第34話
「こんにちは、神獣様。お体、拭きましょうか?」
「ふごっ!?」
ギョッと身をすくめるクマさん。
身振り手振りを加えて、なにやらアピールしてくる。
「ふごふごっ! がおーん!」
「……ええと?」
何て言ってるんだろう?
小躍りしているところを見る限り、喜んでそうだけど。
ていうか……踊るクマさん、めちゃ可愛いな。
「それじゃあ、あっちの納屋で雨宿りしながら拭きましょうか」
「ふごっ!」
クマさんがコクコクと頷く。
しかし、とそんなクマさんを見て思う。
近くで見ると体毛がすごくフワフワだな。
鹿さんやタヌキさんもこんな感じだったし、神獣様の体毛って全員フワフワなんだろうか。
しかも撥水性があるらしく、玉になった雨がポタポタと落ちてるし。
これなら拭く必要はないんじゃないかな……と思ったけど、物欲しそうな目で見られたのでタオルで拭いてあげることに。
納屋の庇の下、滴り落ちる雨水を拭いて、ついでにナデナデ……。
うわぁ、やっぱりフカフカだ。
軽く拭いただけで、まるで乾燥機にかけた毛布みたいになってる。
これはすごい。
手当たり次第にナデナデナデ。
「……ぐふっ、ぐふっ」
クマさん、ゴロンと寝転がってしまう。
すっかり気持ち良くなったみたい。
ついでにお腹を見せて「もっと撫でてくれ~」と、四肢をワキワキと動かしはじめる。
な、何だこの生物は……。
かっ、可愛いがすぎる!
これはクマじゃなくて、でっかいぬいぐるみだ!
ぜひ、想像してみてほしい。
自分より大きいフカフカのクマのぬいぐるみが、撫でてほしそうに無防備な姿でウェルカムしている姿を……。
そんな生き物を前に、我慢できる人間などいるだろうか。
いや、いない!
「おりゃっ!」
クマさんのフカフカの毛にダイブして、全身を使ってナデナデする。
うおおおお! 匂いもすごく良い!
甘い香りというか、何というか……。
「……あれ?」
と、クマさんが怪我をしているのに気付いた。
場所は左足の内側。
火傷をしているみたいになっていて、そこの部分だけフカフカの毛が黒く焦げちゃっている。これはちょっと痛そうだ。
「これ、怪我をしたんですか?」
「……ふごっ」
何やら神妙な雰囲気で頷くクマさん。
そう言えば、ここに来る神獣様たちは戦で怪我を負っているってリノアちゃんが言ってたっけ。
きっとこのクマさんもそうなんだろうな。
ぬいぐるみなのに、立派すぎる。
──いや、ぬいぐるみじゃないけど。
「よしよし、よ~しよしよし」
頑張ったご褒美ってわけじゃないけど、全身を使って撫でまくる。
次第に毛艶が良くなってきた。
いや、それだけじゃなくて──。
「……あら? 怪我が消えた?」
いつの間にか、痛々しかった左足の怪我も消えてしまっていた。
「……がうっ!」
クマさん、突然立ち上がる。
おまけに、さっきまでの重い足取りはどこへやら、腰に手を当ててスキップしはじめた。
それを見て、色んな意味で唖然とする僕。
「ど、どうしたんですか?」
「ぶほっ♪ ぶほっ♪」
「……?」
良くわからないけど、元気になったのかな?
だけど、どうして?
「……あ。もしかして、僕の体に浸透しちゃった神気のおかげ?」
神域の力って毛艶を良くするだけじゃなくて、怪我も治すんだよね。
だって、怪我をした神獣様たちがここに来てるわけだし。
つまり、神域の力、神気を手のひらから出せるようになった僕が撫でると、瞬く間に神獣様の怪我を治しちゃうってわけか。
撫でただけで怪我を治したり元気モリモリにさせちゃう移動型神域の力……凄まじいな。
クマさんは軽やかなステップで妙な踊りを披露してくれた後、「ふごっ」と深々とお辞儀をして納屋を出ていった。
すっかり元気になったみたいだし、そのまま帰るのかな。
……と思ったけど、松の木の下に移動して居眠りをはじめちゃった。
いやいや、クマさん?
暴風雨じゃないとはいえ雨は降ってるわけだし、納屋でゴロゴロすればいいのに。モチたちも喜んでたし、この小雨ってそんなに気持ちいいのかな?
「……ていうか、改めて変な天気だよなぁ」
庇の下から空を見上げてつくづく思う。
敷地外は台風の真っ只中なのに、この庭は小雨が降ってるだけ。
普段と変わらず、穏やかな空気が流れている。
「台風対策した意味、なかったな」
思わずため息。
この2日間の苦労は何だったんだろう……。
というか、白狼さんってずっと前から神域に来てるみたいな空気出してたけど、ここが台風の影響を受けないって知らなかったのかな?
台風の事自体知らないみたいだったし、初体験だったとか……?
首を捻っているとモチたちが帰ってきた。
「くわっ」
「お、水浴びは終わり?」
「わっわっ。オワリ」
「オワリ」
「キモチヨカッター」
「そりゃよかった。朝ご飯あるから、食べよう」
「「「くわっ!」」」
待ってましたと言いたげに、綺麗にハモるアヒルちゃんたち。
なんだかんだで時間が経っちゃったから、ハムエッグトーストをもう一回温めないとね。
──てなわけで。
少し遅めの朝ご飯をみんなで食べて、台風が通り過ぎる昼過ぎくらいまで待ってから、雨戸を打ち付けてる釘やらを外して回ることにした。
勘吉さんから「緊急の連絡」が入ったのは、そんなときだった。
―――――――――――――――――――
《あとがき》
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