第31話

 山暮らし67日目。


 蒸し暑い日が増えてきた。


 少しずつ夏が近づいてきている証拠だな。


 昔から夏は大嫌いなんだけど、今年は意外と快適に過ごせるかもしれないと考えてる。


 だってほら、山って結構涼しいじゃん?


 近くには沢もあるし、モチたちと一緒に水浴びにも行ける。


 まさに避暑地って感じだ。


 だけど、少しだけ心配なのは梅雨のこと。


 神域の影響なのか、今まで自宅近辺でひどい雨は降っていないけど、流石に梅雨になるとそうもいかないはず。


 雨がひどいと庭にも出られなくなるし、ずっと家の中に引きこもってたら僕もモチたちも鬱々としちゃいそう。


 アヒルちゃんにはこまめな日光浴と土いじりが必要みたいなので、健康維持のために遊び場所を設けてあげないとな。


 子供用のビニールプールとか買ってあげようかな?


 ビニールプールでチャプチャプ泳いでるモチたち……。


 ううむ、想像しただけで可愛いがすぎる。


 写真撮影がすごく捗りそう。


 ……話が逸れちゃった。


 特に心配なのは、雨の被害だよね。


 畑も雨季の対策が必要になりそうだし。


 おじいちゃんのスローライフマニュアルやネットの知識を借りればなんとかできるかもしれないけど、実体験を元にした知恵にも頼りたいところ。


 というわけで。



「農作業のお手伝いがてら、勘吉さんにお話を聞きに来たってわけです」

「なるほど。そういうことだったのね」



 あはは、と笑う勘吉さん。


 お手伝いの農作業が終わった夕刻。


 勘吉さん宅のリビングで晩御飯をごちそうになりながら、雨対策を聞いてみた。


 なにせ、勘吉さんは何十年もここに住んでいる山暮らしのプロなのだ。


 雨季における山暮らしの極意を色々と知っているはず。



「簡単にできる畑の雨季対策って言ったら、マルチングかな?」

「マルチング?」

「土の表面が雨で流されないように、ビニールやワラで覆うんだよ。ほら、今日やったでしょ?」

「……あっ、あれか!」



 そう言えば、昼間に野菜に防風ネットや寒冷紗(薄い布みたいなやつ)をかけたり、株の根本に土をかぶせたりしていたっけ。


 あれって、全部雨対策だったんだ。



「まぁ、今日やったのは雨季対策じゃなくて、台風対策なんだけどね」

「台風?」

「くわっ?」



 僕と一緒に、モチが魚を咥えたまま首をかしげた。


 ちなみに今日の晩御飯はサンマの塩焼きに、ひじきご飯。


 ごく普通な家庭料理なんだけど、料理人静流さんの腕がいいのか、めちゃくちゃ美味しいんだよね。


 帰るときにレシピ聞いとこうかな。


 ──と、そんなことよりも。



「どうして台風対策を?」

「え? そりゃあ台風が来るからだけど?」



 勘吉さんが視線をテレビへと移す。


 ニュース番組で天気予報をやっていて、近々関東地方に大きい台風がやってくるみたい。



「あれ? もしかしてアキラくん、知らなかった?」

「そ、そうですね。自宅にはテレビがないので……」



 おじいちゃんの家で唯一無いものがテレビなんだよね。


 パソコン用のモニタはあるのに。


 老人ってネットよりテレビで情報を得る事が多いはずなのに、妙な話だよホント。


 しかし、台風かぁ。


 都会でも電車が止まったり冠水したりと色々な被害が出るし、警戒が必要なのかもしれないな。



「土砂崩れとか大丈夫なんですかね……?」

「それは大丈夫じゃないかな。御科岳は県が出してる土砂災害警戒情報の危険度も最低レベルだし……ほら」



 勘吉さんが見せてくれたのは、ハザードマップのポータルサイトだ。


 ここで地域を検索すると、過去の情報を元にした洪水や土砂災害などの危険度が色分けされたハザードマップが閲覧できるらしい。


 御科岳周辺地域を見てみたんだけど、確かに危険度レベルは低い。


 これまで土砂災害が起きていないってことを意味するみたい。


 ふ~む。だったら安心か。


 だけど、一度も土砂崩れが起きていないってちょっと不思議。


 もしかして神獣様たちの存在が関係してたりするのかな?



「けど自宅の対策は必要かもね。あの家は築年数がかなり経ってるからさ」

「あ、確かにそうですね……」



 内装はリフォームされてるからつい忘れちゃうけど、結構古い家なんだよな。


 家が倒壊するなんてことはなさそうだけど、古い雨戸とかを補強しておいたほうが良さそうだ。


 雨漏りしちゃったら大変だし。


 リノアちゃんから神域の守り人を任されたばっかりなのに、台風のせいで家に住めなくなりました……じゃあ、目も当てられない。



「よし、早速明日から作業をはじめよう。モチたちも手伝ってくれよ?」

「ぐ……っ?」



 モチちゃん、キョトンと僕の顔を見る。


 ちょっと待って?


 何その「えっ」みたいな顔?


 呆然とするモチに代わって、テケテケとポテが声高に言う。



「イヤが~」

「イヤが~」

「ええっ!?」



 華麗に断られちゃったんですけど!?


 あの家、あなた達の住処でもあるんだけど、倒壊しても良いの!?



「ぷっ……あっはっは」



 勘吉さんがケラケラと笑う。



「アヒルちゃんたち、イヤだって。ちゃんと返事して賢い子たちだね」

「しっかり仕事を手伝ってくれたら賢いって太鼓判が押せるんですけどね……」



 変なところばっかり賢くなっちまって。


 結局、可愛いから許しちゃうんだけどさ。


 ホント、モチたちってずるい。


 ちなみに、今日の農作業中は畑の周りの害虫取りに精を出していた。


 害虫駆除は病害を防ぐために大切なことなんだけど、どうせならネット張りとかを手伝ってほしかった……なんて思うのは贅沢なのかなぁ?





―――――――――――――――――――

《あとがき》


ここまでお読みいただきありがとうございます!


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