勇者の娘は、厄災《いもうと》に恋をした。2

 少女をつれて屋敷にもどってきたミオは身体が入れ替わっていることを隠すため自室に隠れて生活することにします。自分の代理として貴族令嬢の役目をこなす少女『コタ』は持ち前の快活な性格で冷え切っていた周囲との関係を修復していきました。


 現実から逃れるため裏山で魔術の修練に明け暮れるミオ。そんなミオをコタは全肯定しました。自分自身の境遇や生き方を蔑むミオに無邪気な愛情と尊み尊敬そして嫉妬と独占欲をぶつけたのです。


 ありのままに自分を好いてくれるコタへの憧れと彼女のように強くなれない自身への激しい苛立ち嫉妬に揺れるミオ。そして愛を知らず独善的だったコタもまたミオから多くのことを学ぶのでした。


 自分を救えるのは自分。義務で人は救えない。正しい正論はない。互いに受容と拒絶をくりかえしながら自虐と渇愛のままに生きてきた二人は少しづつ心を通わせていきました。


 樹海に放棄されていた古い洋館『避暑の館』でミオとコタそして彼女の縫いぐるみにしてAIの『メイ』は樹海に巣食う少女の怪異『ハギレ』たちと交流しながら平穏で満ち足りた日々を送っていたある日。


 近くの街に出かけた先で自分が生まれる前にいた実姉『リタ』の形見だという水のペットボトルを大事そうに持ち歩き欠かさず水分補給をする姿をみたミオは彼女を喜ばせたくなり新しい水筒を買ってプレゼントしようと思い立ちました。


 しかし。運命のときが来ます。互いに慕いあう友達ができて生きる希望を見い出したミオ。妹炉不全症の進行によってエーテル撚糸核が決壊し大量の水を吐血したコタは倒れます。


 体内で正常な魔力を紡績できなくなったことで身体は氷のように溶けて青いスライム状の素体を露わにし不正魔力の停滞と浸潤で腹部が腫れこれ以上の稼働が困難な状態でした。


 ここで初めて自分の身体を奪ったコタの恩返しという意味を理解したミオは言葉を失います。彼女の選択。それはあまりに重く辛く。病で倒れた親友たちのことを思い出すミオは気づいてしまいます。


 自分の元を去った長姉の優しさ。そして余命いくばくの身であることを薄々察していながらコタを愛しそれを背負わせた自分の醜さに。


 けれど。もう自分を裏切りたくない。誰も失いたくない。意を決するミオはコタが大切にしていたボトルに液化した彼女の身体を目一杯いれて夜の街を走りぬけました。


 罪悪感で遠ざけていた次姉に助ける方法を尋ねるとオミナヤマ神社に満たされている高密度エーテル滓を妹炉に注ぐことで短時間だけ身体の再構築が出来るかもしれないというのです。ミオはコタによって取り替えられた自分の身体を元に戻すことを決意しました。

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