びわ湖錦秋の逃避行 ー湖上警察よりー

広之新

第1話 あらすじ

 警察船「湖国」の展望デッキにいた佐川刑事は荒木警部から捜査課に届いた封書を渡された。その中に入っていた写真は1年前の紅葉の時期に起こった事件を思い起こさせた。

 それは小学5年生が乗る学習船「うみのこ」が突如、シージャックされた事件から始まった。通報を受けた湖国が追い、荒木警部や中野警部補、そして佐川刑事たち湖上署の警察官の活躍で3人の犯人を逮捕することができた。犯人たちは神水学園の生徒の水上翔太を連れ出すように何者かに裏バイトで雇われていた。翔太は神水学園の理事長の水上雅雄の子供であり、その事件の前に担任の緑川由美とともに急に下船していた。

 事件は解決したかに見えたが、今度は翔太と由美が行方不明になっていた。由美のスマホは副担任の大崎が預かっており、大崎は由美と連絡がついていた。だが大崎は由美に頼まれて警察や他の人には秘密にしていた。

 そんな事態になっても父親の雅雄は無関心だった。そして継母の貴子は自分の子供の和雄と秘書の大塚とともに高島の別荘に行って戻って来ようとしない。家令の森野だけが翔太を心配していた。

 誘拐事件として県警捜査1課の片山警部補や堀野刑事、内田刑事ら捜査員、それに湖上署の荒木警部や佐川刑事たちも加わって捜査に当たる。駅の防犯カメラに由美と翔太が赤木竜二の車に乗ったことが記録されていた。竜二は由美の前夫であった。

 やがて由美のスマホから身代金の要求がメールであり、紅葉が背景の翔太の画像もも送られてきた。だがその画像からその場所を特定できない。犯人は神水学園の教師の本庄と大崎の2人を現金運搬に指名してきた。2人は犯人の指示通りボートに乗り、現金の入ったリュックを湖に置いた。だが犯人は現れなかった。実は運搬の途中、共謀した大崎が現金を入れ替えて待合室に隠していた。それを夜間に受け取りに来た犯人を佐川刑事は湖に追い詰めた。だがボートに細工がされてあり、犯人は湖に落ちて溺死した。それは赤木竜二だった。そして大崎も何者かに殺されていた。

 竜二の持っていたのは2台のスマホだった。そのうち1台は由美のスマホで、脅迫した大崎から手に入れたものだった。その水没したスマホのデータを取り出すと、由美が水上家の事務員の奥山と連絡をとっていたことが判明した。

 実は奥山は由美の叔父で、彼女に様々な情報を流していた。また彼のアパートの部屋からDNA親子鑑定書のコピーが見つかり、雅雄と翔太は親子関係がないことがわかる。また病院を調べた佐川刑事は生後2か月で亡くなっていた由美の子供のことを調べた。

 奥山は取り調べで秘密を話した。実は翔太は由美の子供である楓太であり、すり替えられていたのだ。和雄に財産を相続させるために貴子と大塚が翔太の殺害を計画し、雅雄はそれを黙認している。それにある警察官も加わっており、それで由美は一人で翔太を守るために逃げているという。翔太が狙われていると知った荒木警部は2人を保護するため永源寺などの捜索を進めた。

 由美と翔太は永源寺の宿舎に隠れていたが、奥山が捕まったことを知って湖東三山を経て彦根まで逃げていた。だが偽メールに玄宮園に誘い出され、そこで内田刑事に捕まってしまう。彼こそが貴子たちに協力した警察官だった。そこには貴子がおり、大塚の偽名を使っている凶悪な紅林もいた。翔太は由美が本当の母親であることを貴子に教えられてショックを受ける。

 佐川刑事はワゴン車に乗った貴子たちを追跡した。その前に由美を盾にした内田刑事が立ちふさがる。拳銃で撃たれそうになったが、荒木警部の助けがあって内田刑事を逮捕して由美を助け出した。だが湖に逃げた貴子や紅林が翔太を殺そうとしているのを由美から聞き、佐川刑事は湖に彼らを追っていく。その途中、湖国が現れ、中野警部補の助けもあって貴子や紅林も逮捕して翔太を助けることができた。佐川刑事は由美の心中を翔太に話し、由美に対するわだかまりを取った。一方、由美は荒木警部とともに高島に向かった。2人はメタセコイヤ並木で会い、母子として抱き合った。

 一方、雅雄はこの予想通りの結末に満足していた。翔太が本当の子でないことがわかり、本当の息子の和雄にすべての財産を相続させることができるからだ。しかも邪魔になった貴子も離婚できるという。だが荒木警部から渡されたDNA親子鑑定書により、和雄が自分の子供でないことを知らされて嗚咽するのであった。

 その1年後に届けられた封書には、翔太は由美に引き取られ、緑川楓太になった手紙も入っていた。また大橋署長の話では雅雄は心の病で入院したままで、水上家は和雄を主人として森野と奥山が支えるという。

 佐川刑事たちは周囲の山々の紅葉を目にしながら、「うみのこ」の出発を見送っていた。

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