第四章 奇妙な力で助けちゃいました
第30話
「……お、きたきた」
自宅のチャイムが鳴って玄関に出ると、宅配便がやってきた。
毎度おなじみMamazonさん。
注文してからの一週間、このときを今か今かと待ち望んでいた。
早速、開封の儀を執り行う──なんて思ってたら、ピンクのリボンをつけたモチがヨチヨチとやってきた。
僕の足の下にやってきて、ヒョイッと荷物を覗き込む。
「ぐっ、ぐわっぐわっ?」
「これ? ハンモックだよ。子供の頃、森の中でハンモックで寝るのが夢だったのを思い出してさ」
えっへっへ。
嗜好品の一種だけど、生活の質を上げるために買っちゃったんだよね。
レジャー用と違って、蚊除けのスクリーンが付属してる就寝用をチョイスした。自立式じゃなくてロープを張る昔ながらのクラシックタイプだ。
畑のすぐ傍にいい感じでハンモックが設置できそうな木があって、そこに設置する予定。
ふっふっふ、今からワクワクが止まらないぜ。
「が~……?」
モチがハンモックと僕を交互に見比べる。
その目はどこか不安げだ。
「な、何?」
「オカネ、ダイジョウブが~?」
「……っ!? だっ、だっ、大丈夫だよ!」
ブワッと変な汗が出ちゃった。
これは必要経費なの!
だってほら、体を壊して療養生活をしてるわけだし!
「……てか、最近普通に喋ってるよね?」
「くわっ?」
モチは「しらな~い」とでも言いたげにプイッとそっぽを向くと、ヨチヨチと来た道を引き返していく。
フリフリお尻が可愛い。
ここ最近、アヒルちゃんたちがしれっと喋ることが増えている。
だけど、リノアちゃんに正体を教えてもらったってのもあって、あまり驚かなくなっちゃったんだよね。
神獣様(グリフィンだっけ?)だったら当然だよな……くらいに軽く受け止めちゃってる。ある意味慣れみたいなものなのかな?
というかモチってば、わざわざお金のことを指摘するために来たのか?
なんだかお母さん……というより、奥さんみたいな感じになってきたな。
どこか静流さんと似た雰囲気を感じる……。
僕もいずれ、勘吉さんみたいに尻に敷かれるのだろうか。
モチのフワフワお尻にふんづけられる僕。
それはそれで、幸せなのかもしれない。
「……まぁ、いいや。とりあえずハンモックを設置しよう」
庭の裏口を出て、畑へ向かう。
いい感じのスペースに、手頃なサイズの木が2本あった。
実に用意周到すぎる。密かにおじいちゃんが「ここにハンモックを設置するのじゃ!」って、用意してくれたと睨んでるんだよね。
というわけで、同封されていた設置方法の説明書を参考に、ハンモックの設置をはじめる。
樹皮を傷つけないようタオルで保護して、ロープを巻きつける。
そこにハンモックを引っ掛ければ完成。
う~ん、実に簡単。
ほんの10分程度で、理想的な弛みがあるハンモックができあがった。
幅の半分程度の高さが最適って書いてあったけど、本当にいい感じだね。
さらに、追加で張ったロープの上に布状の
日除けや虫よけになって、快適度がグンと増すってわけ。
春も終わりかけて蒸し暑い日が増えてきたし、今の季節にはピッタリだ。
「お、良い風」
気持ちが良い風が通り抜けていく。
その風に後押しされるように、二度寝の欲求がむくむくと湧き出てきた。
「では、堪能させていただきましょうかね」
寝たいときに寝る。
これぞ、山暮らしスローライフの醍醐味。
ちなみにハンモックでは、水平に寝るんじゃなくて垂直……つまり、ブランコに乗るようにすると良いんだって。
ハンモックにあこがれていたとき色々な本を読んで調べたから、そういう知識はバッチリなんだよね。
「よっ……と」
恐る恐るハンモックにお尻を預けようとしたんだけど、ちょっと難しい。
バランス感覚が必要っていうか……。
くるんと後ろに倒れちゃいそうで怖い。
「あわ、あわわわわ!?」
案の定、バランスを崩してしまった。
やばい! 後ろに倒れちゃう!
「ぐわっ!」
「くわわっ!」
「がー!」
颯爽と白い影が飛び込んできた。
アヒルちゃんズである。
まさか助けに来てくれたのかっ!?
──なんて感激したのもつかの間、好奇心旺盛なテケテケを先頭に、僕の背中をタタタッと駆け上り、3羽同時にハンモックにイン。
「くわ~っ」
ハンモックから落ちてしまった僕と入れ替わるように、スッといい感じで収まるテケテケたち。
ドヤ顔しているように見えるのは気のせいだろうか。
特にモチさん。
てか、さっき「そんなの買って大丈夫なんか!?」みたいな雰囲気だったくせに、真っ先に堪能するなんてひどくありません?
「頑張って設置した僕より先に堪能すな」
「ぐわ~っ」
「がーがー」
「……すぴーっ」
くそ……幸せそうな声を上げやがって。
モチに至っては、すでに寝息を立ててるし。
しかし、とアヒルちゃんたちを見て思う。
風に揺られるハンモックに並ぶ、大福餅みたいに丸まった白い塊。
ん~、何だろうこの光景。
色々と歯がゆいし悔しいけど、すごく……すごく可愛いです。
「くそっ、くそっ!」
スマホを取り出し、パシャパシャとシャッターを切りまくる。
ま~た可愛いアヒルちゃん写真が増えちゃったよ。
ここ最近、僕のスマホがアヒルちゃん写真に占拠されつつある。
1日20枚くらいのペースで増殖しちゃってるんだよね……。
そろそろ写真集でも作っちゃう?
多分、1日中眺めてそう。
「……ていうか、そろそろ降りてくれないかな? 僕もハンモックを堪能したいんですけど?」
「……」
無反応。
アヒルちゃんたちは、ハンモックから一向に降りようとしない。
それどころか、テケテケやポテもコクコクと船を漕ぎ始める始末。
「……仕方ない。満足するまで待つしかないか」
ハンモックはいつでも楽しめるし。
悲しいけれど、コレが現実なのよね。
こいつらにとって僕は飼い主っていうより、餌をくれたり撫でてくれる使用人って感じだもんな。
神獣巫女ならぬ、アヒル
はい。精一杯、尽くさせていただきます。
すっかり眠ってしまったアヒルちゃんを軽くモフらせてもらい、ちょっと畑を見にいくことに。
毎日恒例の野菜ちゃんたちの成長チェックだ。
「雑草なし。害虫なし。病気なし……うん、みんな健康でよろしい」
どの野菜ちゃんも成長著しいけれど、中でもトウモロコシがいい感じに大きくなっている。
収穫は夏なんだけど、そろそろイケるんじゃなかろうか。
「トウモロコシを食べるなら、やっぱり醤油とみりんを付けた屋台風焼きモロコシだよね~」
屋台の焼きトウモロコシって、異様に美味しいよね。
トウモロコシは初収穫だし、豪快に焼いて食べよう。
アウトドア用のコンロを買うのもいいかもしれないな。
神埼さんやリノアちゃんを呼んで、バーベキューをやってみたりとか。
涼しい風が吹く山の中でバーベキューをして、お酒を飲んで、ハンモックに揺られてお昼寝をする……。
想像しただけで楽しそう。
なんて妄想にふけりながら庭に戻ると、タヌキの姿をした神獣様が来ていた。
僕に気づくと「ちょっと撫でて?」とすり寄ってくる。
「し、しかたないな~」
最近はこうやって撫でてとせがんでくる神獣様が増えてきているんだよね。
けど、本来なら神獣巫女でない者が神獣様にふれることは禁忌みたい。
僕は「とある事情」で、特別に許可をもらっているんだけど。
というわけで、軽く撫でる。
うわっ、超フワフワ。
ちょっとだけ力を入れると、毛の中に手のひらが埋もれていく。
気持ち良すぎる。
これぞモフモフの極みって感じだよね。
「うり、うりうり……」
「きゅっ」
全身をナデナデしていると気持ちよくなったのか、タヌキさんがゴロンと横になりお腹を見せてくる。
そうか、そこを撫でて欲しいのか。
ほうほう、こっちの毛もなかなかのお手前ですな。
調子に乗ってしばらく撫でていると、みるみる毛艶が良くなってきた。
飼い主に愛されている猫ちゃんは毛並みがピカピカになるっていうけど、ああいう感じでツヤが出てきたっていうか。
だけど、毎日このタヌキさんを撫でているわけじゃない。
何を隠そう、僕の手のひらから神域と同じ効力が出ちゃっているのだ。
これがリノアちゃんから神獣様を撫でて良いと許可を得るに至った事情。
リノアちゃんは確か「神気」とか言ってたっけ?
僕の体が神域に影響されて神域化しちゃったとかなんとか。
つまり、僕が撫でると敷地の効力と合わせて2倍のスピードで毛艶が良くなるってわけだ。
そういえば以前にシカの神獣様が、僕の料理に神域の力を感じるとか言ってたけど、あの頃から出ちゃってたのかもしれないな。
料理が美味く感じるのは、僕の腕が上がったわけでも山の水のおかげでもなく、神域の力だったってわけだ。
「しかし、どうしてこうなっちゃったのかなぁ?」
タヌキさんを撫でながら、改めて思う。
初めはそんな馬鹿なって思ってたけど、こうして実際に神域効果が発動してるわけだから、信じるしかないよね。
今まで他人に影響されやすい性格だってのは自覚してた。
引っ越したばかりのマンションなのに、もう何年も住んでるような感覚になっちゃったり、付き合ってた恋人に好きなものが影響されまくったり。
だけど──まさか神域にまで影響されちゃうなんて。
これじゃあ「移動型神域」じゃないか。
……あ、それ、ちょっとカッコイイかも。
「とはいえ、神獣様を癒せる以外にこれといって変化はないんだけどね」
すんごい力を発揮して大木をぶった切るとか、凄い魔法を使えるようになったなんてことはない。
強いて言うなら、神獣様に前以上に懐かれちゃうようになったくらい。
けど、可愛い神獣様を合法でモフれるのは役得だよね。
それは結構ラッキーなのかもしれない。
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《あとがき》
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