◇
それは多目的室のオリエンテーションで生徒に注意を与え、それぞれの宿泊する部屋に荷物を持って移動というタイミングだった。
「ファン! ファン! ファン・・・」
いきなり船の警報装置が鳴り響いた。
「なんだ!」
「何か鳴っている!」
生徒たちは何が起こったのかと騒ぎ出した。
「一体、何なの?」
本庄先生もそれに驚いたものの、すぐに落ち着いて生徒たちを静めようとした。
「皆さん! 静かに!」
だが一向に収まらない。引率してきた教師たちも動揺していた。
「何かあったのでしょうか?」
「とにかく皆さん、落ち着いて。ちょっと聞いてみましょう」
本庄先生は「うみのこ」の係員に船内電話を入れた。
「もしもし。多目的室です。何かあったのですか?」
「いえ、わかりません。こちらにも連絡がありません。操舵室に問い合わせてみます。その部屋で待機してください。それと念のため部屋の鍵をかけて、係員以外にはドアを開けないようにしてください」
それで電話が切れた。その係員も何が起こったのかもわからず、慌てている様子だった。
「どうでした?」
教師たちが本庄先生に尋ねてきた。
「わからないようです。とにかく事態がわかるまでここで待機しましょう。大崎先生は部屋の鍵を閉めてください。皆さんは生徒たちを落ち着かせてください!」
そう言う本庄先生も心の中では動揺していた。彼女はここの責任者としてそれを必死に抑えようとしていた。
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