第33話
台風対策をした2日後。
今日は久しぶりの雨だった。
と言っても土砂降りってわけじゃなく、しとしとと降る静かな雨だ。
熱くなってきたこの時期には丁度いい感じ。
こういう雨って、何ていうんだったっけ?
涼雨? だっけ?
雨はあんまり好きじゃないけど、こういうのだったらたまには降ってもいいかな。涼しくなるのもそうだけど、畑の水やりをやらなくて済むし。
ちなみに、畑の台風対策は昨日やった。
株の根本に土を盛って倒れないようにしたり、トウモロコシは周囲に支柱を立ててロープでぐるっと囲い、倒れないように結んであげた。
トウモロコシも大きくなってきたからね。
台風で全滅しましたじゃ、悲しくて夜も眠れなくなって──。
「……って呑気なことを考えてる場合じゃなくて、台風が来てるはずだよね!?」
縁側でひとりツッコミをしてしまった。
隣で一緒に庭を眺めていたモチが「どした?」と首をかしげる。
天気予報では、今日の朝に巨大台風が上陸するはずだった。
何でも最大風速50メートルほどの猛烈な勢いがあるとかなんとか。
だけど今現在、小雨が降っているだけ。
風もまったく吹いていない。
もしかして、まだ上陸してないのかな?
なんて不思議に思っていると、ピロンとスマホが鳴った。
神埼さんからLINKSのメッセージが来たようだ。
『雨と風がひどくて無理ゲーなんスけど、そっちは大丈夫スか!?』
「……え? 雨と風がひどい?」
それ、どこの世界線の話?
またまたご冗談を……と神埼さんに送ろうとしたら、シュポッと写真が送られてきた。
神埼さんの自撮り写真だ。
モコモコしてる可愛い部屋着を着てる神埼さんは、泣きそうな顔。
その後ろに窓に大量の葉っぱがくっついてるし、かなりの暴風雨であることがうかがえる。
「……」
視線をウチの窓に戻す。
葉っぱなんて飛んできておらず、しっとり濡れてる程度。
おかしい。
これはおかしすぎる。
「……あっ、もしかしてアレのおかげ?」
傘を差してモチと一緒に庭に出る。
パラパラと小気味よい雨音を聞きながら、見上げた家の敷地の外──。
森の木々が、荒々しくうねっていた。
バラバラと散った葉っぱが渦のように飛び回っている。
だけど、その葉っぱは庭には全く落ちてきてこない。
「ま、間違いない! これって神域の力のおかげだ!」
ぐるっと周囲を見渡してみたけれど、穏やかな天候なのは家の敷地内だけ。
そういえば、これまで土砂降りの雨って降ったことなかったっけ。
山の天気ってこんなもんなんだな~って呑気に考えてたけど、神域の力に守られていたんだな。
すごいぞ神域。
神獣様を癒やす以外に、こんな力があったなんて。
「でも、普段から落ち葉がこないようにしてもらえないのかな?」
ほら、落ち葉掃除って結構大変じゃない?
ちょっと贅沢すぎる?
神埼さんに「こっちはこんな感じです」と庭でピースしている自撮り写真を送ったら「なにそれずるいッス!」と怒り顔スタンプが返ってきた。
しまった。
次に台風が来たら、ウチに押しかけて来るかもしれない。
「くわっ! くわっ!」
「……ん?」
と、池を見に行っていたモチがドタドタ走ってきて、僕の前で急停止した。
「ぐわ~っ! わっわっわっ!」
バタバタと翼をバタつかせ、トテトテッと再び池の方に。
付いてきて……みたいな雰囲気を感じるけど、なんだろう?
何かあったのかな?
求められるままモチに付いていくと、池の蛇口からドドドッと大量の水が出ていた。
この蛇口はキッチンと同じく山水が出るようになっていて、池の水を綺麗に循環させるために使っている。
昨日見たときはチョロチョロと出てるくらいだったのに、まるで滝みたい。
まぁ、池の水は一定量になると自動的に排水されるみたい(コレを作ったおじいちゃんすごい)なので、溢れ出すことはないんだけどね。
「がっがっがっ!」
モチは「見てて~」と言いたげに僕を見ると、ドボンと池の中に飛び込んで滝の下にスイスイッと向かう。
そしてバチャバチャと、まるで滝行のように水を浴び始める。
「ぐわ~っ! ぐわ~っ! キモチイイ! アキラモヤル!」
「やらないから」
凄まじい量の水を浴び、嬉しそうにバシャバシャとはしゃぐモチ。
ちなみにアヒルちゃんの羽毛は撥水性が凄まじい。
浴びた水はすべて、まん丸い水の玉になって落ちていく。
つまり、今現在、全身で凄い量の水を浴びているもんだから、飛び跳ねてくる水の量が半端ない。
あの、モチさん?
いつもと違う池の楽しみ方を教えてくれるのはすごく嬉しいんだけど、全身ずぶ濡れになっちゃったんですけど?
雨じゃなくてモチの水浴びの水でびしょ濡れになるって、どんなオチだよ。
「がーがーがー!」
「うん、教えてくれてありがとう。だけど、ひとまず着替えてくるね」
というわけで、水浴びするモチを置いて足早に帰還。
ぐずぐずしてると、すぐにテケテケやポテが「ヒャッホウ! 良いもの見つけたぜ!」みたいな雰囲気でやってくるだろうし。
「ぐっぐっぐっ!」
「が~~~っ!」
玄関のほうから、ズドドドドッと2羽のアヒルちゃんがダッシュしてきた。
ほら、案の定来た!
「ぐわっぐわっぐわっ!」
「わっわっわっ!」
「がーがーがー」
モチに合流し、猛烈な勢いではしゃぎまくる。
せっかく神域の力で台風の力が弱まってるのに、池の水が豪雨のごとく周囲に飛び散っている。
うん。これは足早に逃げて正解だったな。
モチたちが遊んでる間に、僕は朝ご飯を作ることに。
今日の朝ご飯は、シンプルにハムエッグトーストを作るつもりだ。
雨の日って気圧の影響か頭が重だるくなるから、すべてのことが億劫になる。
そういう場合は、何もやらないに限るよね。
それが許されるから山暮らしって最高!
ハムエッグトーストの作り方は極めて簡単。
食パンに材料を乗せて焼くだけ。
本当は庭の石窯を使って焼きたかったんだけど、ガッチリ台風対策してるから使用不可。残念。
「……ま、市販のオーブントースターでも十分美味しいけどね」
食パンの真ん中に少しだけくぼみを作って卵を落とす。
その周囲にチーズと塩。それにハムを乗せる。
それをオーブントースターに投入して、5分ほど焼く。
チーズがとろっとするくらいに焼けたら出して、黒胡椒をふりかけて完成。
うん、実にシンプル。
オーブンから、何とも食欲をくすぐられるパンのいい香りが溢れ出す。
食べちゃいたいけど、絶賛水浴び中のモチたちを待つことに。
先に食べたら激オコモードになって、3羽同時に突っついてくるんだもん。
結構痛いんだよね、アレ。
やめさせようとしたら「お!? お遊びタイムか!? やったぁ!」って盛り上がっちゃうから反応すらできないし。
子犬の噛み癖を治すみたいな感じで、どうにかならないのかな?
「……あ、神獣様だ」
縁側の窓から、神獣様が庭にやってくるのが見えた。
白い毛並みをした、大きなクマの神獣様。
暴風雨の中をやってきたので、体中に葉っぱがくっついちゃってる。
ちょっと可哀想。
何だか足取りも重い感じだし、拭いてあげたほうがよさそう。
急いで大きめのタオルを持って、庭へと出た。
―――――――――――――――――――
《あとがき》
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