第3話

 山暮らし4日目。


 早朝に荷物が届いた。


 ネットショッピングサイト「Mamazon」で買った水鳥用のペレットだ。


 家畜用じゃない、ペット用のペレット4キロを5袋取り寄せた。


 家畜用はカロリー過多らしく、デブっちゃうとスローライフマニュアルに書いてあったんだよね。


 まぁ、デブっちゃったアヒルちゃんも可愛いとは思うけど。


 今回はMamazonで取り寄せたんだけど、次からは近くのホームセンターで買うつもり。だってほら、送料もばかにならないでしょ?


 てなわけで、同居することになった3羽のアヒルちゃんに早速朝ごはんをあげようかと思ったんだけど──。



「すぴ~っ……すぴ~っ」



 3羽のアヒルちゃん、リビングのソファーの上で丸くなって爆睡中。


 このソファーの上がお気に入りらしく(というか、元々そこが定位置だったのかも?)、3羽揃って丸くなってる。


 見た目は完全に大福餅。


 だけど、撫でてみたら背中はツルツルしてて、胸の部分はふわふわだった。


 嫌がる様子もなく、むしろ「もっと撫でて」と尻尾をフリフリしていたので、結構気持ち良かったのかもしれない。


 羽の中に手を突っ込んだら、めちゃくちゃ突っつかれたけど。


 調べたところ、そこはアヒルちゃんの「神域」で、気を許した相手じゃないと撫でさせてくれないのだとか。残念。


 もう少し仲良くなったら許してくれるのかな~なんて淡い期待を抱きつつ、爆睡中のアヒルちゃんを横目にキッチンへと向かう。


 今日は特に予定は無いのでダラダラと惰眠を貪ってもいいんだけど、その前に腹ごしらえだ。


 アヒルちゃんもそのうち起きるだろうし、準備だけしておこう。


 オーブン型のトースターで僕の朝食用のパンを焼いている間に、アヒルちゃん用のお皿に届いたばかりのペレットを入れて、野菜を混ぜる。


 キャベツ、コマツナ、ニンジン、トマトなんかを適当に。



「……てか、僕のご飯より豪華になってない?」



 この家の主人は、人間からアヒルちゃんになったのかもしれない……。


 だけど、なぜか悪い気はしない。


 だってほら、可愛いんだもん。


 推しに貢ぐってこんな感じなのかな?


 アヒルちゃんたちの朝ご飯を持って、リビングに戻る。


 目を覚ましたアヒルちゃんたちが、何やらリビングを物色中だった。


 アヒルちゃんって探しものが好きみたいで、脱いだ服とかタオルの下にくちばしを突っ込んでガサガサ漁るんだよね。



「おはよう」

「ぐわっ」



 声をかけると返事をしてくれるのも可愛い。


 撫でたい欲求に駆られて背中にそっと触れたけど、嫌がる様子はない。


 頭をナデナデ。


 ふわふわしてて気持ちいい。


 うん、やっぱり可愛いなぁ。



「お前らって、本当に人懐っこいよな。おじいちゃんのペットだったの?」

「くわっ!」

「いてっ!」



 な、何で突っつくの!?


 違うってこと!?


 それともやっぱり触るなってことなのかな!?


 うう、少しだけ心が通じ合えたと思ってたのに……。


 なんてショックを受けてる僕をよそに、アヒルちゃんたちはあっという間に朝ご飯を平らげた。


 すごい食欲だ。


 これじゃあすぐにホームセンターにペレットを買いに行くハメになるかもしれない。



「……一度、ホームセンターに行っておくか」



 餌がなくなったけど、ホームセンターの場所がわからないんです~とか言ってたら、また突っつかれそうだもん。


 というわけで、いざホームセンターに行こうと駐車場へと向かったら、アヒルちゃんたちが僕の後を着いてきた。



「……え? 何?」


 もっと餌が欲しいのかな?


 でも、やり過ぎは良くないってマニュアルに書いてたし。



「ぐわっ」

「……え?」

「わっ! くわわっ!」

「わっ、わっ」



 3羽のアヒルちゃんが、軽トラのほうにくちばしを向ける。



「もしかして、一緒に行くってこと?」

「くわっ」

「くわ!」

「ぐわ~っ!!」



 同時に頷くアヒルちゃんズ。


 すごい。人間の言葉を理解できるなんて賢すぎる。


 この子たちって、やっぱりペットとして育てられたアヒルちゃんで──。



「……いやいや、待って? 冷静に考えておかしいよね?」



 つい場の空気に流されかけちゃったけど、ありえないでしょ。


 いくら賢いって言っても、アヒルちゃんだよ?


 人間の言葉を理解できるわけないし。



「だけど、理解してるっぽいしなぁ? 僕の言葉、わかってるよね?」

「くわっ」



 ほら。


 ウンウンって頷いてる。


 え? もしかしてアヒルって、犬猫より頭が良いの?



「……ま、いいか。じゃあ行こっか」

「くわっ」



 助手席のドアを開けると、アヒルちゃんたちが順番にぴょんと飛び乗ってきた。シートベルトは……流石に自分ではやらないみたい。


 そりゃそうだ。


 暴れると危険なので僕が3羽まとめてシートベルトを締めたんだけど、嫌がらず大人しくしていた。


 シートベルトに拘束された、3つの大福餅──じゃなくてアヒルちゃん。


 な、なんて破壊的な可愛さだ!


 思わず写真を撮っちゃったよね。


 いずれ僕のスマホがアヒルちゃんの写真だらけになりそうな予感……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る