第17話
翌日。
早朝、勘吉さんたちにお礼を言ってお別れし、アヒルちゃんたちと自宅に戻ってきた。
お土産にジャガイモを段ボールひと箱分貰って。
すんごくありがたいんだけど、こんなに沢山のジャガイモ、何に使おう。
昨日教えてもらったジャガイモシリシリは作るとして……あ、そうだ。じゃがバターとか作っちゃおうかな?
ポテトチップスとかも作って、おやつに食べてもいいかもしれない。
「なぁ、お前ら、ポテトチップスとか作ったら食べる?」
「がー!」
「ぐわっ、ぐわっ!」
「タベルぐわっ!」
車から降りてきたモチたちが口を揃えて言う。
よし。モチたちも食べるなら大量に作るか。
ていうか、本当に生活がアヒルちゃんファーストになってるよなぁ。
そのうち僕ひとりでソファーで寝ることになるかも?
寒い夜とかモチの抱き枕が最高なんだけどな……悲しい。
少し鬱々となりながら、重い足取りで庭に入ろうとしたんだけど──。
「……あれ? 開いてる?」
閉めていたはずの裏口が開いていた。
昨日留守にしていたし、白狼さんが来たのかもしれない。
「昨日は留守にしちゃってたし、今日は美味しいお肉を出してあげようか……うおおおっ!?」
裏口をくぐった瞬間、変な声が出ちゃった。
だって、庭に白い肌のでっかい変な生き物がいたんだもん。
庭の松の木の下、木陰に寝っ転がっていたのは──どデカいトカゲさん。
いや、違うな。
背中に翼が生えてるし、絶対トカゲじゃない。
もしかして、噂のドラゴンさん?
「え? ウソ?」
目をゴシゴシして、もう一度見る。
背中に生えた翼。
白い鱗。
え? マジで?
マジでドラゴンなの?
「どどど、どうしよう……!?」
ぶわっと背中に汗が吹き出てきた。
勘吉さんに連絡したほうがいいかな?
でも、連絡したところで困らせちゃうだけだよね?
こういうのって警察とか役場に電話したほうがいいんじゃ……?
「……しかし、気持ちよさそうに寝てるなぁ」
裏口から様子を伺ってるけど、白いドラゴンさんはピクリとも動かない。
ただ、のんびりスヤスヤと寝てるだけ。
危険な雰囲気は全くしない。
「がー」
後ろからやってきたモチたちが、ヨチヨチと並んでドラゴンさんのそばまで歩いていく。
アヒルちゃんズに怯えてる雰囲気は微塵もない。
むしろ、興味津々といった感じ。
う~む。モチたちが警戒していないなら安全なのかな?
なんて思った矢先。
あろうことか、テケテケがドラゴンさんを突っつきはじめた。
「ぐっ、ぐっ、ぐっ」
「ううぅおぉぉいっ!」
おまっ、こらっ!
好奇心旺盛なのは良いことだけど、それはダメだろっ!
慌ててテケテケを抱きかかえる。
だけど、ドラゴンさんはグースカ寝たまま。
全く起きる気配はない。
それほど居心地が良いのか、それとも疲れているだけなのか……。
何にしても、良かった。
「し、しかし、不思議な生き物だなぁ……」
テケテケを抱きかかえたまま、まじまじとドラゴンさんを見る。
鱗はトカゲというかワニというか、ゴツゴツしててカッコいい。
真っ白いアルビノみたいな見た目だからか、神々しさすら感じる。
だけど、両手の鋭い爪が見えた瞬間、背中がスッと寒くなった。
「い、一応、神埼さんに確認しとこっかな?」
違うドラゴンさんだったら大変だし。
とりあえず写真を撮ってLINKSに送ってみよう。
そう思ってスマホを取り出し、シャッター音を鳴らしたときだ。
「……んきゅっ!?」
アヒルちゃんが突っついても微動だにしなかったのに、小さな電子音にビックリしてドラゴンさんが飛び起きた。
「……」
「……」
固まったまま、しばらくじっと見つめ合ってしまう僕たち。
「こ、こ、こんにちは」
「ぎゃおっ!?」
甲高い悲鳴を挙げたドラゴンさんが、ドタバタと暴れだす。
慌てて裏口のほうに走っていったけど、閉められていたので勢い余って扉に頭をぶつけ、今度はこっちに走ってくる。
だけど、こっち側に出口はない。
完全にパニック状態に。
「わ、わ、わ!?」
「ぎゃお!? ぎゃおぎゃお!?」
ドタドタドタドタ。
バタバタバタ。
ドラゴンさん、悲鳴をあげながら庭を縦横無尽に走りまくる。
それを見たモチたちが「お!? なんだ!? 追いかけっこか!?」と、嬉しそうに追いかけはじめた。
逃げるドラゴンさん。
追いかけるアヒルちゃん。
それを呆然と眺める僕。
「ぎゃおおおおん……ぎゃおおおおん……」
「くわっくわっ」
「がーがーがー」
「がっ、がっ、がっ」
「いや何この状況?」
ちょっと、みんなやめな?
ドラゴンさん、ガチで怖がってるじゃん。
ビビリまくってるドラゴンさんが、ついに思いっきり壁に激突した。
ズドゴッと、ちょっと心配になっちゃう音が鳴り響く。
壁に大きな穴がぽっかり開いちゃった。
「ぎゃお……っ」
だけど、何事もなかったかのようにドスドスドスと走り去っていく。
怪我はないみたいだから良かったけど、翼があるんだから空を飛べばいいのに。相当テンパってたんだろうな……。
「くわ~……」
テケテケが僕の傍で、唖然とした雰囲気で壁の穴を見つめている。
いや、ぽかんとしてるっていうより、遊び相手がいなくなって残念がっているって表現が正しいかもしれない。
追いかけっこ、楽しかったよね。
相手はガチでビビってたけど。
しかし、頑丈な作りの壁が、体当たり一発で壊れちゃったな。
これ、結構マズくない?
「ううむ、やっぱり危険な動物だったのか?」
だってほら。
何ていうか……イノシシより突進力、ありそうじゃない?
―――――――――――――――――――
《あとがき》
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