第32話
昨晩、帰ってきてからモチたちと協議を重ねた結果、ホームセンターで台風対策の補強材を買ってくることになった。
台風が来るのは2日後。
今日からスタートすれば、十分間に合う時間だ。
ちなみに、協議したのは「何を買うか」じゃなくて「誰が付いてくるか」という話。補強材を買ってくるのは決定事項だったし。
それで、ホームセンターには全員で行くことになった。
3羽揃って行くのは初めてかな?
てなわけで、いざホームセンターに向かう。
「くわわっ」
「が~」
「ぐっ、ぐっ、ぐっ」
「あんまり騒ぐなよ~」
ペットカートに乗ったアヒルちゃんズに念を押す。
店員さんの許可が出てるとはいえ、他のお客さんの迷惑になっちゃうからな。
これから補強作業をしないといけないわけだし、ササッと必要な補強材を買って帰らないと──。
「あら、可愛い」
いきなり見知らぬお客さんに声をかけられた。
実に優しそうなおばさんだ。
「そのアヒルちゃんたち、ペット?」
「え? あ、ええと、ペット……なのかな?」
「チガウ~」
「……っ!?」
ちょ、モチ!
「……えっ? 今、アヒルちゃん喋らなかった?」
「い、いえ、今のは僕です! あは、あはは……」
冷や汗ダラダラ……。
勘弁してくれよモチちゃん。
人前で、さも当然のごとく受け答えするんじゃないよ……。
「こいつらはペットじゃなくて、家族みたいなもんで」
「仲が良いのね。3羽とも大人しくて、すごくお利口さん」
「ぐっ、ぐっ、ぐっ」
ニコニコのおばさんにナデナデされ、ご満悦のモチさん。
そんなことをしているうちに、いつの間にかカートの周りに人集りが。
「うわっ! 可愛い!」
「ママ見て~! アヒルちゃん!」
「3羽そろってカートに乗ってる!」
「すご~い」
アヒルちゃん、店内のお客さんたちに大人気になっちゃった。
確かに、ペットカートに並んで座って、顔をピョコッと出してる姿はとてつもない破壊力があるよね。
うん、わかる。
すごくわかるんだけど……これじゃあ全然買い物が進まない。
1メートル進む度に声をかけられ、結局、買い出しが終わったのは2時間後。
予定よりだいぶ時間がかかっちゃったよ。
なんとか補強用のベニヤ板に釘、ロープなどを買って帰宅。
ホームセンターを出たときは曇り空だったんだけど、自宅の空は快晴だった。
雲一つなく、カラッとした日本晴れ。
予報では2日後にモロに直撃するみたいだけど、本当なのかな?
予報が外れるなら外れるで良いんだけど、楽観視はできないよね。
対策はしておかないと。
「……よし、やるか」
まずは壊れかけている場所がないか状況確認から。
庭付近は毎日見てるけど、敷地の反対側はあまり行かないし。
できれば屋根とかも見ておきたいんだけど──。
「ぐわっ」
庭に出ていると、縁側からアヒルちゃんズがやってきた。
「どうした? 水浴びでもするの?」
「くわっ」
「がーがー」
「テツダウがー」
「……えっ」
びっくりした。
だって昨日、勘吉さんの家で手伝わないって断言してたじゃん。
もしかして、勘吉さんの前だったから恥ずかしくて拒否してただけ?
人前ではツンツンしてるのに家だと優しいって……まさかこいつらツンデレ属性持ちなのか?
ツンデレアヒルちゃんとか、最高かな?
「こんにちは、アキラ様」
モチたちの新たな一面に萌えていると、ふと声をかけられた。
白狼さんだ。
集まっている僕たちを見て楽しいことをやっていると勘違いしたのか、尻尾がわっさわっさと揺れている。
「木材が用意されていますが、これから何かをお作りになるのですか?」
「近々台風が来るみたいで、その対策をしておこうかなと」
「タイフウ?」
「暴風と豪雨が同時にやってくる大きい嵐みたいなものですよ」
「ああ、
ターファー?
耳慣れない名前だけど、異世界の台風のことかな?
「それは大変ですね。この場所が被害を受けてしまうと私たちも困りますし、お手伝いいたしますよ」
「えっ、本当ですか!? すごく助かります!」
モチたちも手伝ってくれるし、これはあっという間に終わりそうだ。
白狼さんが空に「わふん」と吠えると、どこからともなくワラワラと神獣様たちが集まってきた。
ざっと数えて15匹ほど。
す、すごい数だ。
鷲みたいな姿の神獣様もいるし、屋根のチェックをお願いできそう。
「それでは、みなで手分けしてやりましょうか」
「本当に助かります、白狼さん」
「ぐわわ~っ」
というわけで、全員で確認作業を始めることに。
僕とモチたちは家の壁を見てまわって、壊れかけている箇所がないか確認。
白狼さんは、以前修復してもらった庭の壁を。
他の神獣様は屋根の瓦をチェックしてもらうことにした。
30分くらいかけてしっかり確認してまわったけど、家の壁にはひび割れもなく壊れかけている窓もなかった。
屋根も庭の壁も問題ないみたい。
瓦も綺麗なままだった。
おじいちゃんがしっかり手入れしていたのかな?
白狼さんが尋ねてくる。
「ターファーの対策はこれでおしまいですか?」
「えと、次は雨戸ですね」
縁側の雨戸はそのままにしておくと、風で開いちゃったり壊れたりするからね。トンテンカンと軽く板を打ち付けておく。
「……お次は側溝と排水溝かな」
「ソッコー?」
ポテが首をかしげる。
「雨水が流れていく場所だよ。そこが詰まってたら、雨水が流れなくなって庭が冠水しちゃうかもしれないんだ」
僕が住み始めて一度も掃除してないから、数カ月分のゴミが溜まってるはず。
「うわ、すごい量の落ち葉」
案の定、側溝にはすごい量の落ち葉や泥が溜まっていた。
庭にも山の葉っぱが飛んできてるし、そうなるよね……。
もはや土になりかけている落ち葉を取り除いて綺麗に掃除。
だけどまだまだ終わりじゃない。
お次は庭の整理だ。
風で飛んでいかなように片付けとかないとね。
「アキラ様、この石窯はどうするんです?」
「ええっと……移動できないからロープで固定ですね」
止め釘を地面に刺して、ロープでぐるぐる巻きに。
ついでに庭の松の木もロープで補強しておいた。
最後に、風で吹き飛びそうなものを納屋にしまっておく。
掃除道具とか農具とか。
「……あ、そうだ、白狼さん。この納屋は開けておきますね。もし神獣様たちがいらっしゃったら、ここで休むよう伝えておいていただけますか?」
「お気遣いありがとうございます、アキラ様」
わふんと嬉しそうな声をあげる白狼さん。
まぁ、休めるスペースを確保してあげられるくらいしかできないけどね。
よし。敷地内はこれで大丈夫だろう。
「……あとは、敷地の外か」
以前に自宅に引いている山水が出なくなったことがあった。
台風が来てるときにまた水が出なくなったら大変だし、確認しに行ったほうがいいよね。
肌の露出を抑えるために作業着に着替えてジャングルブーツを履く。
すると、ドタドタとモチたちがやってきた。
どうやら僕が着替えているのに気づいたらしい。
明らかに「お!? お!? 今から散歩にいくのか!?」と喜んでるし。
「山に行くけど、一緒にいく?」
「「「イクが~」」」
綺麗にハモるモチたち。
本当にこいつらって散歩好きだよな。
白狼さんや神獣様たちに手伝ってくれたお礼を言って、いざ出発。
導水管をたどって、山の中に入っていく。
山の中は相変わらずのんびりとした時間が流れていた。
優しい葉擦れの音。
可愛らしい小鳥のさえずり。
さらに、眼の前にはヨチヨチと歩くアヒルちゃんの可愛いお尻がみっつ。
なんて癒やし効果バツグンのシチュエーションだろう。
先日、釣りをした沢でアヒルちゃんたちが水遊びをはじめたので、小休止をすることに。
家から持ってきたおやつを食べ、水分補給をしてから再出発。
10分くらい歩いていると、山水を濾過するための集水桝を発見した。
コンクリート製の立派な集水桝。
だけど、屋根がトタンでできていて、大きな石を載せてるだけ。
これじゃあ風で飛ばされちゃうかもしれない。
重りの石を追加して、ロープで軽く補強した。
「これでよし……っと」
ここでの作業は終わったけど、水源と自宅の間にこういう集水桝が3つあるからまだ帰るわけにはいかない。
モチたちが散歩に飽きる前に手早く終わらせないと。
しかし、と集水桝を見て、改めて思う。
「この集水枡……やっぱり少し光ってるよね?」
前みたときは気の所為かなと思ってたけど、やっぱりぼんやりと発光している。
どこかでみたことがある光り方だなぁと思って、ふと気づく。
これ、魔晶石の光り方と似てるな。
てことは異世界の技術で作られたやつなのかな?
もしくは、魔晶石を使っておじいちゃんが作ったとか……?
魔晶石って魔力が蓄積しているってリノアちゃんが言ってたし、水の美味しさにも影響しているのかもしれない。
「集水枡を作ってくれた人に感謝だね」
異世界の人かおじいちゃんなのかはわかんないけど。
手のひらを合わせ、次の集水枡へと向かう。
なんとかモチたちが「カエルが~」と言い出す前に、残りのふたつも無事に補強完了。
「……よし、これでおしまいだね」
ようやくほっと一息。
敷地内の対策も終わったし、いつ台風が来ても問題ない……はず!
「しかし、疲れたなぁ……」
木漏れ日を全身で受けながら、うーんと大きく伸び。
ホームセンターに行ったり山の中を歩いたり、かなり疲れちゃった。
今日は良く眠れそうだ。
「くわっ!」
沢で水遊びしていたアヒルちゃんたちが、ドタドタとかけつけてきた。
「アキラ、ガンバッタ」
「アキラ、カッコイイ」
「アキラ、リョウリガウマイ」
ねぎらいの言葉をかけてくれるアヒルちゃんたち。
あはは。ホント可愛いやつらだ。
後半にかけて取って付けたようなセリフだけど、ありがとうな。
作業を手伝ってくれてたら100満点だったのになぁ……。
実に惜しい。
「じゃあ、そろそろ帰るか」
「ぐわ~」
なんだか暗くなったので、ふと空を見上げると分厚い雲が太陽を隠そうとしていた。
これはひと雨来そうだな。
―――――――――――――――――――
《あとがき》
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