第36話
大きい木の枝は日頃から体を鍛えている勘吉さんにお任せして、僕は細かい枝を集めることに。
アヒルちゃんたちは、庭のあちこちを探索し始める。
いろんな隙間にくちばしを突っ込んでガサガサ……。
アヒルちゃんって服の下とかにくちばしを突っ込んで、あんなふうに探しものをするのが好きなんだよね。
多分、遊びの一環だと思うんだけど……え? やっぱり遊びだと思ってる?
「くわっ!」
「……お?」
なんて思ってたら、モチが葉っぱを沢山咥えてやってきた。
なんだ、ちゃんと掃除してくれてるじゃん。偉い偉い。
そんなアヒルちゃんたちの協力もあって、掃除は30分ほどで終わった。
木の枝をロープで縛り終え、掃除完了。
「皆さん、本当にありがとうございます」
おばあちゃんが何かを持ってきてくれた。
キンキンに冷えた麦茶と羊羹だ。
僕と勘吉さん……それに、アヒルちゃんたちの分まで用意されている。
「これ、アヒルちゃんも食べられるかしら?」
「多分大好物だと思いますよ。……な?」
「「「ぐわ~っ!」」」
もちろんと言いたげに翼をばたつかせるモチたち。
見た目はアヒルだけど、胃袋は異世界の神獣様だからね。
むしろ一個じゃ足りないくらいだと思うけど──。
「……わっわっ?」
案の定、最初に食べ終えたテケテケから「おかわり欲しいんですけど?」と物欲しげに見られてしまった。
続けて、ポテとモチにも……。
そ、そんな目で見ないでくれ。
これは僕の羊羹で……ううっ!
結局、可愛い圧に負けて、僕の分を三等分にしてみんなに分けてあげた。
くそう。めちゃくちゃ美味しそうな羊羹だったのに。
次取り寄せる和菓子は羊羹にしようっと。
お酒とも良く合うだろうし、神埼さんも喜ぶでしょ。
「……あ。そう言えば、神埼さんは大丈夫なのかな?」
「神埼さん?」
そう尋ねてきたのは勘吉さん。
僕は小さく頷く。
「隣山に住んでいる方です。この前偶然ホームセンターで会って、仲良くさせてもらってるんです」
「へぇ、そうなんだ」
勘吉さんは、しばし何かを思い返すような素振りを見せ、続ける。
「そういや隣山に都会の人が引っ越して来たって言ってたけど、その人かな? なんでも凄い格好をしてるとかなんとか……」
「間違いなく、その人ですね」
即答した。
山を歩くときは宇宙服みたいな防護服を常に着てるし。
てなわけで、羊羹をありがたく頂いた後(僕は頂いてないけど)少しだけおばあちゃんと雑談してから、帰ることにした。
勘吉さんの家に一旦戻り、消防団の班長さんに安否確認の報告をする。
確認が取れていなかった世帯は全部で数十件ほどだったけど、全員の無事が確認できたらしい。
けが人もゼロ。本当に良かった。
解散する頃には夜になってたけど、空にはきれいな星が輝いていた。
これは明日も暑くなりそうだ。
勘吉さんから今晩は泊まっていくよう勧められたけど、丁重に断った。
神埼さんにLINKSを送ったけど既読がつかないし、ちょっと心配になったんだよね。
勘吉さんの家を後にしたその足で、神埼さんの家に寄ってみる。
パッと家を見た感じ、何の被害もなさそう。
一応安否の確認をしたくて呼び鈴を鳴らしたら、凄い格好の神埼さんが出てきた。
前面が大開放されているモコモコのジップパーカーの下に見えるのはスポーツブラ。そしてホットパンツ。
こ、これは、ちょっと目の行き所に困る格好だ。
「……あれ? アキラさん?」
「こ、こんばんは……」
「どしたんスか? こんな時間に」
「あ、えと、LINKSに既読がつかなかったので、大丈夫かなと」
「あ~……えっと……ごめん、酔いつぶれてたッス。てへぺろ」
詳しく聞けば、台風で外に出ることもできず、お昼くらいからずっとお酒を飲んでいたんだとか。
それで酔いつぶれ、今に至る。
……いや、酔いつぶれて寝てただけか〜い!
「えへへ……アキラさん家は大丈夫だったスか?」
「はい。全く被害はありませんでした」
「あ〜、そう言えば写真送ってきてくれてたッスよね。次、台風きたらアキラさん家に泊まるんで、ヨロ〜」
「……うぇっ!?」
と、と、泊まる!?
いやいや、流石にそれは色んな意味でマズいのでは!?
「く、来るのは全然良いですけど、泊まるのはちょっと……」
「どしたんスかアキラさん? 顔真っ赤ッスよ?」
「な、なんでもないです!」
「うふふ、アキラさんってばウブなんスねぇ? かわゆい」
「……っ!?」
こっ、これは完全におちょくられている!?
クソっ! これだから陽キャは!
色々と心配して損した!
「……とりあえず、帰りますね」
「はい、わざわざ来てくれてあざますっ! ……あ、ちょっと飲んでいきます?」
「いきません」
「ですよね〜、ワラ」
ケラケラと笑う神埼さん。
ちょっとウザい。
声がデカいし、夜のテンションじゃないよ……。
夜っていつもこんな感じなんだろうか。
……あ、さっき起きたばっかりだからか。
ちょっとげんなりしつつ、停めてあった軽トラに向かう。
「……ん?」
ふと視線を送った先……暗い山の中に、ぼんやりと光る青白い毛並みをしたキツネさんを見つけた。
あの雰囲気、多分、神獣様だろう。
隣山にも出張してるのかな?
……あれ? だけど、異世界からやってきた神獣様は全員御科岳にいるって言ってなかったっけ?
なんで隣山に?
「……もしかして土砂崩れのせいとか?」
ほら、土砂崩れで住処を追われちゃったとか。
ふと、嫌な予感が脳裏をよぎる。
そう言えば、今朝はクマさんしか庭に来てなかったよね。
白狼さんとかドラゴンさんとか、大丈夫なのかな?
ううむ、ちょっと心配になってきた。
―――――――――――――――――――
《あとがき》
ここまでお読みいただきありがとうございます!
少しでも「先が気になる!」「面白い!」と思っていただけましたら、
ぜひページ下部の「☆で称える」をポチポチッと3回押していただければ、執筆の原動力になって作者が喜びます!
フォローもめちゃくちゃ嬉しいです〜!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます