序章

第2話 プロローグ

 今朝も佐川刑事はいつものように警察船「湖国」の展望デッキに上がっていた。周囲の山々は赤や黄色に染まっている。あと2週間もすればその葉は落ちて、寒々とした冬の景色に変わっていくだろう。佐川刑事は周囲の景色を眺めながら出港までの時間を一人で過ごしていた。

 だが今日はその展望デッキに誰かが上がって来た。

「佐川。変わりはないか?」

 そう呼ばれて振り返ると、それは荒木警部だった。その手にはすでに開封されている封筒を持っていた。

「はい。特には・・・」

 佐川刑事がそう答えると荒木警部はその封書を差し出した。

「これが捜査課に送られてきた」

 佐川刑事は受け取って中身を取り出して見た。それには手紙と写真が入っていた。彼は写真を手に取って見てみた。そこには幸せそうに微笑む母子の姿があった。そしてその背景には紅葉で真っ赤に染まったトンネルが写っていた。

「西教寺ですね」

 その写真を見て佐川刑事は言った。この晩秋の時期、山々の木々は一斉に紅葉する。滋賀県には紅葉の名所は数多くあるが、中でも西教寺の「もみじ参道通り抜け」は名高い。

「そのようだ」

「2人で幸せに暮らしているのですね」

 佐川刑事はそう言って写真の2人をじっと見た。それは彼にあの時のことを思い出させていた。


 あれからもう1年近くたつ。その日も周囲の山々が赤や黄色に染まっていた。そんなのどかな風景を映す琵琶湖でいきなりあの事件が起こったのだ。だがそれは序章に過ぎなかった。表向きは穏やかに暮らしていた人たちを嵐に巻きこんで、すべてを跡形もなく吹き飛ばそうとしていた。だが真実は消えることはなかった・・・。

 だがそれは今に始まったことではなかった。もう11年前からそうなる運命さだめとなることが決まっていたのかもしれない。

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