第21話
勘吉さんからLINKSのメッセージが来たみたい。
「ふむふむ、明日の山の見回りは15時からか。了解です……っと」
タプタプ。シュポッ。
すぐに勘吉さんから「本当に大丈夫?」と返ってきた。
同時にモチがどこか不安そうに僕の顔を見る。
「……くわっ?」
「あはは、何だよ? もしかしてモチも心配してくれてるの? 大丈夫だよ。ただの山の見回りだし」
「くわぁ……」
こいつは本当に優しいヤツだなぁ。頭をナデナデ。
勘吉さんから来た「山の見回り」というのは、町の消防団がやっている防災活動のひとつらしいんだけど、それを手伝うことになったんだよね。
と言っても、勘吉さんから依頼されたってわけじゃない。
2日前、勘吉さんから「御科岳でクマやイノシシみたいな危険な動物の目撃情報が頻発しているから、アキラくんも注意して」と連絡が入ったんだけど、そのときにこっちから見回りのお手伝いを申し出たのだ。
以前に静流さんから消防団への入団を勧められてしばらく考えたんだけど、やっぱり正式に所属するってのはちょっと厳しいと思う。
決められた役割とか与えられちゃったら、また体調を崩しそうだし。
だけど、簡単なお手伝いならできそうだと思ったんだよね。
地域貢献……なんて偉そうなことは言わないけど、多少は町の人たちと関わっていかなきゃだし。
「しかし、危険動物かぁ……ちょっと怖いよね、モチ」
「ぐっ?」
不思議そうに首をかしげるモチちゃん。
キミたちには怖いものとかなさそうだよね。羨ましい。
明日の見回りは、動物避けの柵が壊れてないか確認してまわるみたい。
その程度で良いのかってちょっと不安になったけど、何より大事なのは「ここは人間が住んでいる場所だ」って意思表示することらしい。
山の動物は人間の匂いに敏感なんだって。
ただ、見回りの途中で危険動物を発見したら威嚇して追い払わないといけないっぽい。ちょっと怖い。
できれば不意な遭遇は避けたいところだよね。
勘吉さんに「大丈夫です。見回り頑張ります」と送ってから、畑を後にする。
「あれ?」
と、裏口が開いていることに気づく。
庭に入ると、松の木の下でごろんと横になっている白狼さんの姿があった。
あ、ドラゴンさんもいる。
「こんにちは」
「……おお、アキラ様。ごきげんよう」
白狼さんが「くわぁ……」と大きなあくびをして、大きく伸びをする。
ドラゴンさんはチラッと片目を開けて、ぶふっと鼻で返事をした。
「今日もおふたりだけなんですね」
「そうですね。アキラ様の件は皆に伝えているのですが、まだ警戒している者も多くて」
「なんだかすみません。僕がここに住んじゃったばっかりに」
「……えっ!? いえいえ! アキラ様のせいではありませんよ! 皆が臆病なだけですから! 放っておけば、そのうちやってくると思います」
くぅん……と申し訳なさそうな声をあげる白狼さん。
まぁ、そうだよね。
急かす必要もないし、皆のペースで来てくれればいいか。
丁度、明日勘吉さんと山の見回りがあるし、タイミング的にはバッチリじゃないかな?
一応、白狼さんにも伝えておこう。
「実は明日家を留守にするんですけど、ご自由にくつろいでくださいね」
「承知しました。何かご用事が?」
「そうなんです。山の見回りのお手伝いに──あっ」
ふとそのことに気づく。
そう言えば、白狼さんって御科岳に住んでるんだよね?
最近頻繁に目撃されてる危険動物について知ってないかな?
「あの、ちょっとお伺いしたいんですけど、この山に危険な動物っています?」
「え? 危険な動物ですか?」
「はい、最近、山でクマやイノシシの目撃情報が出ているらしくて。それで明日、緩衝地帯に出向いて見回りをするんです」
「ああ、なるほど。そういうことですか」
わふっと元気よく鳴く白狼さん。
しばし何かを思い出すように首をかしげ、続ける。
「しかし、ジェラノに危険な動物はほとんどいないと思いますよ? 私たち神獣を恐れて他の山に移り住んでいるはずですし」
「え? そうなんですか?」
これは予想外の返答だ。
そっか。御科岳には危険動物がいないのか。
確かに、山暮らしを始めてから2ヶ月くらい経つけど、危険動物の目撃情報が出たのって今回がはじめてだよな……。
僕自身、しょっちゅう山の中に入ってるけど見かけたことすらないし。
……宇宙服を来たギャルには遭遇したけど。
「ですが、目撃情報があるのなら再びジェラノに戻ってきた可能性はありますね。もし見かけたら追い払っておきますよ」
「本当ですか? ありがとうございます」
それはすごく助かるな。
神獣様だったらクマとかイノシシ相手でも問題ないだろうし。
「……あ、そうだ。その御礼ってわけじゃないですけど、おやつ食べますか?」
「おやつ?」
不思議そうに首をかしげる白狼さん。
だけど、尻尾がワッサワッサと揺れている。
可愛い。
「ちょっと面白いお菓子を見つけて取り寄せてみたんですよ」
「面白いお菓子」
「そうなんです。食べ方がちょっと独特で……ちょっと待っててくださいね」
実際に見てもらったほうが早いよね。
家の中に戻ってキッチンに向かう。
付いてきたモチが、足元でドタバタと暴れている。
「くわわっ!」
「大丈夫だってば。モチたちの分もあるから」
そんな心配はしなくてもいいから。
収穫した野菜を置いて、冷蔵庫からとある和菓子を持って縁側に戻る。
「お待たせしました」
「……ほほう?」
僕が手にしていた和菓子を見て、白狼さんが目を輝かせはじめる。
「アキラ様、それは何というお菓子なんです?」
「日本の『玉羊羹』というお菓子ですよ」
取り寄せたのは、江戸時代から続いているという超老舗「宝鳥屋」の「玉羊羹」だ。
ゴムに入っている玉状の小さな羊羹なんだけど、爪楊枝でプスッと指してプリッと中身を出すという、なんとも面白い食べ方をするみたい。
見た目だけじゃなく、味も一級品。大きさも食べやすいサイズだし、おやつにぴったりかなと思って買ったんだよね。
「タマヨウカン……なんだか面白い形をしていますね。ぶどうみたいです」
「キュッ?」
ドラゴンさんも気になったのか、のそのそとこちらにやってきた。
「おひとつどうぞ」
「では、お言葉に甘えて……」
僕が爪楊枝をプスッと刺し、出てきた羊羹を白狼さんがパクリと食べる。
「こっ、これは……っ!」
ギョッと目を見張る白狼さん。
「あ、あ、甘いっ! これは大変美味しゅうございます!」
パッタパッタと尻尾を振る。
すんごく嬉しそう。
もしかすると、異世界にはこういうお菓子はないのかもしれないな。
「ぐっ、ぐっ」
「くわっくわっ」
「……あ、テケテケとポテ。おかえり」
丁度、アヒルちゃんズが散歩から帰ってきたみたい。
これは騒がしくなりそうな予感。
「ぐわっ、ぐわっ!」
「はいはい、今出しますから」
ほら来た。
まずはモチに、玉羊羹をひとつ食べさせる。
あぐあぐと咀嚼し、飲み込んだ瞬間、「ぐわわっ!」っと翼をはばたかせはじめた。相当美味しかったらしい。
駆け寄ってきたテケテケとポテにも一つずつ食べさせる。
ドラゴンさんにもひとつあげたところ、興奮気味にドタドタと庭を走りだした。あはは、ちょっと可愛い。
気づけば山から妖精さんたちもやってきていたので、彼らにも一つずつおすそわけ。
「……あっ」
なんてやってると、あっという間に玉羊羹が全部なくなっちゃった。
し、しまった。
僕の分まであげちゃったよ。
こういう失敗、よくしちゃうんだよね……。
だけどまぁ、アヒルちゃんや妖精さん、神獣様たちも大喜びみたいだし、結果オーライってことで。
みんなが幸せなら、OKです。
―――――――――――――――――――
《あとがき》
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