第三章 奇妙で可愛い訪問者
第20話
山暮らしを始めて40日。
あと少しで2ヶ月が経つけれど、本当にあっという間って感じだった。
新しい環境でもすぐ慣れちゃう体質ってのも相まって、もう何年もここで生活しているような錯覚があるし。
とはいえ、驚くようなこともまだまだ多い。
庭にやってくる神獣様がその最たるものだけど、例えば自宅の光熱費が異様に安かったりする。
特別な理由があるってわけじゃなく、早く寝ちゃうからなんだけどね。
布団に入るのは20時。
5時起床。
サラリーマン時代からは考えられない、超健康的な生活だ。
今日も朝から縁側で読書をして、今は畑で農作業中。
勘吉さんほどじゃないけど、日焼けして健康的な見た目になった……ような気がする。
先月、畑に植えたキュウリ、ゴーヤ、トウモロコシはすでに収穫済みで、新しく植えたオクラ、ピーマン、トマトの苗もすくすくと成長している。
すごく美味しそうな実を付けているし、そろそろ収穫の頃合いだと思うんだけど──。
「……前々から思ってたけど、やっぱり成長が速すぎだよね?」
大玉トマトを片手に呆れ顔。
これが、もうひとつの驚くようなことだ。
いや、僕は農家の人間じゃないけど、流石に数日でこんな立派な実が出来ないことくらいはわかるよ?
「……ぐっ、ぐっ」
ピンクのリボンを付けたアヒルちゃんがヒョコヒョコとやってきた。
モチだ。
やっぱりアクセサリーがあると一発でわかって良いよね。
「お、今日も手伝ってくれるの?」
「くわっ」
元気よくお返事。
実に頼りになるアヒルちゃんだ。
こうして毎回手伝いに来てくれるモチには、雑草取りや害虫駆除をお願いしている。
雑草さん、なぜか畑にはしっかり生えるんだよね。
野菜がすくすく成長する理由と関係しているのかな?
ちなみに、テケテケとポテは山の中を散策中。
多分、虫でも捕まえて食べてるはず。
ここで採れた野菜を毎日食べてるんだから、たまには手伝えっ!
「くわっ」
モチが咥えて来た雑草をペッと吐き出した。
「雑草処理ありがとう。トマト食べる?」
「が~、タベル」
「ほい」
食べやすいように小ぶりのトマトを選んで、ヒョイッと投げたら見事に空中でキャッチした。
うまいうまい。
大道芸をやったら結構人気出るんじゃない?
猿回しならぬ、アヒル回し。
「ぐわわっ!?」
「いてっ!?」
いきなり突っつかれてしまった。
怒ってるのか、プリプリと尻尾を振ってる。
まさかコイツ、日本語を話せるだけじゃなくて心の声も聞けるのか!?
ううむ。これは滅多なことは考えないほうが良いかもしれない。
モチに「失言したお詫びにもう一個トマトを頂戴」とツンツンされたので、今度は中くらいの大きさのトマトをあげた。
「あぐ、あぐあぐ……」
「あはは、すごく美味しそうに食べるなぁ」
実に良い食べっぷり。
神崎さんから貰ったその可愛いリボン、汚さないようにね?
モチの食欲を見てたら、僕も食べたくなってきた。
葉の下に隠れていたドデカいトマトを取って、思いっきりガブリ。
弾力がある皮の下から、果汁が溢れ出てくる。
「ううう……ウマいっ!」
思わず歓喜の声。
ぎゅっと濃縮されたトマトの味と、濃厚な甘みが口いっぱいに広がる。
リーマン時代はそうでもなかったけど、山暮らしをはじめてから野菜好きになっちゃった気がする。
ここで作った野菜がすごく美味しいってことだよね。
子供の野菜嫌いってよく耳にするけど、こういう甘くて美味しい野菜を食べさせたら解決するんじゃないかなぁ?
「えっへっへ、もうひとつ食べちゃお」
これもかなり大きいトマトだ。
大玉トマトっていう品種だから大きいトマトができるんだろうけど……それにしてもデカい。
「もしかして、これも神域の力のおかげとか?」
「くわっ」
モチが返事をした。
そうだよって言われた気がする。
だよね?
この前、白狼さんが「神域には治癒力の促進効果がある」って言ってたし、成長促進効果があっても不思議じゃないよね。
その白狼さんだけど、あれからほぼ毎日のように庭にやってきてる。
彼が言っていた他の神獣様たちの姿はまだないけど、きっとそのうちやってくるはず。
一体どんな姿の神獣様たちが来るのか、今からちょっと楽しみだ。
「……なんて話は置いといて、さっさと収穫しちゃおうっと」
あっという間に日が暮れちゃうよ。
トマトのつまみ食いをしながら、オクラ、ピーマンの収穫を続ける。
ピーマンの収穫は急ぐ必要はなさそうだけど、オクラは成長しすぎると硬くなって食べにくくなるみたい。
まぁ、もしそうなっても長めに茹でれば大丈夫っぽいけど、やっぱり柔らかいオクラを食べたいからね。
一通り収穫し、大きめのカゴが一杯になったところで本日の農作業は終わり。
「よしっ、今日はこれくらいにしておこうか」
「くわっ」
土まみれになってるモチの顔を拭いてあげる。
さて、今日は何の料理を作ろうかな?
ベーコンを使ったオクラの肉巻きとか美味しそうだよね。
オクラにベーコンを巻いて、フライパンで焼くだけっていうお手軽料理だし。
けど、ベーコン余ってたかなぁ──なんて思いながら帰ろうとしたとき、シュポッとスマホが鳴った。
―――――――――――――――――――
《あとがき》
ここまでお読みいただきありがとうございます!
少しでも「先が気になる!」「面白い!」と思っていただけましたら、
ぜひページ下部の「☆で称える」をポチポチッと3回押していただければ、執筆の原動力になって作者が喜びます!
フォローもめちゃくちゃ嬉しいです〜!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます